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ドーハアジア大会


第15回アジア競技大会(2006/ドーハ)

第15回アジア競技大会(2006/ドーハ)

ドーハの熱き風〜スペシャル現地レポート
本物の強さが生まれる

文:折山淑美

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池田久美子選手(写真提供:アフロスポーツ)
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澤野大地選手(写真提供:アフロスポーツ)
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末續慎吾選手(写真提供:アフロスポーツ)

陸上競技 次へとつなげる勝利

12月10日の陸上競技女子走幅跳。池田久美子は勝って当然と思わせる、余裕のある試合を展開した。

「前回の釜山大会では7位に終わり、すごい悔しい思いをしていましたから。来年は世界選手権が大阪であるけど、キッチリと段階を踏んでいきたかったから、どうしてもアジア競技大会の金メダルが欲しかったんです」

今年は5月の大阪国際GPで小学生の頃から夢に見ていた日本記録樹立(6m86)を果たした。6月の日本選手権でも勝ち、7月にはひとりでヨーロッパを転戦して「世界と戦える」ことを実感した。だからこそここで勝ち、アジアチャンピオンとして世界と戦う権利を得たかったのだ。

その気持ちは早くも、2回目のジャンプに出た。他の選手を大きく引き離す6m68。それで優勝を確信した彼女は、後半になると記録への欲も持ち、5回目に自己セカンドベストタイの6m81を跳んで、アジア初制覇へのだめ押しをしたのだ。

「シーズン締めくくりの大会で、海外では初の6m80台を跳べましたから。今年は80台を3回跳べて安定してきたから、次は90台にアベレージを上げ、7mを跳んで世界陸上やオリンピックの決勝へいきたいですね」

試合終了後の日の丸を纏ったウィニングランでは「これが世界陸上やオリンピックだったらいいな」と思って走っていた。

記録では今季世界リスト7位と世界のトップアスリートの仲間入りをした池田は、狙った大会を好記録で制したことで世界と戦う本物の自信を得た。

同じように、今季は3度にわたるヨーロッパ転戦で経験を積んだ男子棒高跳の澤野大地にも、ここは勝たなくてはいけない大会だった。「二人ほど調子のいい選手がいたから、確実にいこうと思って」と、勝利を確実にするためにと5m40から跳躍を開始して5m60でアジア競技大会初制覇。

「来年は胸を張って世界陸上でメダルを狙います、といえるようになりたい」と言っていた彼にとって、この優勝は大きな意味を持つものだ。さらに、男子200mで連覇を達成した末續慎吾も、「世界で戦うためにはアジアで負けるわけにはいかない」と臨んだレース。無我夢中で勝った釜山大会よりも、彼にとっては価値のある勝利だった。


フェンシング太田の大きな収穫

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太田雄貴選手(写真提供:アフロスポーツ)

そんな陸上勢と同じように、世界へ挑戦する切符を獲得したといえるのがフェンシング男子フルーレで優勝した太田雄貴だろう。ヨーロッパ生まれの競技ではあるが、中国や韓国も世界に伍している。特に中国などは、フェンシングをするのに有利な、身長が高く手足の長い選手が多い。そんな選手を相手に小柄な彼がどう戦っていくのか。ビッグタイトルを獲ったという実績だけでなく、これからどういう風に世界と戦っていくかという方向性を見つけ出す上でも、彼は大きな収穫を得たに違いない。

女子レスリング 3つの金メダルとひとつの銀メダル

また、北京オリンピックへ向けてといえば、女子レスリングも、48kg級の伊調千春と55kg級の吉田沙保里、63kg級の伊調馨の3人は、ともに強力なライバルになるであろう中国勢を準決勝で破って優勝と、世界選手権に続いて優位を保った。

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浜口京子選手(写真提供:フォート・キシモト)

だが72kg級の浜口京子は、ただひとり敗れて銀メダルに終わった。決勝ではアテネオリンピックでも敗れていた中国の王旭に苦杯をなめたが、第1ピリオドは両者とも警戒が先立って攻めが出なかった上での結果。10月の世界選手権で鼻を骨折していて万全な状態ではないとはいえ、指導する金浜良コーチが「第1ピリオドは相手も怖がって攻められなかったのだから、普段の浜口を出せば勝っていた」と苦言を呈する敗戦だった。

「本当は出られないような状態だったけど、それでも挑戦したのは間違っていないと思います」

浜口は健気に言う。04年アテネオリンピック以来、05年、06年世界選手権に続く敗戦。それを悔しさとして片づけるだけでなく「何故?」というところからもう一度はじめなくてはいけないのだろう。かつては世界選手権を5連覇した実力者。今は敗戦を、しっかりと自分の肥やしにしていく時期なのかもしれない。

末續は以前こう言っていた。「04年、05年と、本当に嫌でしょうがないこともやってきました。アテネオリンピックは万全な体調で臨めなく、怖ささえ感じてました。でもそういう時期を過ごしたことが、今の自分にとっての大きな土台になっているんです」と。

悔しさにまみれる時期があれば、またそこから本物の強さが生まれてくる。勝利と同じように、本気で悔しがる敗戦も必要なのだ。

(2006.12.12)


折山淑美 : 長野県出身、神奈川大学工学部卒業。スポーツライター。
主な著書に「誰よりも遠く-原田雅彦と男達の熱き闘い」「末續慎吾×高野進-栄光への助走 日本人でも世界と戦える!」「北島康介—世界最速をめざすトップアスリート」など、多数。


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