大会







第29回オリンピック競技大会(2008/北京)

【スペシャルコラム 第3回】 競泳界の急激なレベル向上〜日本チームの未来

文:折山淑美

別次元の泳ぎを見せた北島康介


写真提供:アフロスポーツ
アメリカとロシア、オーストラリアに次ぐ4番目に第一泳者・背泳ぎの宮下純一がタッチすると、北島康介は前を追って飛び込んだ。
競泳最終日の男子4×100mメドレーリレー。各国ともにレベルが上がった今年は、昨年の世界選手権までのように、日本のメダルが堅い種目ではなくなっていた。北島は200m決勝が終わった日「正直言って危ないと思います。だからこれから帰ったら、みんなにハッパをかけますよ。僕は疲れてるから、明日は休みますけどね」と笑顔で言った。だがそれは、冗談で言っている表情ではなかった。
前にいるのはハンセンとリカードとスロードノフ。全員が100m決勝で競り合った選手だ。北島はここでも別次元の泳ぎを見せた。前半から飛ばし、前を抜きにかかったのは50mを折り返してから。3人を抜き去り、2位のオーストラリアに0秒42差をつけて次の藤井拓郎に引き継いだ。ラップタイムは58秒07と驚異的。普通のレースでのリアクションタイムに換算すれば、58秒50台は確実に叩き出せていた泳ぎだ。

「最後に浮いたけど、それでも持つというのがリレーの醍醐味ですからね。拓郎もすごいプレッシャーがかかっていたと思うから、少しでも安心して泳げるようにさせてあげたかったんです。初めてアメリカを抑えて引き継ぐことができたから、満足しています」


写真提供:アフロスポーツ

北島の思いに応えるかのように、藤井も素晴らしい泳ぎをした。怪物・フェルプスにこそ抜かれたとはいえ、8人中2番目のラップタイムの51秒03で引き継いだ。最後の自由形はこれまで日本チームの弱点と言われていた種目だが、48秒97の日本記録を持つ佐藤久佳は、0秒05という絶妙の引き継ぎで飛び込み、自分の力を十分に発揮。選手たちが「各国の総合力で戦う種目」と力を入れるメドレーリレー。3位には落ちたものの、アテネ大会と同じ銅メダル死守は果たした。

大会前、「メダル5個」を目標にして臨んだ日本競泳。前回の8個からは数を落としたが、昨年からの世界の急激なレベル向上を考えれば、妥当なものだった。


写真提供:アフロスポーツ
その先陣を切ったのは、もちろん北島康介だった。万全な状態を作り上げられずに臨んだアテネ大会は、2冠を獲得したが自己ベストは出せなかった。だが、4年間の成長を経て臨んだ今回は、昨年からケガもなく練習を積めていたという万全な状態。まずは最初にある100mに照準を合わせ、世界新記録での金メダル獲得を狙ったのだ。
コーチの平井伯昌は、58秒台を勝負の目安と考えていた。「後半の50mは28秒80台で泳げる練習を積んできた。あとは前半の50mを27秒80台くらいで楽に泳げば、58秒60台が出てしまう」と。北島もそれを意識し、準決勝ではあえて、前半を27秒84で入ってみた。だが力んでしまって後半に失速。その失敗が決勝で、前半を自分の大きな泳ぎでタイムを気にせず入って後半で勝負するという開き直りを生んだ。
「他の選手がどんな記録を出して来ようが、自分の泳ぎに徹すれば勝てる」
その自信で出した結果が、58秒91の世界新記録での優勝だった。
続く200mは、大会前から「勝って当たり前」と思われていた種目で、プレッシャーも大きかった。100mの時以上の自分自身との戦い。世界選手権に届かない2分07秒64の優勝に複雑な表情も見せたがそれも、2分06秒台まで視野に入れていたからだ。努力で培った自信を基礎にした、類まれな集中力の持ち主である北島だからこそ、2大会連続2冠の偉業を達成できたのだ。

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