コラム/インタビュー

アスリートメッセージ

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ソロをやって、見えたこと

シンクロを始めた頃の原田は、小谷実可子(1988年ソウルオリンピック銅メダル)に憧れたのがキッカケだっただけに、いつかはソリストにという意識もあった。だが、ひとりっ子で他人と競い合うのがあまり好きではなかった彼女は、プールへ行って同年代の子たちと一緒に練習する楽しさの虜になった。「ひとりじゃないっていうのがすごく楽しくて・・・。ホント、女子校へいくのが楽しくてしかたない高校生っていう気持ちだったんでしょうね(笑)」

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インタビュー中、まっすぐ目を見て話す。


周りのメンバーができるのに自分がそれをできなければみんなに迷惑がかかる。必死に頑張って合わせるしかない。自分ひとりだけの問題なら「出来ないや!」と投げ出してしまいかねないことも、身近にいる目標に追いつこうと思うとチャレンジできる。演技中に苦しくなっても、『苦しいのは自分だけじゃない』と思うと頑張り切ることが出来る。そんな、新しい自分を発見できた競技だからこそ、シンクロが面白いと思っていたのだ。

だが、ひとりだけで泳ぐソロは周りに仲間もいない。原田はしかたなく、何とか気持ちを切り換えて挑んだのだったが・・・。

「ソロをやったことで、ひとりで日本を背負うという責任の重さを知ったし、自分自身を見直すいいキッカケになったと思いますね。私はどちらかというと誰にでも合わせられるタイプだけど、『コレッ!』という個性があるわけじゃなかったんです。で、『私の個性って何?』って考えた時、これまで『パワーだけが取り柄』と言われてきたから、最後まで体を動かして、思い切り見ている人に“元気”を与えられる演技をすればいい。そういう変わったソロもありなんじゃないかな、と思って。本当に個性というものについて考えさせられました」

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2007年5月、日本選手権でのソロ・フリールーティンの演技
(写真提供:アフロスポーツ)


そんな気持ちの成長こそ、金子コーチが狙ったものだったのだろう。正確で力強い演技を出来る彼女が、もっと自分を磨いて個性を出せるようになれば、鈴木と組むデュエットでももっと艶やかな演技が出来るようになる。原田に自己変革の場として与えたのが、世界選手権のソロ出場という試練だったのだろう。コーチは彼女の心の奥深くに潜む、甘えを見抜いていたのだ。

「自分が一歩ステップアップするために与えられた課題だと思うけど、単に『ソロがうまくなったから良かった』ではなく、デュエットやチームにつながるソロだったんじゃないかな、と思いますね。ソロの選手がふたりで組むデュエットというのは他にはないから強みになると思うし、世界選手権のデュエットのフリーには松村亜矢子ちゃんが出て顔を覚えてもらったと思うし。これまでよりも色々な顔が見えてきたということは、チームにとってもプラスになったと思うんです」

日本しかできないことを追求して

原田にとっては北京への大きなステップとなったシーズンだが、チームとしては気持ちを引き締めなくてはいけないという面で貴重な経験をした。それはアジア大会でデュエット、チームともに中国に敗れたことだ。

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練習風景。取材日は、自己練習の日だった。


2004年アテネオリンピックまでは、視線の先にあったのは強敵ロシアのみだった。だが現在はその図式も変わっている。オリンピック種目のデュエットとチームに限れば、2005年世界選手権では1勝1敗だったスペインとの戦績は、テクニカルルーティンとフリールーティンがともに決勝となった今年の世界選手権では1勝3敗と負け越しになった。さらに下の勢力も力をつけてきた。

「先輩たちが守り続けて来たアジアのトップの座を落としてしまったことは、申し訳ないという気持ちはもちろんあったけど、個人個人が『何がダメだったんだろう』と見つめ直すいいキッカケにはなったと思うんです。もちろん、上ばかり見ていて他を忘れてしまったというわけじゃないし、自分たちがやってきたことが間違いだったとは思わないけど、今のままだったら下から抜かれてしまうという危機感は強まりましたね。どの国も死に物狂いでやってくる北京オリンピックは、どの国が勝ってもおかしくないような争いになるというのが、今回の世界選手権でハッキリわかったと思います」

かつては、ロシアチームのスピードと演技者同士の距離の近さを目指したこともある。だが「距離ばかりを追い求めてしまって、他がおろそかになってしまった時期もある」と原田は言う。体が近づき過ぎて怖さを感じ、演技が小さくなってしまったのだ。そこからまた「自分たちの持ち味は何だろう?」と考え始めた。

「今はロシアが素晴らしいとされてるけど、その中でロシアが出来てることを私たちも出来るようにしないと、挑戦者としてはダメだと思うんです。だから、それができるようにした上で、なおかつ、日本にしか出来ないものを探していかなければいけないし、小さな体を大きく見せるためには何をすべきかを追求していかなければいけないと思うんです。日本選手はこれまで、技術の正確さと同調性で世界と戦ってきたのだと思います。だからそこをもっと突き詰めて完璧にしていけば、審判が減点したくてもできないというところまでいけると思うんですね」

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