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TEAM JAPAN DIARY

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2010/11/20

競泳、僅差で優勝逃し金9個 さらなる飛躍求められる

文・折山淑美

 

18日に競技が終了した競泳、前回のドーハ大会で16個の金メダルを獲得した日本チームは、今回は9個。中国の24個に大きく水をあけられる結果になった。平井伯昌ヘッドコーチは、2日目の金メダル0で勢いに乗り損ねたと分析する。

 

大会初日こそ、男子200mバタフライの松田丈志選手と男子400m個人メドレーの堀畑裕也選手の金メダルで上々の滑り出しをした。だが、2日目には期待された男子50m平泳ぎと男子100mバタフライ、女子200m背泳ぎで敗れてゼロ。翌3日目には男子100m平泳ぎの立石諒7選手と男子200m背泳ぎの入江陵介選手が勝って勢いがつくかと思えたが、4日目と5日目は男子100m背泳ぎの入江選手と男子200m個人メドレーの高桑健選手が優勝して、かろうじて金メダル獲得をつないだだけで最終日を迎えたのだ。

 

競技最終日、最初に金メダルを獲ったのは男子50m背泳ぎの古賀淳也選手だった。彼は昨年の世界選手権での同種目銀メダリスト。100mでは入江選手に遅れをとって銀メダルに止まっただけに、得意とするこの種目は是が非でも優勝したいところだった。「手でつかむバーの高さの関係でスタート位置がいつもより高かったので、飛び込んでから深く潜ってしまって少しもたついてしまった」というが、底力でねじ伏せて25秒08で優勝を果たした。

 

「100mは良くなかったけど、コーチの先生方から『最後の50mで優勝するのはお前の仕事だから』といわれて気持ちが切り替わりました。最後に何とか優勝し、最低限の仕事が出来たことは嬉しいですね」と、古賀選手は安堵の表情を見せた。

 Tr2010111800852 ガッツポーズを見せる古賀選手(右)(共同)

  

それに続いたのが北島康介選手が故障のために欠場し、日本勢ひとりだけの出場となった男子200m平泳ぎの冨田尚弥選手だった。大きな泳ぎでスタートから飛ばし、50mでは2位に0秒49差をつける余裕のレース。その後も2位以下を引き離し、後続に2秒近い大差を付ける2分10秒36で優勝した。それでも「悪くても28秒台は出ると思っていたから、2分10秒では遅すぎる。ぜんぜんダメです」と悔しそうな表情をする。そして最後の男子4×100mメドレーリレーでは、入江選手、立石選手、藤井拓郎選手、原田蘭丸選手で組んで優勝し、金メダルを9個にしたのだ。

 

前回は金メダル数が中国と16個ずつで並んだから、今回はそれ以上と選手に言っていました8月のパンパシフィック選手権にも出ないでこの大会に照準を合わせていた中国が予想以上に強かったし、2日目で勢いに乗れなかったから選手も『勝たなくては』と硬くなり、持っている実力を出せなかったんだと思います。だから接戦をものに出来なかったんでしょうね。最後の男子メドレーリレーがそれを象徴していると思います。これからは本番で持っている力を出し切れるように、選手もコーチも考え方を改めて、しっかり考えていかなければいけないと思います」

 Tr2010111800855 男子200m平泳ぎで優勝した冨田選手(共同) 

 

今大会の男子4×100mメドレーリレーは、個人のレース結果や持ちタイムをみても日本が絶対的に有利な状況だった。一番手の背泳ぎの入江選手と次の平泳ぎの立石選手で大差を付け、藤井選手がそれを維持して原田選手が逃げきるとう構想だった。

 

だが入江選手は体ひとつ分リードした程度に終わり、立石選手もその差を決定的には開けなかった。バタフライの藤井選手がそれを少しだけ広げて1秒強の差にして最後の自由形の原田選手につないだが、そこから中国に激しく追われてゴール前では0秒09の逆転を許し、3分34秒10の2番目でゴールしたのだ。まさかの2着だった。

 

しかしその後、中国の第一泳者から第二泳者への引き継ぎが早すぎると判定され、日本の金メダルが確定したのだ。もし中国が正当なつなぎをしていれば、タイム的には辛くも勝つという計算になる。だが平井ヘッドコーチが言うように、この大会では接戦で金メダルを落とした種目が多かったのは事実だ。男子100mバタフライの0秒02差を筆頭に、男子50m平泳ぎと男子50m自由形は0秒08差以内での敗戦を喫している。その範囲をもう少し広げれば、0秒67差以内で男女を合わせて実に13種目で金メダルを逃している。

 

そのタイム差はほんのひと掻きや、ひと蹴り。もう少しの執念だけで覆るものでもあるだろう。勝たなければいけない場で勝ちたいと思い過ぎ、硬くなって自分を発揮できなかったが故の競り負け。そんな微妙な心の差が、大舞台になればなるほど勝負を分けるのだ。

 Tr2010111800894 まさかの2着から優勝となった競泳チーム(共同)

 

それとともに平ヘッドコーチが指摘するのは、金メダルを獲った種目でさえも、今季世界最高だった男子200mバタフライの松田選手の記録を別にすれば、世界と比較してレベルが低かったことだ。「優勝記録を世界と比べてみると、金メダルだといっても中身は寂しい。世界記録との距離感を考えていかなければ、オリンピックでは戦えない」と言う。

 

8年前のアジア大会では、北島選手が200m平泳ぎで世界記録を出し、チーム全体を勢いづけた。今回の中国は、金メダルを大量に獲得しただけでなく、最終日の男子1500m自由形では孫楊選手が2001年以来残されている世界記録に後0秒87まで迫るスーパー記録を叩き出した。それもこれからの中国チームを勢いける、大きな原動力になるはずだ

 

それに対して日本チームは、昨年好結果を出してこれからのエースになると期待された入江選手や古賀選手が、記録的には足踏みをしている状態だ。まずはエース候補と目される選手たちが、そんな状況を打破すること。さらにそれに続く選手達もしっかりと世界を見据えて、今何をやらなければいけないかを明確に知った上での努力を始めることが必要だろう。日本競泳陣はこの大会の厳しい結果で、ロンドンヘ向けた大きな課題を手にしたといえる。


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