オリンピック3大会連続出場を果たしている小池詩織選手は、2025年2月に開催されたオリンピック最終予選ではキャプテンを務め、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック出場に大きく貢献した。オリンピックを1年後に控え、メダル獲得を目指してチームを牽引する小池選手の思いとは。
――2月に、スマイルジャパンとして4大会連続5回目のオリンピック出場を決めました。日本開催となった最終予選、チームのキャプテンとしてどのような思いで戦ったのでしょうか。
オリンピック最終予選が、8年ぶりに日本で開催されることになり、特別な思いがありました。北京2022冬季オリンピック後に世代交代もあった中で、私がキャプテンを任され、チームの方向性をどう決めていくかという不安もありました。これまでオリンピック出場を続けてきた流れを、私の代で途絶えさせたくないという思いが本当に強かったんです。その強い気持ちを持ってチームづくりに取り組み、オリンピック最終予選ではチーム一丸となって戦うことができたと思っています。
――小池選手ご自身は4度目のオリンピック挑戦となります。オリンピック出場を決めた喜び、周囲の反響などはいかがですか。
オリンピック出場を決めたことで、私の家族や友人、所属している会社の方々からも、たくさんの激励やお祝いの言葉をいただきました。想像していた以上にたくさんの方々が、オリンピック最終予選を観てくださっていたんだなと感じています。
――世代交代のお話がありましたが、若手とベテランのバラエティに富んだチームのように感じましたが、戦いながら手応えや課題に感じたことはありましたか。
北京2022冬季オリンピックが終わってからは、代表経験のない選手も加わり、翌年の世界選手権は、チーム一丸となって戦えなかったと感じた大会でもありました。当時は、アイスホッケーのシステムに対する理解が浅い選手も多く、課題が多かったと思います。しかし今では、全員が日本のホッケーを理解し、選手一人ひとりが自分の役割を把握しながら、それぞれが成長をしようと考えています。世代の差もあって、当初はチーム内でのコミュニケーションがうまくとれないことがありましたが、2年半が経ち、最終予選の直前には、年代に関係なく自然とコミュニケーションがとれるようになっていたと思います。だからこそ、最終予選ではチーム一丸となって戦うことができました。チームワークの面でも成長しましたし、アイスホッケーのスキルや技術面でも本当に成長してきたと感じています。
――具体的にどのようにコミュニケーションを図ってきたのでしょうか。
私は元々“いじられキャラ”なのですが、世代交代をしてからは、いじられることがなくなって、少し寂しさを感じることもありました。だからこそ、自分から「いじってよ」と後輩たちに声をかけたり、選手一人ひとりとコミュニケーションをとったりすることを意識してきました。私が積極的に声がけすることで、チーム全体のコミュニケーションの輪も広がっていったのかなと感じています。
――日本語は敬語文化の分、年功序列を崩すのは難しいですよね。小池選手ご自身から、目線を下げて輪に飛び込んでいく姿勢が素晴らしいですね。
本当にそうですね。話を聞いてみると、私は自分では“いじられキャラ”のつもりでも、気づけばいつの間にかベテランの立場になっていて、若い選手からすると話しかけづらい存在になっていたみたいです。「私は“いじられキャラ”なんだから、そんなこと気にしなくていいよ」と伝えながら、ここまでやってきました。
――オリンピックまであと1年です。まだ1年ある、もう1年しかない、どちらに感じますか。
両方の気持ちがあります。「もうあと1年しかないのか」という気持ちもありますが、その一方で、「まだ1年もある」と前向きに捉えて、この1年でチームのレベルをしっかり上げていきたいという思いもあります。時間があるからこそ、段階を踏んでステップアップしながらオリンピックに向かえることは、1年前に出場が決まったメリットだと感じています。
――アイスホッケーはお兄さんの影響で始めたと伺います。女子にとってはかなり激しく、怖さも感じるスポーツではないかと思いますが、どのようにのめり込んでいったのでしょうか。
初めはアイスホッケーに全く興味がなかったんです。2歳年上の兄が小学1年生からアイスホッケーを始めたのですが、その練習についていくと他の選手の妹さんや弟さんたちとリンクの中で遊べるので、それが楽しかったという感じでした。兄が小学4年、私が小学2年になった頃、ふと「アイスホッケーの練習をちゃんと見てみよう」と思うタイミングがあったんですよね。その時に「なんかすごく面白そうじゃん」と感じて、その日のうちに「アイスホッケーをやりたい!」と親に話していました。それが私がアイスホッケー始めたきっかけです。
たしかに、周りを見回しても女子でアイスホッケーをしているのは2、3人という環境でした。小学生の頃は男子のルールでプレーをしていたので、ボディチェック(体当たり)もありましたが、私はそのチェックに対する怖さはなかったんですね。どちらかというと、もっと積極的にチャレンジしていきたいという前向きな気持ちがあったので、私に合っているスポーツだと感じていました。
――小池選手は、いまは小柄で俊敏というタイプかと思いますが、当時の体格は周囲と比較してどのような感じだったのでしょうか。
アイスホッケーを始めた頃も体は小さめだったと思うのですが、小学6年生の頃には他の男子と同じくらいの体格になっていました。男子のルールなのでチェックもガンガンに来られるのですが、私も互角にやり合っていました。倒れても絶対負けないという感じで、いろいろチャレンジしながら楽しんでいました。
――小池選手が感じるこの競技の魅力とは。
やはりスピード感ですかね。両チーム合わせて12人の選手が小さいリンクの中に立ちます。体と体の当たり合い、迫力のある臨場感といったところがアイスホッケーの魅力だと感じます。
――アイスホッケーを観戦していると、スピードが速すぎてパックなども見失ってしまいがちという印象があるのですが、選手たちはそのようなことはないのでしょうか。
女子ホッケーの中ではあまりないです。ただ、合宿などで男子高校生と練習試合をすることがあるのですが、男子だとスピードが倍くらいあるので、パックを見失ったり、相手を見失ったりすることもあります。でも、試合になれば、たとえ国際大会でも相手は女子なので、パックを見失うようなことはほとんどありません。
――オリンピックはアイスホッケーをテレビで観戦するチャンスだともいえますよね。こういうところに注目して観ると面白いよといったアドバイスはありますか。
アイスホッケーは、キーパー以外のスケーター5人1組がセットと呼ばれるシフトを組んで行うスポーツです。各チーム、そのセットが4つ組まれていて、30秒から40秒程度、全力疾走しては、次のセットが交代して入る。このように次々とセットが交代しながら試合を進んでいきます。セットごとに役割や特徴が違って、攻撃メインのセットもあれば、守りメインのセットもある。そういうところにも注目しながら観ていただくと面白いかなと思います。
――自分たちのセットと相手のセットの相性のようなものも勝負を左右しそうですね。
相手の研究については、スタッフの方がすごくよくやってくれています。「このセットはこの選手がキーポイントで、こういうプレーをしてくるよ」といった情報が試合前のミーティングで共有されます。ただ、どのチームも最初に出してくるセットは、強い選手を中心に組んでくることが多いので、そうした“強いセット同士のぶつかり合い”も試合の見どころの一つになってくると思います。
――最初のセットが強くても、やはり5人✕4セットの20人全員のレベルをある程度底上げしていかないと、1試合全体は乗り切れないですよね。
はい。しっかり次のセットにつないでいくのは重要なところです。
――アイスホッケー専門家として小池選手自身を客観的に見た時に、どのようなところが魅力だと思いますか。
私はスケートを滑るのが好きで、アジリティ、細かい動きや俊敏に動くところが強みです。ディフェンスとして、自分のスピードを活かしながら、相手に対して早くプレッシャーを与えに行く守備を得意にしています。また、ディフェンスの位置からの攻撃参加も持ち味としているので、そういったプレーを観てほしいです。
――これまで進化してきた手応え、現在取り組んでいる課題などはありますか。
先ほどお話ししたように、私は攻撃参加を得意としています。ただ、現在のアイスホッケー界では、日本の若い選手や他国の選手たちのシュート力が本当に上がってきているんですね。その中で私自身もシュートに関してはさらにレベルアップしていかないといけないと思っているところです。単にシュートを打つだけではなく、得点確率が高くなるポジションから確実にシュートをゴールに届ける、といったところで課題が残っているので、オリンピックまでに力をつけていきたいと感じています。
――それは、まだ伸びしろがあるということですね。
はい。そう思っています(笑)。
――ストレスを感じた時のリラックス法などはありますか。
私は動物、とくに犬が大好きで、実家でも犬をずっと飼っていたこともあって、今は自分でもシェットランド・シープドッグを飼っているんです。元々は牧羊犬で走るのが好きなアウトドア系の犬なので、オフになったら自然がいっぱいの場所に連れて行って、一緒に散歩しながら癒しをもらってストレスを発散しています。
――これまで、3度のオリンピックを経験していらっしゃいますが、他の国際大会と違いを感じる部分はあるのでしょうか。
世界選手権は毎年開催されますが、同じ相手国でも、オリンピックになるとレベルの違いを感じることも多いです。オリンピックにピークを合わせて、世界選手権でも見たことのないプレーをしてくるといった印象があります。
平昌2018冬季オリンピックのスイスチームがそうでした。大会前に何度か練習試合をしてきたので、スイスはこういうチーム、ここが弱い、だからこういう戦術でそこにつけ込もうといった話をしていたのですが、オリンピックになってみるとその弱みはなくなっていたんです。オリンピックに合わせてしっかり仕上げてきていたのを見て、そこで初めてオリンピックと世界選手権では本当にレベルが違うことを実感しました。
――4年に1度の大会にピークを合わせる。それは自分たちだけでなく、相手も同じように特別な思いを持って臨んできているということですよね。
本当にそうですね。いろいろな思いが詰まっている大会だからこそ、今まで積み重ねてきた技術以上のものが重なって、本当にレベルの高い試合になるのだと感じています。
――次は、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックとなります。改めて抱負を聞かせていただけますか。
もちろん目標はメダル獲得です。過去3大会もメダルを目標としてやってきましたが、北京2022冬季オリンピックが一番メダルに近かったという印象を持っています。決勝トーナメントのフィンランド戦で1対7という大差で負けて私はすごく悔しい思いをしたので、そこを超えていきたいです。私自身4回目の出場になりますが、ここまでつないできていただいた先輩方の思いを一緒に背負ってこの大会に臨みたいです。
――オリンピック初体験となる若手選手たちもたくさんいると思います。小池選手から何かアドバイスをされているのでしょうか。
オリンピックは本当に楽しいところだよと。オリンピック最終予選を戦う上でも、オリンピックのイメージがないと超えていけないと思ったので、オリンピックは思いや夢のぶつかり合いだ、そういうものを発揮できる楽しい場所だと伝えてきました。若い選手たちもそこを理解してくれて取り組んでいるので、オリンピックに向かって楽しんでやろうということはこれからも伝えていきたいと感じています。
――楽しみながら、いじってもらいながら、チームを強くしていってください。最後にメッセージがあればお願いします。
私たちベテラン選手たちも刺激を受けるほど、若手選手は本当にパワフルで底上げされてきているので、これまでの3大会とは少しチームカラーが変わってきたなと感じています。オリンピックでは、そんな新たな魅力にあふれるスマイルジャパンの花を咲かせていきたいと思うので、ぜひ観ていただきたいです。
小池 詩織(こいけ・しおり)
1993年3月21日生まれ。栃木県出身。2歳年上の兄に影響を受け、小学2年でアイスホッケーを始める。日光明峰高校在学時にU-18日本代表に選出され、U-18アイスホッケーU18世界選手権に出場。苫小牧駒澤大学に進学、三星ダイトーペリグリン(現:道路建設ペリグリン)に入団。2013年全日本女子アイスホッケー選手権に優勝、MVPに輝く。14年ソチ2014冬季オリンピックでオリンピック初出場。18年平昌2018冬季オリンピック、22年北京2022冬季オリンピックでともに6位入賞するなどオリンピック3大会連続出場を果たす。勤務先は日本製紙総合開発。道路建設ペリグリン所属。
注記載
※本インタビューは2025年5月28日に行われたものです。
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