競技人口が増え、様々なバックグラウンドを持つ実力派選手が集結し、新たな進化の時を迎えているカバディ男子日本代表。自国開催という大きな舞台を前に、守備の要である荒竹大輝選手、キャプテンの阿部哲朗選手、そしてチームを率いる新田晃千監督に、それぞれの視点から競技の魅力、チームが培ってきた独自の連携、そして愛知・名古屋アジア大会にかける熱き思いを聞いた。

――競技を始めたきっかけを教えてください。
高校生の頃、「灼熱カバディ」という漫画を読んだことがきっかけです。そこでカバディというスポーツを知り、非常に面白そうだなと興味を持ちました。その後、進学先の大学にカバディのサークルがあったので、そこで始めました。
――「灼熱カバディ」の作者である武蔵野創先生と対談されていましたよね。
そうですね、憧れの人と会えるのはなかなかない機会ですし、対談できて感動しました。元々はアジア大会を盛り上げようという企画で、新聞社の方が作者の武蔵野先生と繋いでくださって、対談が生まれました。その内容が新聞の見開き一面に載っており、非常に驚きました。これを機に名古屋のファンが増えてくれたら嬉しいです。また、先日名古屋でエキシビションマッチをやりましたが、その際に大勢のお客さんが来てくださり、少しずつ反響は広がっているのかなと感じています。
――競技の魅力を教えてください。
私は守備のプレイヤーなので、守備メインでお話しさせていただきます。7人で連携して守備を行いますが、やはりバラバラに動くとやられてしまうので、息を合わせる必要があります。一緒に練習をしてどんどん息が合ってくると、一瞬のアイコンタクトで心が通じ合うようになります。自分が行きたいところで、仲間も同時に動いてくれるといったチームワークや繋がりのようなところが、魅力だと感じています。
――攻撃(レイド)と守備(アンティ)での性格やスタイルの違いはありますか?
レイドは「アート」、アンティは「ロジック」であるといった面白い言葉があります。守備側はチームで動かないといけないので、規律が必要です。そこにルールがあって、いかに全員で合わせられるか。そのルール通りに動けば、人数も多いので基本守備が有利です。しかし、逆に攻撃側は、ルール通りにきっちりと動く相手に対して、いかにそれをずらして、相手の意表を突いて崩していくかという勝負だと思っています。そのため、独自性や個人の色が出るものだと思っています。
――荒竹選手が担当しているポジションと、一番アドレナリンが出る瞬間を教えてください。
私はタックルを決めた瞬間が一番興奮します。私は「カバー」というポジションをやっており、タックルをして相手をコートの外まで吹き飛ばす、押し出すというのが一番得意です。それが決まったときはやはり非常にアドレナリンが出ますね。
――どういった場面で頭を働かせますか?
常に頭をフル回転させていますが、自分1人でやろうとすると追いつかなくなるので、チーム全員で連携を意識しながら考えます。仲間が後ろの方から出てきて相手の意識を引き、敵が後ろを振り返った瞬間に逆側からタックルを狙うといった、連携のところは特に頭を使います。

――チーム内ではどういった役割を担っていますか?
私は代表チームの中では比較的年齢が若い方です。周りには冷静でクレバーな先輩方が多いので、しっかり相手を見極めて動く先輩方に対し、私は最初の「火付け役(切り込み隊長)」としてチームを盛り上げる暴れ役をやっていけたらと思っています。
――仕事をしながら競技を続ける「デュアルキャリア」としての思いを聞かせてください。
会社の方にもご迷惑をおかけすることは多々あって、申し訳ないなという気持ちもありますが、運良く、周りに支えられてこのキャリアをなんとか進められているので、感謝しつつ、アジア大会でも会社の方に応援していただけたら嬉しいです。
普段の遠征費などは協会からの補助だけでなく、選手自身の自己負担もあります。また、急に決まる海外遠征のために「来月1週間休みます」と職場に調整をお願いすることもあります。そんな中で職場の皆さんが自分たちと一緒に頑張り、応援してくれているからこそ、練習や遠征に集中できています。そこに感謝しながら、少しでも恩返しできるように取り組んでいます。
――愛知・名古屋アジア大会にかける思いを教えてください。
負けられない戦いだと思っています。4年に1度のアジア大会が、今回自国開催となり、多くの方に応援していただいているので絶対に結果を出したいです。カバディ日本代表が最近メダルから遠ざかっている中、今回結果を出さないと後がないという思いもあり、チーム一丸となって絶対にメダルを獲ろうという気持ちで戦っています。自国開催は移動時間が少なく慣れた環境なので、体調不良や怪我のリスクが減るのが嬉しいところです。
――カバディを観戦する際、応援のポイントや知っておくべきルールはありますか?
日本は伝統的に守備(アンティ)が強いチームと言われてきましたが、最近は攻撃(レイド)も強くなっています。海外の体格の良い選手たちに対抗し、日本代表が組織力と連携でタックルを決め、粘り強いストラグルで生還する瞬間を、ぜひ生で見ていただきたいです。
知っておいていただきたいのが、攻撃中に外から声をかけるなどのコミュニケーションを取ることは禁止されています。「後ろからタックルが来ているから気をつけて」というように、コートの周りの人も観客も、動いている最中に攻撃手(レイダー)に声をかけることはいけないルールになっています。ただ、ストラグル(接触)が起こったら、バーッと盛り上がっていただければと思います。
――今後のカバディの普及活動についてはどのように考えていますか?
カバディの子ども大会というものがあり、子どもたちにどんどんカバディの面白さを伝えていきたいです。社会人の方や、大学生、中高生向けの体験会もあるので、どんどん参加してもらえるように頑張って魅力を伝えていければなと思っています。メディアの方々に取り上げていただくというのも貴重な機会だと思っていますので、今回取り上げていただけることも大変嬉しく思います。

――キャプテンとしてチームをまとめる上で、大切にしていることは何ですか?
以前までの代表チームは、日本のカバディの歴史を築いてきた大正大学の卒業生や、そのスタイルを学んできた選手たちが中心でした。そのため、競技スタイルや試合の進め方に最初からある程度の共通言語が存在していました。
しかし、今回の3年間で集まったメンバーは、競技人口が増えたこともあり、様々なバックグラウンドを持ってカバディを始めた選手が多くなっています。自分が当たり前だと思っていることが通用しないなど、共通言語がない状態からのスタートでした。まずは全員の意見を聞き、ミーティングを念入りに行う中で、誰もが当たり前だと思っていることも言葉にして共通言語を作ることを大切にしてきました。大会まで残り3ヶ月となった今でも、まだ伝わりきっていない当たり前があるのではないかという不安はありますが、一歩一歩進めています。
――試合の中でピンチになったり、チームの士気が下がったりした時、キャプテンとしてどのように鼓舞していますか?
日本の男子代表は、無謀で挑戦的なプレーはせず、常に正しいタイミングを狙って仕掛けています。それでもミスや失敗は起こるものですが、それは「リスクをとってチャレンジした結果」です。そのため、ピンチの時には「今俺たちが集中してチャレンジしているポイントは正しいから、これを続けよう」と声をかけてチームを鼓舞しています。
日本は海外の強豪国に比べて試合経験を積むのが難しい環境にあります。だからこそ、試合前に準備してきたことをどれだけ発揮できるかが肝になります。他国のように試合中にメンバーや戦術を次々と変えるような器用な戦い方は今の日本にはまだ難しいからこそ、「準備してきたものに自信を持って貫き通そう。周りはそれを信じてフォローしよう」と一貫性を大切にする声をかけています。

――過去にインドのプロリーグ(プロカバディ)に参加された経験があると伺いましたが、世界との違いをどう感じましたか?
5年ほど前にインドのプロリーグに3ヶ月間参加した際、日本は作戦会議や話し合いの「練度」や「解像度」が非常に高いと感じました。現地では「相手のエースを崩す」という大枠の共通認識はあるものの、具体的な落とし込みの道筋は意外とアバウトで、出たとこ勝負な面が多く見られました。それと比べると、日本はより解像度高く細やかにコミュニケーションを取って試合作りをしており、そこは日本の強みだと認識しています。
――カバディTEAM JAPANの「見どころ」を教えてください。
日本代表の圧倒的な武器は、やはりディフェンス(守備)です。7人が同じタイミングで一斉にグッと集まる守備が一番強いのですが、世界的に見ても7人全員が綺麗に集まる場面はなかなかありません。だからこそ、まずは最初に(相手を)引っ掛けた選手に対して、周りが必ず見捨てずに集まることを徹底しています。その連動の練度が上がっていくことで、あたかも7人が一瞬でギュッと集まったような強い守備に見えるのです。我々はこのような守備を目指しており、シチュエーションや仲間の動きを読んで先回りして仲間を助けに行くなど、全員が1つの生き物のようになるところを目指して練習しています。そういった姿を見ていただけたら嬉しいです。

――現役時代を経て、現在監督としてチームを率いる中での苦労を教えてください。
選手として6回アジア大会に出て、監督は今回で2回目ですが、自分たちの時代とは考え方も異なっているように感じています。現役生活が長かった分、「自分の時はそうじゃなかった」とギャップに悩む難しさもありますが、そこは折り合いをつけ、今の選手たちに理解してもらえるような接し方を心がけています。
――代表の主要メンバーである、荒竹選手と阿部選手にはそれぞれどのような役割を期待していますか?
荒竹に関しては、ディフェンスの「切り込み隊長」として、空気を読まずに相手が来たらとにかく初っ端から仕掛けてほしいです。彼が恐れずに仕掛けてポイントを取るとチームが盛り上がります。「片道燃料だけでいい」くらいの覚悟で早い段階から行って、ダメなら別のバックアップと代わればいいと考えています。こういった切り込み隊長としての役割に期待しています。 キャプテンの阿部はディフェンスの中心となっており、自分たちの守備をコントロールする役割です。技術的にも日本で一番高い選手である彼がバランサー役に回りすぎて消極的になると国際試合はあっという間に終わってしまうので、立ち上がりの5分、10分の非常に重要な時間帯から仕掛け、彼の場合はきっちり成功させて、チームに流れを持ってくることを期待しています。

――観戦する際のポイントを教えてください。
目と目が合っていない場所のポジションの人がどう動くか、そしてそれに対して周りがどう反応するかを見ると面白いのではないかなと思います。
――現在の日本代表の強みと今後のビジョンについて教えてください。
日本の強みはやはり連携、つまりチーム力です。特にディフェンスの時の連動性が武器になります。今回のアジア大会に関して言えば、まずはメダル獲得というのが最低限の目標です。最終的にはインドなどに勝って世界一になることが目標ですが、現状、インドの「プロカバディリーグ」で活躍している日本人選手はゼロです。そのため、まずは個の能力をしっかりと伸ばし、プロリーグで活躍できる選手を複数育てることが目標です。個の能力が近づけば、組織力ではインドに勝てるはずです。選手の個性や特徴を生かした指導をし、世界に通用するポイントを一つでも伸ばし、プロリーグへ送り込みたいと考えています。

荒竹 大輝(あらたけ だいき)
1998年生まれ、東京都出身。高い身体能力と技術を武器に頭角を現し、杭州アジア大会に日本代表として出場。2023年の第11回カバディ男子アジア選手権大会でも日の丸を背負って世界の強豪と渡り合った。現在は国内の強豪チーム「戸山ORIENT」に所属し、2025年度も日本代表強化指定選手に選出されるなどトッププレイヤーとして第一線で活躍を続けている。スピード感あふれるアグレッシブなプレースタイルが強みであり、自身のプレーを通じてカバディの魅力をより多くの人に伝えるための普及活動やチームの勝利に貢献している。
阿部 哲朗(あべ てつろう)
1998年生まれ、東京都出身。大東文化大学時代から頭角を現し、2018年ジャカルタ・パレンバンアジア大会ではディフェンスの要として全試合レギュラーで活躍、強豪国パキスタンを相手にカバディ史に残る大接戦を演じた。2019年の世界マーシャルアーツ・マスターシップでは男子日本代表として銅メダル獲得に大きく貢献。現在は「Babylon Breakers」に所属し、2023年のアジア選手権でも日本代表として戦うなど高い実力を維持している。強靭なフィジカルと卓越した判断力を活かした「崩れない守備」が最大の強み。逆境でも常に「夢は金メダル」と前を向く熱く強靭なメンタリティを持ち、チームの精神的支柱として信頼を厚くしている。
新田 晃千(にった てるかず)
1972年生まれ、埼玉県出身。高校時代のレスリング経験を活かし、大正大学入学後にカバディを始める。アジア競技大会には6大会連続で出場し、2010年広州アジア大会では男子日本代表を銅メダル獲得へと導いた、元日本代表主将。その圧倒的な実績と存在感から「ミスターカバディ」の愛称で国内外から広く親しまれている。現在は「A.K.S」に所属しながら男子日本代表監督を務め、若手選手の育成と戦術強化に励んでいる。卓越した戦術眼と、選手一人ひとりの強みを引き出す温かくも芯のある指導力が強み。愛知・名古屋アジア大会でのメダル獲得、そして日本におけるカバディのさらなる認知度向上に向けて情熱を注ぎ続けている。
注記載
※本インタビューは2026年6月13日に行われたものです。