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ガラスの崖

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意味

「ガラスの崖(glass cliff)」とは、経営不振や不正などにより組織が危機的状況のときほど、女性がCEOなどのトップの地位に置かれやすいという概念である。危機的状況の立て直しはさまざまな困難があり、失敗のリスクも高い。

実際に失敗すると「だから女性はトップに向いていない」という偏見を生み出しがちである。ライアンら(2007)によると、女性たちに指導的地位を与える上司たちは、女性を好意的に扱い、達成困難と思われる役割に挑戦する機会を自分たちが与えていると信じている。

女性たちもキャリアアップの機会をもらったと思い、そのような貴重な機会は辞退しづらいと考えがちである。また上司たちは、状況が不安定であるがゆえに、たとえ自分たちが女性に与えた機会が限られたものであったとしても、女性の昇進に対して非難する声を否定することができる。

つまり、組織としては女性に昇進の機会を与え、なおかつ組織内の男女の力関係は変わることはない(Susan R. Madsen, ed., 2017: p.51-52)

解説

一橋大学大学院のクリスティーナ・アメージャンは「ガラスの崖」から女性が突き落とされないためにも、所属する組織が危機的状況にあるなかで、なぜ自分が指導的立場に抜擢されたのかという理由を女性自身が知っておくことが大切であると指摘する。

またそのような状況では、ちょっとした失敗に対しても「だから女ではダメだ」といった男性とは異なる評価が女性にされがちであることも知っておく必要があるという。

これらをふまえた上で、アメージャン教授は「ガラスの崖」を乗り切るための心得として3つのポイントを挙げている。まず1つ目は、足りない点も含めた自分の現状を知り、必要な情報や偏見を見極めるために、メンターの存在が有効であるということである。メンターの性別は関係なく、複数人いればさまざまな角度からのアドバイスを受けられる。2つ目のポイントは、「女性たちのロールモデルにならないといけない」といった余計なプレッシャーを背負い込まず、「自分なりにできること」を心がけることである。そして3つ目のポイントは、昔ながらの慣習に縛られたやり方ではなく、リスクを負ってでも自分が本気で成し遂げたいことを重視することである(Ahmadjian, 2016) 。

文献

Ryan, M. K. and Haslam, S. A. (2007) The Glass Cliff: Exploring the Dynamics Surrounding the Appointment of Women to Precarious Leadership Positions. The Academy of Management Review, 32 (2): 549-572.

Madsen, S. R. (2017) Handbook of Research on Gender and Leadership. Edward Elgar Pub: Massachusetts.

Edwards, L. and Jones, C. (2013) Celebration on Ice. Double Standards Following the Canadian Women’s Gold Medal Victory at the 2010 Winter Olympics. Sport in Society, 16(5): 682-698.

Eagly, A. H., Gartzia, L., and Caarli, L. L. (2014) Female Advantage. In: Kumra, S., Simpson, R., and Burke, R. J. (Eds) The Oxford Handbook of Gender in Organization. Oxford University Press: New York, pp.153-174.

Ehrmann, W. (1959) Premarital Dating Behavior. Henry Holt: New York.

Holmes, J. (2006) Gender Talk at Work: Constructing Gender Identity through Workplace Discourse. Blackwell: Malden, MA.

Jackson, C. and Tinkler, P. (2007) ‘Ladettes’ and ‘Modern Girls’: ‘Troublesome’ Young Femininities. The Sociological Review, 55: 251-272.

LaVoi, N. M. (2016) Women in Sports Coaching. Routledge: London.

ピルチャー・ウィラハン:片山亜紀・金井淑子訳(2009) ジェンダー・スタディーズ. 新曜社:東京.

Stan, M. (2017) Unique or Double Standard to Again in Sports? Case of Retired Gymnasts. Journal of Comparative Research in Anthropology and Sociology, 8(2): 85-102.