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アスリートメッセージ

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第28回オリンピック競技大会(2004/アテネ)のクレー射撃、ダブルトラップ種目に日本代表選手として出場した井上恵選手は6人で競う決勝に進出し、3位にわずか2点差で惜しくも5位という成績だった。
6月16日、アテネ大会を目前に控えて行われた福島県二本松で合宿中の井上選手には、さすがに大舞台への準備のために張りつめた緊張感があった。オリンピックへ向けて計算され尽くした練習プログラムは井上選手に「もういっぱい一杯、次の休みにマッサージに行ってリラックスするのが待ち遠しい」と言わせていた。

クレー射撃は、散弾銃(ショットガン)を使って高速で飛ぶ標的=クレーを撃つ競技で、オリンピックではトラップ(男女)、スキート(男女)、ダブルトラップ(男女)の6種目で競われる。ただしこれはアテネ大会までのこと。次回2008年の北京大会ではダブルトラップ女子は種目から外れることが決定している。
1996年のアトランタ大会で活躍した吉良佳子選手のかっこよさに憧れてクレー射撃を、それもダブルトラップだけに集中してきた井上選手にとって、オリンピック初出場のアテネ大会はまさに逃すことのできない大会だったのだ。

射撃にどんなに憧れても、厳しい銃刀取締法がある日本では、資格を取らなければ銃に触れることすらできないことを皆さんはご存知だろうか。また資格を得ることも決して簡単なことではない。
「資格を取るのに手続きや講習で約半年かかりました」という井上選手。衝動に駆られてクレー射撃にのめり込もうとしていた井上選手にとって気持ちにブレーキがかかりそうな半年間だったに違いない。

それではここで、銃の所持許可を取るための手順をご紹介しよう。
1)自分の住所を管轄する警察署の保安課に行き、銃刀取締法に従って講習受講の申請を行い、
2)定められた日に公安委員会の講習を受け、考査に合格しなければならない。
3)考査合格後、実技教習を経て実技検定を受ける。
4)実技検定に合格したら、銃砲所持許可の申請を行う。申請にあたっては、講習と教習の証明書、写真、健康診断書、戸籍抄本、住民票、経歴書などが必要となる。
5)一定期間審査が行われ、その後銃砲所持許可証が交付される。
6)銃砲所持許可証を持って銃砲店あるいは銃の譲渡者に提示し、希望の銃を購入する。
7)その銃器を持って所轄警察署に行き、確認を受ける。同時に火薬類の譲受許可の交付を受け、装弾の購入をする。
この手続きをすべて終わらせて、はじめて射撃場でクレー射撃を楽しむことができる。
ちなみに、井上選手愛用の銃はスペイン製で、部分的に鉄の表面に彫刻が施された美術品のように美しい銃だ。

「日本では厳しい銃刀取締法があるため、欧米のように小さい頃から射撃の競技に出ることはできません。それが自分にとって始めやすい理由の1つでした」と井上選手が言うように、射撃は成人してからでも十分他の選手と一線に並んで闘える競技。
ジュニアから差がついてしまう競技とは異なり、精神的要素を求められるスポーツとはいえ、世界を見渡せば、クレー射撃は老いも若きも男女の別もなく、多くの人々に愛されているスポーツだということがわかる。

トラップ射撃の生い立ちは、古代イギリスに遡る。当時野生の鳥獣は王さまの所有物だったので、王家と貴族しか狩猟を楽しむことができなかった。そこで中産階級の人々が狩猟に憧れて考案したのがトラップ射撃だといわれている。
トラップとは動物を捕える罠のこと。鳩やウズラを罠のような箱に入れ、号令とともに飛び立たせてそれを撃つ「飛鳥撃ち」がトラップ競技の原型で、1750年頃に始まった。やがてイギリスだけではなくアメリカでもこの競技が盛んに行われるようになったが、1866年にボストン出身のポートロックが生き物の代わりに羽毛を詰めたガラス玉を標的とし、機械を使用して放出の角度や高さに変化を与え、競技を面白くする工夫を行った。
1870年頃には射撃をより難度の高いものにするため、薄い皿状の標的が考え出された。この粘土質の焼き物の標的は、よく焼けていないと脆く、焼けすぎると固くて弾が当たっても割れないものだった。
1880年代になって、イギリスのマッカスキーがほぼ現在使われているのと同様の材質の標的(クレー)を考案し、1885年ニューオリンズでこの標的を使った最初のトラップ競技会が行われた。


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