足や頭でボールを空中へ繋ぐアクロバティックな球技「セパタクロー」。大学で競技に出会い日本代表へと駆け上がった三枝千夏選手と春原涼太選手に、華やかなアクロバットの裏にある繊細さ、仕事と競技を両立する「デュアルキャリア」の魅力、そして次世代へ繋ぐ未来のビジョンを聞いた。
――競技を始めたきっかけを教えてください。
▼春原選手 大学に入学した際、セパタクローの体験チラシをもらったことがきっかけです。元々サッカーをやっていたため、ボールの扱いには自信があったのですが、実際にやってみると想像以上に難しく、その難しさに魅了されてハマっていきました。
▼三枝選手 私も大学入学時にチラシをもらったのがきっかけです。元々サッカーとバレーボールを経験していたこともあり、先輩から「2つをミックスさせたようなスポーツだからぴったりだよ」と勧められました。新しいスポーツをやろうと思っていましたが、当時その中にセパタクローという選択肢はありませんでした。最初はボールの小ささや扱いに苦戦しましたが、その難しさが面白く、のめり込んでいきました。

――セパタクローの魅力はどのようなところですか?
▼春原選手 一番は、なんと言ってもアクロバティックなアタックやサーブの迫力です。世界トップレベルになると、打点が3m近くまで達することもあります。その高さや飛んだ状態でコースやスピードをコントロールするダイナミックさは、ほぼ毎プレー見ることができる魅力だと思います。私自身も最初にそういったアタックを見て、かっこいいなと思って始めた部分もありますし、今はトサーでそこにボールを上げる役目ですが、アタックまでの過程も含めたダイナミックさというのは、なんと言っても魅力かなと思っています。
▼三枝選手 ダイナミックな華やかさはもちろんですが、小さなボールを扱うからこその「繊細さ」も大きな魅力です。アクロバティックなアタックを打つ時もですし、レシーブやトスをする時のボールの捉え方や足の角度、気持ちのコントロールも含めて、繊細さが同時に求められます。一見アクロバットで華やかですが、その裏にある繊細さも、1つの魅力かなと思っています。
――空中でボールに当てることは、初心者がすぐにできるものですか?
▼春原選手 ごく稀に天才はいますが(笑)私も最初は体が硬くて、足がそもそも上がらなくて。上がるようになったとしても動いているボールに合わせて足を上げて飛び、かつボールを蹴るという何段階も調整が必要です。なので、ボールを吊るして蹴る練習をしたり柔軟をしたり、噛み砕いて少しずつできるようになっていくことが多いと思います。

――競技の「普及」という点において、すでに活動されていることはありますか?
▼春原選手 所属チームで、月に2回講習会やっています。小学生からご高齢の方まで、さまざまな世代の方が来てくださります。その他にも私は直近で中学2、3年生約250人に向けて、半日セパタクローの体験会をやらせていただきました。
――参加された方々の反応はいかがでしたか?
▼春原選手 今回の体験会では、体験後の感想をいただきました。体験会前に学校でセパタクローのことを調べてくれて、その時点では「難しそう」「できるか不安」といった印象が強かったようですが、終わった時には「みんな優しく教えてくれて、すごく面白かった」「最初は全然できなかったけど、1回決めることができてすごく面白かった」といった感想をいただき、大変嬉しく思いました。
――体験会で教える際に気をつけていることや、伝えたいことはありますか?
▼三枝選手 「できない」「難しい」といった悩みに関しては、いろいろなアプローチの仕方があると思います。たとえば、ネットを低くしたり、子ども用のボールや少し柔らかめのボールを使って体験をしてもらいます。低いネットでも越えたらすごいことですし、スモールステップで「できた」「蹴ったらネット越えた」といった成功体験をしてもらえるよう心がけています。
▼春原選手 私の持論ですが、スポーツを始めるには「周りの友達でやっている子がいるか」「競技がめちゃくちゃ面白いか」の2パターンだと思っていて、この場合だとセパタクローは周りにやっている友達が少ないと思うのでまずは「面白い」と思ってもらわなくてはいけないと思っています。だからこそハードルを下げて、1回しか蹴れていなかった人が2回連続で蹴れたら、「できるようになってるよ」と分かりやすく成功体験として伝えてあげることが大事だと思っています。そして、この成功体験を継続して得られるようなセパタクローが手軽にできるような環境づくりが今後の課題だと感じています。
――競技によっては経済的に始めづらい子もなかにはいると思います。
▼三枝選手 セパタクローは、シューズとかも言ってしまえば何でもよくて、ボールさえあれば外でもできますし、そういう意味では手軽にやれるスポーツかなとは思っています。
▼春原選手 私が所属しているチームの代表は、「3人でやるチームスポーツってあまりないよね」とよく言います。部活動が地域移行していく話もありますが、そこに「3人でできるスポーツ」で、かつ「少人数でコミュニケーションも必要」となってくるので、教育的にも価値があるのではないかと思います。

――仕事と競技を両立する「デュアルキャリア」の大変さや良さは何ですか?
▼三枝選手 大変さでいったら、仕事後に夜練習をして、翌朝また仕事…という物理的な体力面や、長期遠征で空けた分の仕事を帰ってからこなす大変さはあります(笑)。しかし、それだけ競技に理解を示してくれる職場のサポートがあってこそ続けられているので、感謝の気持ちが競技の原動力や「もっと頑張ろう」という責任感に繋がっていると感じます。
▼春原選手 仕事をしていることで、いろいろな背景を持った方々と関わってコミュニケーションを取る機会があります。それが自然とチーム作りや気遣いに生きているなと感じます。あとは、仕事をして生活基盤があること自体が、精神的な安心材料(心の支え)になっている部分もあります。社会人として得た力すべてが競技に生きていると感じるので、非常に面白いなと思って競技も仕事も取り組んでいます。

――観戦する際のポイントや注目してほしいところはありますか?
▼三枝選手 セパタクローに限ったことではありませんが、点が入った時や、逆に失点をした時も、みんなで何度もハイタッチをして喜んだり、みんなで手を繋いで意識を次に切り替えたりしています。ボールが落ちた後のチーム内でのコミュニケーションを見ていただくと面白いかもしれないです。
▼春原選手 戦術的な部分はもちろんですが、選手の表情や得点したときの喜び方に注目してもらえるといいかなと思います。セパタクローは東南アジア発祥のスポーツで、得点後のパフォーマンスも特徴的です。各国が自分たちのペースで試合を進めるためにも、それぞれのスタイルで喜びを表現しているので、海外の文化を楽しむような気持ちで観戦していただけたらと思います。
――お二人の「得意なプレー・見てほしいプレー」を教えてください。
▼春原選手 自分自身の得意なプレーとしては、トスを上げ分けるところです。バレーのセッターのようなポジションなので、右を使うか左を使うかという発想があります。特に4人制(クワッド)になるとアタッカーが2人いるので、どちらを使うかで相手のブロックやレシーバーとの駆け引きが生まれます。ただ速い攻撃をするだけでなく、トスの高さを出して時間を作ったり緩急をつけたりして、視野を広く持って冷静に上げ分けるところに注目していただけたら嬉しいです。
▼三枝選手 私も同じトサーというポジションなのですが、海外のサーブはスピードもパワーもあるので、レシーブが乱れるシーンが多くなります。そういった、ちょっとでも上がった厳しい球に対して、極力アタックに繋がるように泥臭くなんとかトスにするというところは自分の中でも得意なプレーだと思っています。「味方が繋いでくれたボールをアタッカーに届ける」という強い思いを持ってやっているので、見ていただけたら嬉しいです。
――お互いのプレーの「すごいところ」はどこですか?
▼春原選手 三枝選手はトスがめちゃくちゃ柔らかいです。ポンと蹴っちゃうと無駄な力が入ってしまうのですが、持ち上げるようにトスを上げるので、ボールがゆっくり上がるんです。学生の頃から「すごいな」と思って試合の動画などで勉強していました(笑)
▼三枝選手 春原選手は非常に安定感があり、レシーブもトスも「彼がコートにいてくれたら何とかしてくれるだろうな」という雰囲気があります。外から見ていてプレーが乱れているのをほとんど見ないですし、国際大会のような大きな舞台でも常に同じような安定感でプレーしているのは本当にすごいなと思っています。あと、(3枚や4枚飛んでくる)相手のブロックを冷静に見極めてトスを上げ分けているのもすごいところです。

――TEAM JAPANの強みは何ですか?
▼三枝選手 海外選手の物理的な高さやパワーに対してどう勝負するかが課題なので、それを搔い潜るために「速さ」や「幅」を使った攻撃で勝負することにチャレンジしていて、それが強みでもあると思います。常に一定のトスを上げるのではなく、できるだけ速い攻撃でブロックを振り切る。そしてバドミントンと同じサイズのコートを、トスを外に振って幅広く使っていく。単純なパワーや高さで戦うのが難しい分、速さや幅も活かしながら戦うという共通認識を持ってやれているところが強みかなと思います。
▼春原選手 分析力と作戦を実行する組織力だと考えています。やはり海外の選手たちは高いし、強いし、速いです。しかし、来る場所さえ分かっていれば対策はできると思っています。すべてのコースを切るブロックは難しくても、単純にすると「この位置にトスが上がった場合は右によく打ってくる」というデータがあれば、しっかりとチームで対策をして右に飛べばいい、というようなな話です。今後の世界大会などでしっかりデータを収集して、アタックやサーブのコース、誰を狙えば崩れるかを分析し、確率を上げていきたいと思っています。今まで5分5分だったものを、データによって6対4、7対3にするだけで加点のチャンスは増えますし、相手がどれだけ凄くても先に15点を取れば勝ちです。こうしたデータ戦略とそれを実行する組織力は、日本の強みだと考えています。
――自国開催である愛知・名古屋アジア大会に対する想いや目標を教えてください。
▼三枝選手 女子チームとしては2014年大会以来、メダル獲得から遠ざかってしまっている状況です。今回は自国開催ということもあるので、チーム全員でメダルを獲得することを一番の目標にしています。
▼春原選手 男子チームとしては、レグ戦・チームレグ戦・クワッド(4人制)の3種目すべてでメダルを獲得すること、そしてクワッドに関しては金メダルを目指して練習しています。昨年、世界大会のクワッドで初めて優勝することができたので、皆さんの期待に応えられるように優勝したいと考えています。また、良い結果を残すことで、セパタクローという競技を少しでも多くの人に知ってもらいたいという思いがあります。すぐ始めるのは難しいかもしれませんが、例えば子どもたちが「サッカーをしながらセパタクローもやる」といった形でもいいと思っています。いろいろな競技を経験することで得られることや学べることがあると思っています。
いろいろな選択肢や成長につながる経験の1つとして、このセパタクローも広めていき、まずは選手として結果を残すこと、そしてその先にある競技の普及や認知向上にも取り組んでいきたいと考えています。
三枝 千夏(さえぐさ ちなつ)
1994年生まれ、東京都出身。小学生からのサッカーや高校でのバレーボール経験を経て、大学入学時に出会ったセパタクローの難しさと面白さに魅了される。競技開始わずか1年ほどで日本代表サポートメンバーに選出。以降、日本代表のトサー(司令塔)としてジャカルタ・パレンバンアジア大会、杭州アジア大会に出場。現在は国内の強豪クラブチームに所属し、IT企業で働きながら世界に挑戦を続けるデュアルキャリアアスリート。講習会などを通じ、子どもたちに成功体験を届ける普及活動にも尽力している。
春原 涼太(はるはら りょうた)
1998年生まれ、東京都出身。12年間のサッカー経験を持ち、大学進学後にセパタクローを開始。トサーとして頭角を現し、日本代表として活躍。杭州アジア大会をはじめ、2024年全日本セパタクロー選手権大会優勝、2025年キングスカップ世界選手権優勝など輝かしい実績を残す。現在は国内の強豪クラブチームに所属し、働きながら競技を継続。地域の体験会や中学生向け講習会を自ら企画・運営し、競技の普及と継続的な環境作りに情熱を注いでいる。
注記載
※本インタビューは2026年6月18日に行われたものです。