コラム/インタビュー

アスリートメッセージ

アスリートメッセージ

相手を意識するのではなく、自分が納得できる演技を目指すしかない。

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2007年11月、第25回トランポリン世界選手権大会
男子個人で銅メダル獲得
(写真提供:フォート・キシモト)

トランポリンは10種類の技を連続して演技し、得点は5人の審判が10点満点で採点したうち、上下ふたつをカットした得点合計(30点満点)に、各種目ごとの難易度の合計点が加算される。そのため世界で通用するようになるには、高い難易度の技の構成が必要になる。

トップ選手の場合、ひとつの演技構成を作りあげるためには少なくとも30前後の技を完璧にできるようにして、その中から得意技や流れをうまくつなげられる技を選び出して自分の演技を構成するのが普通だ。上山が自分でも納得がいく、おおよその自分の理想とする演技構成のベースができたのは高校2年生の時だった。それと同時に日本代表にも選ばれ、ワールドカップシリーズにも出場するようになった。

「そこでまた新しい世界を知り、自分の実力と世界とのギャップを実感しましたね。2002年の全日本選手権の個人で初優勝はしたけど、世界の舞台では決勝にも残れないわけですから。シンクロではたまに残れるけど、個人ではまったくダメ。それだけ日本のレベルは低かったから、『自分は日本一だ』なんて言って安心してるような状況じゃなかったんですよ」

そんな世界の厳しさを改めて知らされたのが、アテネオリンピックの出場枠獲得がかかった2003年の世界選手権だった。前評判では女子は危ないが、男子のオリンピック出場枠の獲得は大丈夫だろうと言われていて、最終選考会で1位になった上山には期待が集まった。だが19歳だった彼は、それを気にし過ぎてプレッシャーを感じ、思い切った演技ができずに予選落ちしてしまい、出場枠を獲得できなかったのだ。

「それまでもずっと決勝へ残りたいと思っていたけど、世界の舞台では失敗はしないのに自分の実力をなかなか発揮できないのが続いていたんです。結局は失敗したくないから守りの姿勢に入って演技をしてたんですね。だから結果的に、審判にも評価してもらえない。世界選手権が終わって『何かを変えなきゃいけないな』と思った時、技の構成を直ぐに変えることはできないから、まずは気持を変えなくてはいけないのではないかという結論になったんです。失敗してもいいから思い切ってやろうという気持に切り換えた。今考えると、そこでの心の成長が一番大きかったと思いますね」

もしスンナリとアテネへ出場していたら、その後のワールドカップでも決勝に残るまでにはなっていなかっただろう、とまで上山はいう。

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練習風景。大阪体育大学にて。

その大きな挫折感が、彼を次のステップへと導いた。翌2004年の3月、ドイツのアーヘンで開催されたワールドカップではじめての決勝進出を果たし、世界と戦えるという手応えを得たのだ。

トランポリンでは決勝へ進出するという意味は大きい。予選は流れ作業のように行われて名前さえ呼んでもらえないが、決勝では最初に選手が名前をコールされる。だから決勝の常連になれば審判にも名前や顔を覚えてもらえ、日本人選手に対する印象も変わってくる。そんな積み重ねが世界選手権のメダル獲得や、ワールドカップシリーズでの優勝、現在の世界ランキング1位という実績へとつながった。そして更には、上山だけでなく彼と同じジュニア強化の第1期生である外村哲也や長崎峻侑などの活躍にもつながっている。

「僕の性格なのかもしれないけど、今は世界ランキング1位でも、それは意識してないんですよ。それはあくまでも過去の試合の結果だし、本当の能力とは別物だと思うんです。トランポリンというのは、ふたを開けてみないと誰が勝つかわからない競技だし、いくらランキング1位だといっても、今シーズンのワールドカップで2位、3位はあるけど優勝はないという現実もあるんです。それに加え、自分より秀でている能力を持っている選手も一杯いると思うし。だから自分で『1位だ、すごいだろう』とは言えないんですよね」

もちろん調子が悪い時もある。だが調子がよくても最初に微妙なミスを犯してしまってそれを即座に修正できなければ、技を続けるうちにドンドンとズレがでてしまい、演技は大きく崩れてしまう。それほど微妙なものだ。子供の頃から勝ったり負けたりしてきた彼は、トランポリンのそんな難しさを熟知している。

現に今でも、国内大会で負けることもある。周りからは「世界一なのになんで負ける?」という声も出るが、現在のワールドカップ日本代表の4人は、全員が決勝に残る実力をもっているし、メダルを獲ったこともある。彼にとってみれば、今の日本のレベルの高さを考えれば、国内大会でも勝ったり負けたりすることが当たり前のことなのだ。

だから結局は、相手を意識するのではなく、自分が納得できる演技を目指すしかない。「本当に自己満足の世界だと思いますよ」と上山は笑う。逆に言えば、そういう意識をもち続けていること自体が、彼の強さの秘訣だともいえるのだろう。

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