大学時代にソフトボールの経験を生かしてクリケットを始め、長年にわたり女子日本代表の中心選手として活躍する柳田舞。現在は世界トップレベルのオーストラリアに拠点を置き、教員として働きながらTEAM JAPANキャプテンとしてチームを牽引している。十数年ぶりの出場となる「愛知・名古屋アジア大会」への情熱や競技の魅力、仕事との両立、そして第34回オリンピック競技大会(2028/ロサンゼルス)の正式競技採用を見据えた普及への想いを聞いた。

――クリケットを始めたきっかけを教えてください。
大学にクリケットクラブがあったことがきっかけです。元々ソフトボールをしていましたが、新しいスポーツに挑戦したくて、ソフトボール経験を活かせるものがいいということで始めました。
――ソフトボール経験がクリケットに活きたと思う瞬間はありますか?
たくさんあります。守備面では、野球やソフトボールと一緒でゴロを捕ります。クリケットはグローブではなく素手で捕るのでその点は違いますが、基本的な守備の動作は似ていると思います。バッティング面では、クリケットはバウンドしている球を打つのでその点は違いますが、バットでボールを打つという点は同じで、根本のところは似ているためソフトボール経験が活きていると思います。
――ソフトボールとの共通点もあると思いますが、クリケットならではの魅力はどこですか?
個人としては、クリケットはボールを360度に打てるので、真横に打ったり後ろに打ったりといろいろな打ち方があることが魅力です。私の役割は主にバッティングなので、打ち方を突き詰めると様々な打ち方があるので楽しいと感じます。
チームとしては、バッター1人につき、野球だと1試合で3打席ほど回ってきますが、クリケットは「1回アウトになったらその試合の打席は終わり」です。だから、チームとして「どうやってその打者からアウトを取るか」という、より深い戦術が求められるところが面白い部分だと思います。
――観戦時に注目してほしいポイントはありますか?
速球派の投手(ボーラー)だと長い距離を助走をつけてワンバウンドで投球します。速い投手だと野球と同じくらいの球速が出るので躍動感があると思います。また、バッターがボールを360度全方向に打ち分けるところに注目していただきたいです。

――観戦ルールなどはありますか?
「投手(ボーラー)が走り始めてからバッターが打つまでは基本的には静かにする」という暗黙のルールはありますが、今は世界各地でプロリーグがあって、関係なしに賑やかに騒いでいるところもあるので、あまり気にせず気楽に観戦してほしいなと思います。
――TEAM JAPANの強みや、海外チームと対戦する時の武器はありますか?
元々ソフトボールや野球をやっていた選手が多いので守備は強みだと思います。あとは投球(ボーリング)のコントロールです。また、バッティングは選手によってパワーヒッターだったり、器用に技をこなす選手だったり、いろいろなタイプの選手がいる中でチームとして1つにまとまっているところが私たちの強みかなと思っています。
――格闘技などの他競技だと体格の差が顕著に出る印象がありますが、そういった面で差を感じる部分はありますか?
バッティングなどは野球と似ている要素もあるので、体格の優れた選手の方がパワーがあってそれが強みになることもあります。一方で、クリケットはバウンドする球を打つためパワーだけでなく、技術も必要になってきます。小柄な選手であっても技術がしっかりした選手も多く、必ずしも体格の優れた選手が優位ではないのがクリケットの特徴でもあります。
――現在、オーストラリアを拠点にされていますが、日本と海外ではプレーする時の環境の違いはありますか?
日本でも練習環境は整ってきましたが、拠点にしているオーストラリアは女子の世界ランク1位の国でプレイヤー数が桁違いです。それに伴って、練習場所やコーチなどの環境面が整っているので「先を行っているな」と感じます。
――練習は1日にどれくらい行いますか?
日中はフルタイムで働いているので、オフシーズン(オーストラリアでは冬)の現在は大体週3〜4日2時間程度練習します。冬でも屋内や外で試合があるので、週に4日くらいは練習時間を確保できています。
――仕事を終えてから活動することは、精神的にも身体的にもだいぶ負荷がかかっているのではないですか?
日々疲れてはいます。学校で先生として働いているので、毎日学校に行って体力を使ってからクリケットをするのは大変です。でも、クリケットをすることが息抜きでもあり、それを楽しみにやっています。身体的にきついこともありますが、楽しい方が上回ります。
――仕事との両立が大変だと思いますが、遠征や試合の際、仕事はどうされていますか?
校長先生に「試合があるから休ませてください」と頼み込みます。代わりの先生を派遣していただき、コストもかかってご苦労をおかけしていますが、毎回休ませていただけるのでありがたいなと思っています。
――生徒や同僚の方から試合前に声かけなどはありますか?
生徒のみんながたくさん応援してくれて、授業の合間にスコアもチェックしてくれているようです。「試合見たよ」と言ってくれるのはとても嬉しいです。

――柳田選手はTEAM JAPANのキャプテンをされていますが、チームをまとめるうえで意識していることはありますか?
なるべく一人一人とのコミュニケーションを大切にしています。遠征に行くとチームや個人の調子のアップダウンがあります。その際、「何を思っているのか」「どうしたいのか」を話し合って、チームとして、個人としてどうやっていけばよくなるか考えるように心がけています。
――TEAM JAPANのメンバーとはそれぞれ活動拠点が異なり、毎日一緒に活動しているわけではなく、さらに年齢差がある選手もいると思いますが、チーム構築で苦労されている点はありますか?
拠点が違うと頻繁に一緒に練習ができないのでその点で苦労はしていますが、試合のスコアをチェックしてメッセージを送ったり、日本で合宿があった時に内容を送ってもらったりして、お互いに共有するようにしています。
――柳田選手の活動拠点であるオーストラリアは現在冬だと思います。9月に開催されるアジア大会は愛知県で行われますが、気温差や環境の違いには苦労されるのではないですか?
真冬の地域から真夏の地域に行くような形になりますね(笑)。ですが、毎年6月に日本で開催される大会のために帰国して参加するというのを数年やってきたので、だいぶ環境に適応できるようになったと思います。
――クリケットは試合中に監督から指示を受けることができないというルールがありますが、以前やられていたソフトボールとのルールの違いに困惑されたことはありませんでしたか?
ソフトボールでは、監督がすべてサインを出して指示するのでそれが当たり前だと思っていましたが、クリケットはそれをキャプテンがやります。自分がキャプテンでなかったときは、キャプテンから守備位置や自分の投げるオーバーの指示を出してもらって動いていました。ですが、いざ自分がキャプテンをやり始めた時は、1分1秒次のことを考えながら動いていたので、その点は苦労しました。
――キャプテンとしてチームをまとめたり、指示を出したりしなきゃいけない中で、ご自身も最高のプレーをしなくてはいけないと思います。精神的なプレッシャーも大きいと思いますが、9月の愛知・名古屋アジア大会に向けてプレッシャーは感じていますか?
大会や試合の度に反省するべきことがたくさんあって、「あれが出来なかったな、これが出来なかったな」と振り返りますけど、今チームはメンバーが固定化してきて、みんながより戦術を理解できるようになったので、助けられています。
――今年の愛知・名古屋アジア大会について、自国開催だからこその楽しみはありますか?
たくさんあります。ひつまぶしが食べられるかなとか考えました(笑)。日本チームが最後に出場した仁川アジア大会以降ずっとアジア大会に出場したくて、十数年ぶりに出場できるのが本当に楽しみです。それが自国開催で、なおかつ私の母の出身地である愛知県での開催で家族も見に来るので、特別な大会だと感じています。
――見に来てくださる方が多ければ多いほど盛り上がりますし、知人が来るならなおさらモチベーションが上がりますよね。
家族や元代表だった先輩方もチケットを取って、見に来てくれると聞いているので楽しみです。

――クリケットは海外でメジャーなスポーツだと思いますが、日本ではまだ認知度が低いように思われます。日本での普及のための活動はされているのでしょうか?
はい。クリケットの体験会や、クリケットの拠点がある佐野や貝塚、仙台、名古屋など各地域でクリニックの開催、簡易版クリケットである「Criiio(クリオ)」の体験会などたくさん行っています。
――体験会を実施するにあたって気を付けているポイントはどこですか?
まずは競技を楽しんでもらうことです。ボールを投げたり、バットで打ったり、子どもによって楽しめるポイントが違うと思いますが、どれだけ楽しめたかがその後も競技に触れてもらえるかのポイントだと思うので、とにかくたくさん褒めて、楽しんでもらうことを大事にしています。
――柳田選手としては今後クリケットがどのように普及してほしいか、思いはありますか?
今回、愛知・名古屋でアジア大会が開催されるのは普及への大きなチャンスだと思っています。また、ロサンゼルス2028オリンピックで正式競技として採用されたのでメディア露出も増えたら良いなと思いますし、そこからクリケットを始める子どもが増えて、時間はかかるかもしれませんが野球と同じくらい人気のスポーツになってほしいと思います。
――長い試合の時に行われる「ティータイム」は敵味方関係なく一緒になって休憩をとると聞きました。その時はどんな会話をされているのですか?
3時間程度の試合だとドリンクだけなのですが、1日かけて行うような長時間の試合だとティータイムがあります。オーストラリアだと敵チームに知り合いの選手がいることもあるので、敵味方関係なく交流しています。
――愛知・名古屋アジア大会に向けて、応援してくださるファンの方々にメッセージをお願いします。
ぜひ会場に足を運んでいただき、クリケットを楽しんでいただきたいです。会場に来られない方もいらっしゃると思いますが、私たちクリケットTEAM JAPANのことを知っていただき、応援していただけたら大変嬉しいです。
柳田 舞(やなぎだ まい)
1992年生まれ、神奈川県出身。ソフトボール経験を経て大学時代にクリケットを始め、長年にわたり日本代表として活躍。現在は世界トップレベルのオーストラリアに拠点を置き、現地で教員として働きながらTEAM JAPANのキャプテンを務める。体験会やクリニックの開催など国内での競技普及活動にも注力。十数年ぶりの出場となる「愛知・名古屋アジア大会」での好成績と、正式競技に採用されたロサンゼルス2028オリンピックを見据え、日本でのさらなる認知向上を目指す。
注記載
※本インタビューは2026年8月3日に行われたものです。