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オリンピアンズ・ストーリー

オリンピアンズ・ストーリー

この企画は日本代表としてオリンピックに参加したオリンピアンに、得意分野のお話をご執筆いただくページです。 第2回は、1992年のバルセロナと1996年のアトランタ、オリンピックで2大会連続銀メダルを獲得した田辺陽子さん。
現在は日本大学で教鞭を執る傍ら、JOCアスリート専門委員会委員、日本アンチ ドーピング機構(JADA)理事、世界アンチ ドーピング機構(WADA)アスリート委員会委員など、多方面で活躍中。田辺さんからは現役アスリートとアスリートを目指すみなさんに向けて「アンチ ドーピングの輪を広げる」ことについてのストーリーをお届けします。

- Play Trueの輪を広げよう -

スポーツの価値を上げるためのアンチ ドーピング
WADAアスリート委員としての活動

田辺写真2003年8月に日本アンチ ドーピング機構(JADA)は、世界アンチ ドーピング機構(WADA)の規定に準じたアンチ ドーピングの施策を日本国内へ導入し、実施することになりました。これによって、日本国内のアンチ ドーピング活動も世界基準で行われるようになったことは、アスリートのみなさんはご存知だと思います。

WADAの内部には、医学関係や教育倫理の委員会などがある中で、今までアスリートの委員会がなかったので、アスリートからの意見を収集する機会を作ろうということになりました。それは、同じアスリートからのアンチ ドーピングに関する意見の方が、他のアスリート達も問題をより身近に感じるからです。

私たちアスリート委員の基本的な仕事は、WADAが提唱する「Play True」、フェアプレイの精神を広め、スポーツの世界をクリーンな状態にするための活動です。選手が率先してアンチ ドーピングに対する意識を高めるための啓発活動が、主な仕事となります。委員の中には、中国のスケート ショートトラックのヤン選手という現役の選手もいます。現役選手がアンチ ドーピング活動に積極的に関わるのは、その選手自身がクリーンだという証明にもなるので好ましいことです。

田辺写真ではなぜアンチ ドーピングなのでしょうか。アスリートのドーピング行為は、アスリート自らが自分が行うスポーツの社会的地位を下げてしまうことになるからです。
ドーピングが横行すれば、だれもが「みんな薬の力で強くなったんだ、勝って当たり前じゃないか」と思うはずです。それでは、スポーツの魅力が廃れてしまうでしょう。だから選手もスポーツの価値を上げるため、アンチ ドーピングの輪を広げていくことに、プラス思考で積極的に参加してほしいのです。それが結局は自分達のいる場所をきれいにし、ファンを増やしていくのです。

草の根レベルから啓発活動を

一方で、なぜスポーツをするのかというと、それは勝ちたいからです。ただ単に楽しければいいかというとそうではありません。勝ちたいという気持ちは大切にしなくてはいけませんが、もし自分が信頼しているAさんが「この薬を飲みなさい」と言い、Bさんは「やめなさい」と言う状況になったら、あなただったらどうすると思いますか。期待に対するプレッシャー、勝ったときの社会的評価、周囲のスタッフのことなどを考えると誘惑が多いことでしょう。
でもそこで、薬を使ってまで勝ちたいかどうか。私自身は、モラルの問題だと思うのです。例えば、ドーピングをしてメダルが取れたとしましょう。でも、心の中には嘘をついている自分がいるのです。その気持ちをずっと持って生きていくことに、耐えられるのでしょうか。その道しか選択肢はなかったのだろうかと思ってしまいます。プレッシャーや誘惑をはね退ける精神的なコントロールができる人が、真のトップアスリートと呼べるのです。

田辺写真たまに、勧められるまま知らないで飲んでしまった、という話も聞きますが、それは知識がなさすぎです。誰かに無理矢理飲まされるわけではないのですから。食べ物に関してはいいものか悪いものかを自分で判断できるように、選手自身が自己責任で考える必要があります。

競技団体によっては、禁止薬物に関する講習会を行っているところもありますが、今はスポーツ界も低年齢化していますから、ドーピングはあなたのすぐ近くにあるのですよということを、幼い頃から知ってもらう活動も必要です。子供たちは、タバコが害だということを何となく知っています。それと同じようにアンチ ドーピングも小さいときから教えていけば、時間はかかるかもしれませんが、徐々に浸透していくはずです。

現在JADAでは選手や子供たちへの教育のために、日本独自の本や冊子などの教材を作る努力をしています。このような教材は選手にとって使いやすく、わかりやすいものである必要があります。WADAの刊行物は若い人にも受け入れられるようなおしゃれな体裁になっていましたので、参考にして日本の選手たちにも気軽に手にとってもらえるものを作っていきます。

また「アンチ ドーピング機構」なんていうと、とても堅いイメージですが、WADAのオフィスはソフトな雰囲気で、まったく堅苦さがありませんでした。
私は草の根レベルの活動として、トップアスリートが自分の所属していたクラブに出向くなどして、アンチ ドーピングの話をするといったことを計画中です。

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