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スポーツ界で起こるセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)

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意味

セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、「相手を不快にする、性的な言動」であり、その行為の主が意図的であるなしに関わらず、被害者や周囲の人にとって「望まれない」「(明に暗に)強いられた」と受け止められる場合もセクシュアルハラスメントになる場合がある(熊安, 高峰, 2015)。

近年の日本のスポーツ界におけるセクハラは「単独型」と「集団型」に分類され、「単独型」の加害者の多くはスポーツ指導者や運動部活動顧問としての教師である場合が多い。選手に対して絶対的な権力を持ち、合宿や遠征などで選手と多くの時間と空間を共有し、指導を口実にマッサージなどの身体接触が許容されていることが特徴である。

また「単独型」では、加害者が被害者を周到に手なずける「グルーミング」がおこなわれることが多い。グルーミングとは、加害者が被害者となるターゲットを決め、ご褒美や罰を与えながら長い時間をかけて相手を手なずける行為である。グルーミングによって被害者との間の個人的な境界線を縮め、性的行為あるいは性交に逆らえないような関係性を築く。集団型とは身体接触の多い集団競技メンバー複数が1人か2人の女性に対しておこなう場合が多く、双方の当事者が既知の間柄であることが多い。社会的地位による権力差はないが筋力差が顕著であり、しばしばアルコールが介在するなどの特徴がある(熊安, 2019)。

また、セクハラに含まれる内容として、ジェンダーハラスメント、セクシュアル・マイノリティ差別、性的虐待、不均等な力関係にある大人同士の親密な関係も含まれる。国際オリンピック委員会(IOC)は「性的虐待」、「ジェンダー・ハラスメント」、「新入りいじめの儀式(Hazing)」、「同性愛嫌悪」、「傍観」などを関連行為としている(熊安, 2019)。

解説

日本のスポーツ界ではセクハラが生じやすく、見えにくい構造となっている。トップレベルの競技においては筋力優位主義であり、男性の優位性やジェンダー規範が正当化されやすい。また、スポーツ競技団体の閉鎖的な組織構造が既存の価値観や組織文化に対する疑問視をしにくい状況を作っている。スポーツ組織は権威主義的、集団主義的な傾向があり、組織の利益が重視される一方で個人の人権は軽視されやすい。事件が生じても隠蔽されることもあるため、身を守る手段として沈黙を余儀なくされてしまう傾向がある(熊安, 2019)。

また、①監督と選手の間に大きな力関係が生まれやすいこと、②密室的な環境を作りやすいこと、③スポーツ以外の領域よりも身体接触が許容されていると認識されていることも、スポーツ界においてセクシュアルハラスメントが生じやすい要因とされている(高橋, 山口, 2019)。

日本のスポーツ界でのセクシュアルハラスメントの事例は、指導者の立場を利用して高校生女子選手と2人きりの密室な状況を作り、複数回にわたって重大なセクハラ行為をおこなった事例や、中学部活動の顧問教諭がマッサージをするかのように装い,被害者らの下着内に手指を差し入れるといったわいせつ行為を数年続けた事例、遠征中のホテルにおいて大学生女子選手に飲酒させ、昏睡状態にさせたのちに、姦淫したという事例が報告されている。

文献

熊安貴美江・高峰修(2015)スポーツ組織におけるセクシュアル・ハラスメント防止ガイドラインの作成. スポーツとジェンダー学会, 13:183-192.

熊安貴美江(2019) 日本のスポーツ界におけるセクシュアル・ハラスメントの実態と防止のための課題. 女性学研究 Women’s Studies Review, 26: 67-82.

野崎与志子(2013)ジェンダー・ダイナミクスとアメリカ社会の変化:女性の労働参加とグラス・シーリング. アジア太平洋研究(38): 39-51.

高橋欣也・山口理恵子(2019) スポーツ界の体罰・セクシュアル・ハラスメント問題に関する予備的考察. 城西大学経営紀要, 15:53-70.