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善意的性差別

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意味

性差別のなかには、敵意的性差別主義と善意的性差別主義の2つが存在しており、これを両面価値的性差別理論(Ambivalent Sexism Theory)という。

敵意的性差別主義とは、女性に対してネガティブな態度を示す性差別であり、善意的性差別主義とは、一見女性に対して好意的な行動に見えるが「巧妙な」性差別的態度が存在している差別である。

善意的性差別主義の例として、男性が女性を守るように行動する、男性は女性に提供しなければならない、女性は男性を完璧にするための良きパートナーであるという見方などがある。

これは、長年の男性支配社会と男性の従属関係にあった女性の歴史的な背景が原因となっている(Glick & Fiske, 1996, 1997, 1999)。

解説

スポーツ界は歴史的に、「女性の体力的劣位」を理由として、女性がスポーツをする機会を制限・禁止してきた。たとえば、女子マラソンが国際陸上競技連盟から正式に認められたのは1979年(東京女子国際マラソン)のことであり、オリンピックにおいては1984年のロサンゼルス大会まで待たなければならなかった。

これは、「女性は男性よりも体力的に劣るのだから、マラソンのような長距離を走っては危険である」という、一見、保護的な前提に基づく善意的性差別(benevolent sexism)の1つといえる。

依然として、女性には男性よりも短いセット数や距離が設定されている種目も存在し、それゆえに賞金額において男女格差も生じてきた。

「女性の体力的劣位」は女性の身体保護を前提とし、男性とは異なる種目設定にとどまらず、賞金格差をも生み出す根拠にもなってきたことから考えると、女性スポーツは善意的性差別によって成り立ってきたともいえるだろう。

文献

Glick, P. and Fiske, S. T.(1996) The Ambivalent Sexism Inventory: Differentiating Hostile and Benevolent Sexism. Journal of Personality and Social Psychology, 70(3): 491-512.

Glick, P. and Fiske, S. T.(1997) Hostile and Benevolent Sexism: Measuring Ambivalent Sexist Attitudes toward Women. Psychology of Women Quarterly, 21(1):119-135.

Glick, P. and Fiske, S. T.(1999) Sexism and other “isms”: Interdependence, Status, and the Ambivalent Content of Stereotypes. In: Swann, W. B., Langlois, J. H., and Gilbert, L. A.(Eds.)Sexism and Stereotypes in Modern Society: The Gender Science of Janet Taylor Spence. American Psychological Association: Washington, DC, pp.193-221.