MENU ─ 北京2008

北京2008


チームジャパンとして取組むロンドンに向けての選手強化

北京での日本代表選手の闘いぶりを、つぶさに見てきた

総監督の目に映った選手強化の成果と課題とは


上村春樹 日本代表選手団総監督

競技力が拮抗している中での日本代表選手の闘いぶりは……


柔道では、昨年行われた世界選手権のチャンピオンが男女合わせて16名います。しかし、その中で北京オリンピックでも優勝したのは、男女各1名のわずか2名でした。

この数字は、いかに世界の競技力が拮抗してきているか、また、4年に1回、しかもたった1日の試合に、コンディションのピークをもっていくことが、いかに難しいかを物語っています。

これは柔道に限った傾向ではなく、オリンピックのあらゆる競技について言えることです。例えば、太田雄貴選手の銀メダル獲得で沸いたフェンシングも、裏を返せば、日本のようなフェンシングにおける新興国が力をつけ、ヨーロッパの伝統国と競技力で肩を並べつつあるということにほかなりません。

こうした傾向の中で、日本代表選手団は、金メダル9個を含む25個のメダルを獲得しました。残念ながら、目標にしていた2けたの金メダル、アテネ大会のメダル総数37個には届きませんでした。この結果について、よかったとは当然言えませんが、特に悪かったというほどでもないと考えています。

というのも、アテネ大会以降、毎年行われる各競技の世界大会などの成績を集計・分析してきましたが、アテネ大会の金16個を超えた年がなく、昨年暮れのシミュレーションでも金5個という結果だったからです。北京大会の直前に、米国の雑誌が発表した予測でも、日本は金6個で15位という成績でした。

これらのシミュレーションを考えると、北京の本番で、選手たちはよく頑張ってくれたと思います。また、競技や種目を限定して実施した、競技力をワンランクアップさせる北京対策も、結果を出したと評価できるでしょう。

「経験」が大切なことを示した7個の2連覇の金メダル


今回の金メダルで特徴的なことは、9個の金メダルのうち、7個が2連覇のものだったこと。これについては、世代交代が進んでいないという声もありますが、必ずしもそうではないと考えています。

先に述べたように、各国の競技力が拮抗・向上しているので、オリンピック初出場で勝つことは難しくなっています。結果として、経験者が有利になり、2連覇につながったと考えられます。

柔道の内柴正人選手は、アテネ大会以降、国際大会で優勝したことがなく、同じく谷本歩実選手も苦労して代表の座を勝ち取ったうえ、決勝で闘ったフランスの選手には、それまで一度も勝ったことがありませんでした。

つまり2人とも、他の選手と圧倒的な力量差があったわけではありません。それでも金メダルを獲ることができたのは、オリンピックでの闘い方や、たった1日にピークを合わせる調整方法を知っていたからと言えるでしょう。経験がものをいったわけです。

また、栄養管理や体調管理、メンタルトレーニングなどを取り入れるようになり、練習環境が格段によくなったことから、選手寿命が延びたことも、2連覇が増えた要因と考えています。

世代交代は当然、行わなければなりませんが、今回の2連覇については、大いに称賛したいと思います。

入賞をメダルに引き上げる3つのポイント


今回の成績でもうひとつ評価したいのは、入賞がアテネ大会に並ぶ77を数えたこと。サッカー女子バドミントン女子卓球団体など、メダルまであと一歩の種目も多く、ロンドン大会への期待が膨らみました。

これらの種目や、銀メダルの太田選手のフェンシング、銅メダルの陸上競技男子リレーに共通しているのは、技術を要する種目であること。陸上競技のリレーがその代表で、100mは各選手とも決勝に残れなくても、バトン技術を必要とするリレーならメダルに届くのです。体格や体力を伸ばすことには限りがあっても、技術は伸ばせます。今回の結果は、今後の強化に大きな示唆を与えてくれました。

技術を磨いた上でメダルを獲るには、「勝ちたい」という気持ちを持ち、プレッシャーに負けず、100%の力を出し切ることが重要になります。ソフトボールの金メダルは、勝利への執念を持ち、あきらめず闘えば何がもたらされるかを、改めて教えてくれました。

では、それには何が必要でしょうか。まずは、何といってもふだんの練習を十分に積み、自信を持つことです。プレッシャーの正体は、残念ながら未だに明らかになってはおらず、決定的な対処法はありません。しかし、少なくともふだんの練習量に裏づけられた自信がなければ、プレッシャーに打ち勝つことはかなわないでしょう。

次に必要なのは、国内外でいろいろな体験をすること。他の競技の練習方法や闘い方を知ることも大切ですし、世界の競技力が拮抗した今、海外に積極的に出て、各国の闘い方に慣れることも重要です。

そして、常識にとらわれないこと。私たちは成功体験に縛られがちですし、長年の練習方法を変えるのもなかなか難しいものです。しかし、昨日は正しかったことが、今日は正しいとは限らないのがスポーツです。

柔道の場合、アテネ大会で行ったことは、男女合わせて8個の金メダルにつながり、正しかったと言えるのですが、北京大会はどうだったのか。これから検証しなければなりません。

常に、今行っていることがベストかどうかを自問しながら、新たなチャレンジを試みることが欠かせません。立ち止まったら、選手の成長はそこでおしまい、ということを忘れてはなりません。

今後の選手強化はチームジャパンで取組む


選手にふだんの練習を十分に積ませるにせよ、国内外でさまざまな体験をさせるにせよ、今後の選手強化は、ますます時間と費用が必要になります。競技団体個々で選手を強化するのは、いよいよ限界にきていると言えます。

今後はチームジャパンとして、まとまって選手強化にあたることが求められます。そのためには、4年後のロンドン大会を見据えて、各競技団体への予算配分、国やJOCの支援体制などについて、早急に話し合わなければなりません。

チームジャパンとして強化するうえで、今後ますます重要になってくるのがナショナルトレーニングセンター(NTC)の存在です。選手や指導者が他の競技の選手と交流することによって、自分たちの常識が他の競技の常識ではなかったことに気づかされたりするはずです。

選手や指導者だけでなく、サポートスタッフが交流し、情報を交換・共有できるメリットも小さくありません。栄養や体調の管理、メンタルトレーニング、マッサージなどの最新情報や技術は、1競技団体で収集するには限界があります。北京大会でも、栄養管理の情報や人を、不足しているチームに融通したケースがありました。

ドクターやトレーナー、マッサージなどの専門家の力は、今後ますます必要になります。チームジャパン全体が、平等に力を借りられるよう、そうした人材をマネジメントする能力も、チームとして養わなければなりません。

また、国立スポーツ科学センター(JISS)に隣接していることも心強いポイントです。万が一、故障しても、JISSで万全の治療、リハビリができるので、安心して練習に打ち込めます。かつて、薪谷翠選手(柔道)がJISSでのリハビリで見事に復活し、世界選手権で優勝したことから、選手や指導者の間で知られてきました。

ロンドン大会の目標は金メダルランキング5位以内


北京大会の金メダルは目標に届きませんでしたが、金メダル数のランキングで8位に入った意味は大きかったと思います。チームジャパンの目標は、ロンドン大会で5位以内、そして、開催を目指す2016年の東京大会で3位に入ることです。

日本の国民はスポーツ好きであり、スポーツを見る目が肥えています。その国民を満足させ、支持を得るには、オリンピックで世界と闘い、最高のパフォーマンスを見せて勝つことが必要です。

それを可能にするには、チームジャパンとして結束すること、最新の情報を共有すること、そして、チームのマネジメント力を高めることが必要です。

OLYMPIAN 2008より転載


photo by AFLO

photo by AFLO

photo by AFLO

photo by AFLO

上村春樹 日本代表選手団総監督
ページをシェア