田原 淳子(国士舘大学教授)
北京オリンピックでは、夏の暑さを吹き飛ばすような熱戦が繰り広げられ、日本中、世界中の人々を沸かせました。選手たちのひたむきなまなざし、諦めない姿、歓喜の表情に私たちは元気づけられ、心揺さぶられました。また、彼らがインタビューで口々に述べていた、周囲で支えてくれた人々や応援してくれた人々への感謝の気持ちも印象的でした。
なぜ、私たちはこれほどオリンピックを見て感動するのでしょうか。そして、オリンピックという晴れ舞台で活躍した選手たちは、オリンピックを通じて何を感じ、どのような想いを自分の人生に刻んできたのでしょうか。
JOCの公式サイトには、オリンピックに出場経験のある「オリンピアン」が、オリンピックを通して感じたことや伝えたいことを語る「オリンピアンズ・ストーリー」というコーナーがあります。そこには、彼らのさまざまな想いが綴られています。
4人のオリンピアンの言葉に、優れた選手は人間的な魅力を備えていることを感じます。努力することの大切さを伝えてくれるメッセージ、さらには、努力を積み重ねることが、実は競技成績を上げることに留まらず、その先の人生を拓いていくことにもつながる、と語っています。
彼らは、人々がなかなか経験できないような大舞台で栄光を手にした人たちです。その過程で、長年にわたる並外れた努力の積み重ねがあり、時に挫折があり、多くの困難に直面しながらもそれを逞しく乗り越えてきたという背景があります。一方で、勝利をつかむことができなかったオリンピアンにも、おそらく勝者に引けを取らないくらい数多くのドラマがあり、次に活かすことができる貴重な経験が得られたことでしょう。
オリンピックには、オリンピズムと言われる理念があり、それを文章で表現しているのが、『オリンピック憲章』に記載されている「オリンピズムの根本原則」です。そこには、オリンピアンたちが語ってくれた心の深い悟りが凝縮されているように思います。
《オリンピズムの根本原則1》
「オリンピズムは人生哲学であり、肉体と意志と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた総体としての人間を目指すものである。スポーツを文化や教育と融合させるオリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などに基づいた生き方の創造である。」