フリースタイルフットボールのプロとして寝転びリフティングのギネス世界記録を保持し、2017年から日本テックボール界の第一線を走り続ける早稲昭範(WASSE)。第1回世界大会から日本代表として出場を続け、2020年からは協会の代表として競技の普及活動にも尽力している。追加種目に決定した「愛知・名古屋アジア大会」に挑むパイオニアに、テックボールの魅力、大切にしている想い、そして自国開催で目指す金メダルへの決意を聞いた。
――テックボールを始めたきっかけを教えてください。
私がテックボールを始めたきっかけは、2017年に遡ります。当時、私はフリースタイルフットボールというサッカーのリフティングパフォーマンスのプロとしてずっと活動しており、寝転びながらのリフティングのギネス世界記録保持者でした。当時は協会から「テックボールをやるのであれば、リフティングが上手い人にやってもらった方がいいのではないか」ということで推薦を受けて、テックボールに参戦したというのがきっかけです。
――テックボールをやる上で、リフティングは出来た方が良いものですか?
結構難しいところで、私も最初はテックボールをリフティングの競技だと思っていて、リフティングが上手かったら絶対テックボールも出来るなと思っていました。なので、リフティングのプロだったらというので推薦を受けてやりましたが、実際はやってみたら全く別物で驚きました。リフティングというよりは、トラップに近い感覚で、最初は難しい競技だなと感じていました。
――テックボールの魅力を教えていただけますか?
テックボールは、老若男女関係なく、平等に戦えるスポーツです。そこがやはり一番の魅力ですね。

――体験会をやられる上で、気をつけているポイントや重視されていることはありますか?
体験会においては、具体的な技術のレクチャーはなるべく避けるようにして、とにかく何回も何回もラリーをする、少しずつ上手くなってくる過程を楽しんでもらうようにしています。例えばルールで言うと、同じ部位を連続で使ってはいけないのですが、それを初めから体験会に来た方に教えてしまうと、難易度が高いものがさらに難易度が高くなって、ラリーも続かないし楽しくないとなってしまので、それは避けるようにしています。そういったルールもだいぶ緩和させてやっています。
――体験会に来られる方は、やはり苦戦されていますか?
そうですね。テックボールはまず3タッチ以内で体の違う部位を使いながら相手に返します。これは、やり始めた人たちにとってはかなり難易度が高いので、最初は手から始めてもらうようにしています。
――段階的なアプローチをしているのですね。個人差はあると思いますが、形になるまでにはどれくらいかかるのでしょうか?
それに関しては、もちろん人によりますが、サッカーが出来る人だと1回の体験会ですぐにルールに順応する方もみえます。初めてやる方でどうしたらいいか分からないという方に対しては、手でスタートして、次はトラップしてキャッチして、そしてサーブをやる、というように1つずつクリアしていき、3回ほど体験会に来ていただけたら、ある程度馴染んでくるのかなと思います。

――テックボール特有の湾曲している台では、ボールの跳ね方も独特だと思いますが、そこも苦戦する要因になっているのでしょうか?
そうですね。グッと伸びてくるボールになるので、ふんわり返ってくるボールでも初めてやる方は予測が出来ません。当たる部分によって全然伸び方も違いますし、跳ね方も違います。そういった部分に瞬間的に判断して、最善のトラップをして最善のトスを上げて、最後スマッシュに持って行かないといけないので、非常に難易度は高いと思います。
――サッカー日本代表の選手や海外の代表選手もテックボールをやっている様子が度々テレビやSNSで放送されています。そういった方々も独特なボールの跳ね方に苦戦するのでしょうか?
サッカー日本代表の人たちは難しいとあまり感じないと思います。サッカーの場合、常に浮き球のトラップをしますし、そのようなボールはテックボールでも湾曲することによって生み出されるので、そんなに違和感なくやられていると思います。逆に、テックボールでいうふんわり落ちてくる球は、サッカーの場合、上からボールが降ってくることはあまりないので、そうなってくると逆にサッカー日本代表の人たちはやりにくいのではないかと思います。
――競技の特性や文化的背景も関係してきますが、テックボールはレクリエーション感覚でやられることもあるのでしょうか?
人それぞれだとは思いますが、最初はテックボールってなんだ?という興味から始まると思うんですよ。そこでやってみて「難しいな」「あ、楽しいな」と思ってくれるところから始まると思うので、最初はクリニックというよりも遊び感覚で体験会に来ていただき、そこでちょっとでも楽しさを分かっていただいてハマってもらうというイメージなのかなと思います。

――愛知・名古屋アジア大会で、テックボールが追加種目として採用されましたが、普及に尽力されてきた早瀬選手にとって、採用されたことはどんな意味を持ちますか?
私は初期からテックボールに従事してきて、第1回から世界大会に出続けています。その際に、周囲からは「テックボールって何?全然流行るわけないよね」と言われてきましたが、「いや、そんなことない」と思って、自分自身必死に努力してきました。だからこそ、今回の愛知・名古屋アジア大会が日本で開催される初の国際大会に決まったことが非常に嬉しかったです。
――ここまで来るのに、心が折れそうになった瞬間はありましたか?
何度もありましたね(笑)。特に新型コロナウイルスが流行した時に、イベントや大会を行わないといけなかったのですが、それも全部中止になってしまい、大会がなくなると、その大会に行くためのユニフォームを着てスポンサーの方々を迎えるような活動も一切出来なくなってしまったんです。お金の面においても、認知普及やグラスルーツの面でも、全てにおいて一旦止まってしまいました。そういった中で、私が2020年に協会を引き継ぎましたが、そこからの数年間は非常に苦しかったです。
――それを乗り越えられた最大のモチベーションは何だったのでしょうか?
本当にこれは嘘偽りなく、単純にやっていて面白く、好きだからですね。

――自国開催ということもあり、多くの方が応援に駆けつけてくださると思います。その際の観戦するポイントを教えていただけますか?
非常に玄人的な話ですが、私のプレースタイル上、インテリジェンスで相手と戦うことが多くあります。例えば、スマッシュモーションでドロップを打ったり、打たないように見せかけてスマッシュを打ったりするので、そこの駆け引きが非常に見ていただきたいポイントの1つです。私以外の世界的なテックボールの楽しみポイントでいうと、やはりアクロバティックで派手なプレーです。海外で言ったら、セパタクローの世界チャンピオンたちが出てくるので、オーバーヘッドしてそのまま立つというのがテックボールでも行われます。サッカーボールでオーバーヘッドしている姿は日本ではあまり見ないと思うのですが、それが実際に目の前で起こり得るので、ぜひそういったところを見ていただけたらなと思います。
――海外の選手は、フィジカル的な要素で日本選手との差が生まれる部分もあるかと思いますが、これまで対戦されていかがですか?
プレースタイルが、そもそも出身競技によって全然違います。私みたいにフリースタイルフットボールという競技だと、ボールを使った様々な技の開発だったり、イマジネーションした技を具現化して表現したりすることを生業にしてきたので、「こうやったら相手が引っかかるな」など、そういった細かい部分のディテールを組み込んでいくプレースタイルにバチッとハマります。一方で、例えばセパタクローやフットテニスの人たちは、やはりパワープレーがすごいです。もう一撃必殺というか、100キロを超えるようなスマッシュを台に打ち込んできて、それがみぞおちに当たったりとか(笑)そのため、いろいろなプレースタイルがあるので、それに合わせてプレーしています。
――最後に愛知・名古屋アジア大会での目標をお聞かせください。
目標はもちろん、金メダル獲得です。
早稲 昭範(わせ あきのり)
1985年生まれ、大阪府出身。元フリースタイルフットボールのプロ選手であり、寝転びながらのリフティングでギネス世界記録を保持。2017年に推薦を受けてテックボール競技を開始し、第1回世界大会から継続して日本代表として出場し続けているパイオニア。2020年からは日本テックボール協会の代表を引き継ぎ、競技の普及や体験会の実施など草の根活動にも尽力。インテリジェンス溢れる頭脳的なプレースタイルを武器に、追加種目として採用された「愛知・名古屋アジア大会」での金メダル獲得を目指す。
注記載
※本インタビューは2026年6月25日に行われたものです。