MENU ─ JOCについて

村松邦子

インタビュー

Jリーグ 参与

村松邦子さん

きっかけ・理由

なんでもやってみよう/より良い未来を一緒に作りたい

Jリーグ理事になった経緯

今から6年前(2014年)に、理事会のなかの多様性を高めたいとJリーグから声がかかりました。

私は、25年間、外資系企業に勤務したあと、10年前に独立しました。ビジネス界でのCSRやダイバーシティ推進等の経験と女性の視点から意見がほしいということでお声かけいただいたのかなと思います。

当時は、理事20名中、女性の理事は1人しかいなくて、私が入った時点で女性理事がようやく2人になり、現在は4人に増えています。

理事になることを後押しした思い

Jリーグが誕生した頃は、ちょうど子育て真っ只中でほとんど記憶がありません。試合観戦に行く余裕もなく、Jリーグのイメージはほとんど何もなかったです。ですので、Jリーグから声がかかったときには、どのようにしたらお役に立てるだろうかと思いました。

ただ、独立してからは、自分ができること(can)、自分がやりたいこと(wants)、自分が求められること(needs)というキャリアの3つの輪を鑑み、何でもお引き受けしようという気持ちでした。

また、外資系企業で長い間働いてきましたので、今度は日本社会に何かお役に立てることはないだろうか、スポーツを通じて、より良い未来を次の世代につなげていくことができたらいいなと思い、お引き受けしました。

私には娘がいて、少しでも良い社会を次の世代に渡したいという思いをもっていました。もっと日本に元気になってほしいというか。私はグローバル企業にいましたので、日本の元気のなさや失速感を実感していました。このままではいけないという気持ちがとても強くて、「日本にはいいところがたくさんあるのだから、そこをきちんと自覚して、一人ひとりが動いて、より良い未来をみんなで創りましょうよ」、そういう思いもありました。

気づいたこと

複雑だけど組織のあり方は企業と同じ

企業との違い

Jリーグは公益社団法人ですので、組織の存在意義など営利企業とは異なります。地域の公共財としての組織のあり方、運営管理、財務など、企業と違う点は、Jリーグの皆さんに確認しながら、「学ぶこと」が必要でした。

また企業であれば、制度や契約を中心にステークホルダー(利害関係者)が存在しますが、Jリーグは地域社会の方たちやファン、サポーターなど、ステークホルダーがとても多いなと思いました。そのような多様な方たちと、どのように安全、安心のスタジアムを一緒に作っていけるのか、何か起こったときにどのように対処すべきかなど、いろいろと難しい課題があると感じました。

Jリーグをとりまくステークホルダーは多様で複雑です。各クラブはJリーグの株主的存在であり、そこに選手が契約していて、Jリーグは、56クラブの総和として、リーグ運営を担い、社会性・事業性・競技性の3つのミッションを回していく必要があります。

Jリーグ・クラブの関係は、会社組織でいうグループ経営やホールディングス(持株会社)のようなものかと思っていましたが、実は全く違っていました。 主体は各クラブで、Jリーグはそれを支えるプラットフォーマー的な存在なのです。

企業との共通点

ただ、基本的な組織としてのあり方というところでは同じだと思います。私は、健全な組織作りや経営管理を専門としていますので、そういう視点で見てみると、組織に関わるステークホルダーとどのように信頼関係を作っていくか、社会に対して何をしていくかという点では、営利組織であろうと公益社団であろうと結局は同じだと思いました。

理事に就任してすぐに無観客試合*がありました。対応の難しさを感じると同時に、組織のなかでの手続きは、事実や規定を確認して、どうすべきかを裁定委員会・理事会で検討し、再発防止策を講じる、というように進みました。こうした一連の流れは、企業での手続きと全く変わりません。コンプライアンスやガバナンスというのは、組織が営利と公益とで違っても変わらないんだなと実感しました。

*サポーターによる差別的横断幕の掲出で、そのクラブチームにJリーグ初の無観客試合の処分が下された。

Jリーグに関わって見えてきたこと

理事になるまでスタジアムに行ったことがなかったのですが、役割を果たす以上、現場の状況を知ることを重視していますので、なるべく現地視察に行くようにしています。そうすると、ボランティアの存在が大きいことや、誰もが楽しめるようなスタジアム環境、試合の運営がしっかりなされていることなど、J1からJ3まで55クラブのさまざまな活動や違いが見えてきます。

そういったことがわかればわかるほど、外から見たJリーグやサッカーの価値もわかるし、リスクも見えてきます。スポーツ、サッカーの多面性や可能性が見えてくると、Jリーグの理念や活動を他分野の方たちに紹介したり、協働できそうな人をつなげたり、自分自身のこれまでのネットワークや知見を生かすことができるようになります。 現場を知れば知るほど、自分の関われることが増えてきたという実感があります。

大変・戸惑い

持続可能な組織にしていくために

大変だなと思うこと

スポーツ界全体の課題だと思いますが、理念の実現のために、人、モノ、お金も含めて本当にリソースが足りません。あのリソースでよくやっているなと思います。

きちんと利益を上げて持続可能な組織にすることで人も適切に雇えたり、人材育成に投資ができたりということがありますので、持続可能な健全な財務体質にしていくことは非常に大事だと思います。

今、大手企業などで副業が解禁になっていますが、別の分野の方たちにサポートしていただけるような体制や仕組みをスポーツ界に作っていくことも必要ではないかと思います。特にスポーツ界で不足している管理運営人材。経理、人事、コンプライアンスなどの仕事ができる方はたくさんいらっしゃいます。あるいは、大学生にアルバイト・インターンとして働いてもらうだけではなく、次世代リーダー育成の観点から、大学、企業、自治体との連携などで何かできることがあるのではと考えています。

理事の仕事

社外理事にやさしいJリーグ

Jリーグの理事会

私はサッカーのことは何もわからず理事に就任したのですが、Jリーグの理事の皆さんは受け入れてくださる姿勢がオープンで、気軽に声をかけてくれました。

村井チェアマンご自身が社外理事だったこともあり、その大変さもよく理解してくれています。理事会の前に、社外理事ミーティングを開いてくださっていたので、わからないところを質問したり、ポイントの説明を受けられたりして、とても助かりました。

理事会の資料は1週間前に送られてきて、事前に目を通したり、わからないことを事務局に聞いたりなど、いろいろと準備はしますが、いきなり理事会で発言するのは厳しいですよね。

理事には常勤と非常勤があり、私は非常勤の社外理事で、月に1回の理事会に出席していました。 他に、Jリーグ主催のイベントや主催試合のご案内をいただき、都合がつく限り出席していましたが、これらは任意参加となっています。

やりがい

一緒に考え、作っていく場

Jリーグの社会連携活動「シャレン!」

Jリーグに関わる中で、最初に感銘を受けたのは「スポーツで、もっと幸せな国へ。」という百年構想と理念の具現化としての「ホームタウン活動」でした。サッカーに限らずいろいろなスポーツを通じて地域貢献を行うことがJリーグ規約で義務付けられており、2018年実績では、リーグ全体で年間2万回以上、各クラブが年間約390回以上も地域を元気にする活動を続けています。こんな素晴らしい活動が世の中にあまり知られていないのは、なんてもったいないことだろうと思い、社外理事(2014年~)・参与(2018年~)として 自身の専門知識やネットワークで貢献できることを続けてきました。

Jリーグ25周年の節目を迎えた2018年には、「ホームタウン活動」の次の展開として、社会連携(通称:シャレン!)事業がスタートしました。地域を良くしたいと活動している皆さんに、Jリーグ・クラブの資源を使っていただき、一緒に地域の課題を解決していくプロジェクトです。 「シャレンコアチーム」というプロジェクトチームの一員として、 社会連携のプラットフォームづくりを進めています。

社会連携プロジェクトはゼロからの立ち上げで、試行錯誤の連続ですが、地域の笑顔のために、 熱い想いをもった市民、行政、企業、NPOの方たちがつながり、 各地で「Jリーグをつかおう」の輪が広がっています。

この2年間で、「シャレン!」の動きが加速していて、皆さんと一緒に未来を創っていく場に関われるということに、とてもワクワクしやりがいを感じています。

選び方

人に相談し、人を巻き込む

自分のキャリアが統合された感じ

独立する前に、社会人大学院でスポーツ健康システムを学んでいました。企業のなかでいろいろな問題が起きたときに、当事者がストレス状態であったり、身体を壊していることが多いことを実感したからです。社員一人ひとりが健幸(ウェルネス)でなければ健全な組織などありえない、というのが私の問題意識にあり、ヘルシーカンパニー理論やスポーツ・ヘルスプロモーション、スポーツ・マネジメントなど、人と組織の健幸に関わることを統合的に学びたいと思ったのが大学院で学ぶきっかけでした。

バレリーナを目指しクラシック・バレエを20年以上続け、スポーツも好きでしたが、25才で就職してからは、仕事が楽しくビジネスの世界にのめり込んでいました。Jリーグに関わることで、ビジネスのキャリアとその前の自分のキャリアが統合された感じがしました。

メンターやサポートしてくれる人の存在

困難に直面したときには、家族や友人に頼るというか、巻き込むというか、いろいろとお願いをして乗り越えてきました。私の場合は仕事がとても好きだったので、フルタイムで働きながら仕事と子育てを続けてきました。娘は本当に社会に育てていただきました(笑)。保育園の先生方、私の母、妹、夫の両親にも助けてもらいっぱなしという感じでした。

自分の職場では、身近な同僚であったり、先輩であったり、上司にもたくさん助けていただきました。ただ、マネージャや役員など、ポジションが上がるほど、他の人に話せないことが増えるんですよね。そのことは自分のメンターであった方から、「上に行けば行くほど孤独になるぞ」と教わっていました。日本支社の役員や、本社の女性役員がメンタ―として支援をしてくださったことに感謝しています。

理事とか理事候補の方で、もし自分の組織で困っていること、分からないことなどありましたら、同じ立場にいるほかの競技団体の方や、ほかの組織のリーダーの方たちに相談してはいかがでしょう。きっと喜んでサポートしてくれると思います。 もちろん、私自身も何かサポートできることがあれば嬉しいです。

変革

「よそ者」「若者」の積極登用と透明性

Jリーグの可能性

Jリーグは2年前(2018年)から女性理事が4人となり、30代の女性常勤理事も誕生しました。経営企画と社会連携(通称=シャレン!)事業を引っ張っている米田惠美さん、組織変革のリーダーです。

理事会終了後の定例記者会見議事録を見ていただくとわかるのですが、村井チェアマンは、「なぜこの理事を選んだのか」という理由を明確に公表しています。理事会の多様性と透明性など、Jリーグのガバナンス向上については可能性を感じています。

支援・試み

誰もが関われる組織になるためには

組織における仕事内容と将来像の明確化

理事は常勤と非常勤とでは職務内容が大きく違うので、役員の中にはこういう仕事があって、その役割期待は何かということを具体的に示してもらうことが大事だと思っています。例えば、理事として何をどこまでやればいいのかということが、不明確な競技団体もあると聞いています。

多様性の確保という意味で、女性の理事を40%にするという目標は大事だと思います。その目標を示しつつ、組織のビジョンや中期経営計画など、それぞれの組織が何を目指し、どうありたいか、というところも明確にする必要があるでしょう。そうすることで、性別を問わず、さまざまな経歴やスキルを持つ候補者が競技団体の意思決定に関われるのではないかと思います。

ネットワーキングの必要性

スポーツ団体の女性理事は少ないですし、自分自身の勉強という意味もあって、女性理事の皆さんに声をかけて、ちょっと一緒にランチしましょうという感じで、情報交換の機会を作っています。そのようなところで、皆さんがどのように対応しているのかなど、困ったときに教えていただくこともあります。こういうつながりは大事ですね。

アスリート出身の方はご自身の競技のことはよく知っているけれども、経営や組織運営のことに関してはわからないことが多い。一方、民間企業出身の私たちは競技のことや選手のことはよくわからない。両方わかる方はなかなかいないわけですから、お互いに補完し合ったり、組織運営の基本的なことを学んだりする機会があればいいと思います。企業出身の私たちは、スポーツの特性、競技団体の特性、スポーツビジネスの動向などを学ばなくてはいけないでしょう。

経験を活かす

違う分野だからこそ言えること

企業での経験がJリーグで生かされた

何かが起きたときにそれにどのように対処していくかということが一番大事なので、その考え方や手続きが間違っていないか、様々なプロセスを検討していく上で、企業で培ってきた自分の経験と知識が役立ったのではないかと思っています。無観客試合という判断では、賛否両論がありましたが、企業倫理やコンプラインスの専門家からは対処の仕方や透明性という点で、高い評価をいただきました。

違うセクターにいるからこそ客観的な判断ができることもあると思いますし、「企業目線ではこのように見えます」ということをお伝えするのも大事なことだと思います。

サッカーのことはわからなかった、でも…

私はスポーツ界出身ではなくて、多様な視点を入れるために理事会にいると思っていました。サッカー・Jリーグには多様なステークホルダーがいるわけですから、私がその代表でもあるわけです。私は初めてサッカーを観る人、ライトファン、あるいは女性という視点で、自分が見たり感じたり聞いたりしたことを発言するのが務めと思っていました。

理事会ではサッカー中心で社会が動いているように話が進むことも多いので(笑)、「サッカーがなくても困る人はいません」とか、「ホームページを見てもまったくわかりません」とか、「一般の女性たちはスポーツ欄とか見ません」とか、そのような意見で意外とはっとされるんです。「知らない」ということが強みで、違う視点からの発言を期待されているのかと思います。

メッセージ

多様な人が関わることでスポーツ組織は変革する

まずは引き受けてみる

全く知らない世界に飛び込むというのはとても勇気がいると思うのですが、自分自身が変化へ対応を楽しみ、そのためのスキルを身につけていくとか、キャリアの幅を広げていくことはとても大事だと思います。役員の任期は、たいがい2年などの有期で、やるべきことも明確になっていますので、人生100年のなかの2年、4年、ぜひ貴重な機会だと思ってチャレンジしていただけたらと思います。

競技やスポーツのことがわかっていない方の意見こそ、スポーツ界では必要とされているということだけは覚えておいていただきたいです。世の中には、スポーツが好きな人もいれば、あまり好きではない人もいますし、得意な人もいれば、得意ではない人もいます。スポーツにも多面性があるので、多様な方たちがスポーツに関して考えたり、使ったり、楽しんだりすることが大事だと思います。スポーツが苦手な人がスポーツに関わることで、苦手な人の視点が入り、スポーツの普及率が高まったりすることもあると思うので、自分にとって、組織にとって、社会にとってプラスになることはあるんだと思って、理事になる機会をお引き受けいただけたらなと思います。

メンターに言われた「私の価値」

特に女性のリーダーの方にいいたいことは、自分をオープンにすること、あまり抱え込みすぎないことです。完璧でないといけないと思ってしまいがちですが、わからなければみんなに聞いて学べばいいと思います。私がメンターの方にいわれたのは、サッカーを観たことのない私が感じたことや意見だからこそ価値がある、その問題意識こそ大事なんだ、ということでした。自分の足りないことばかりが見えて、「私はこれができていない、あれができていない、あれも知らない、これも知らない」となってしまうのではなく、意思決定の中で1つの視点として自分が役に立つということです。これに気づいたときには、とても勇気づけられました。

「女性」として身についてしまっていることに気づく

女性理事から「完璧じゃないと発言できない」とよく聞きます。引いてしまうというか、前に出てはいけないというか。積極的に発言することをあまりよしとされない文化で育てられてきたこともあるのかもしれません。

海外の組織ではそのようなことをいっていたら仕事になりませんので、背景はかなり違いますが、日本では女性が「引く」ことに割と慣れてしまっています。無意識のうちにあるのかもしれません。特にその競技に関わっていない理事だと、「このようなことを聞いたら迷惑ではないか」ということもよく聞きます。

しかし、理事には発言する力以上に、問いかける力が必要とされているのではないでしょうか。自分が疑問に思ったことを「これはどういうことでしょうか」と問うことで議論が深まることがあります。 ぜひ、自身の力を信じて、一緒に前に進みましょう。