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佐藤深雪

インタビュー

日本アイスホッケー連盟 理事

佐藤深雪さん

きっかけ・理由

退職を機に東京都連盟理事、そしてNFへ

東京都連盟の理事になったきっかけ

私は今から5年前に、会社を辞めました。会社員の生活も一定の経験を積んで十分にやりましたので、少し休養と次の活動のための充電がしたくなりました。家族との時間を持ちたいとも思いました。両親も高齢になってきましたし、やはり少しゆっくりしたいなという気持ちが強くなり、会社を辞めたのです。

会社を辞めて少ししたら、以前所属していたチームの先輩から、「東京都アイスホッケー連盟の女子担当役員をしてもらえないですか」という依頼がありました。私の前任者の女性が、仕事がとても忙しくなってしまって、後任を探していると。それで、たまたま会社を辞めて自由が利く身になっていた私に声がかかりました。時間もあるし、今までずっと好きで続けてきたホッケーなので、「お手伝いしてもいいですよ」という気持ちで気軽に引き受けたら、フルタイムのボランティアとして非常に忙しくなりました。

理事になったきっかけ

東京都連盟で活動しているときに、NFの役員の方と知り合う機会がありました。そのとき、NFがIFとつながりを強化したい時期で、IFに推薦する人材を探していました。そうしたなかで、お声をかけていただき、国際委員会というところに所属して、お手伝いを始めました。ちょうど平昌オリンピック最終予選、冬季アジア大会など、国内で開催する国際競技会が立て続けにあり、大会運営でIF役員のアシスタントをさせてもらいました。これは、IFとの接点作りでもあったのですが、その活動がすごく楽しかったんですね。

その活動で、IFのしっかりした組織運営を知ったり、大会委員長などで活躍する女性の姿を見たり、お話ししたりするなかで得た情報がすごく新鮮で、多くのことを学びました。

国際委員会の活動で、女子普及イベントをサポートしたこともあり、「NFの理事をしませんか」という話につながったのだと思います。

JOCからも「女子日本代表がオリンピックに出ているのに、女性役員が不在というのもどうか」と再三いわれていたということもあると思います。

気づいたこと

ボランティアによる運営

理事になってみて気がついたこと

楽しんでやっていたのですが、大きな問題に気がついたのです。NFもそうですし、こういった地域の連盟もそうですけれども、基本的にはボランティアの集まりですので、運営、業務、ワーキングスタイル、進め方などに統一感がなく、バラバラなのです。

皆さんが仕事を持たれた上でのボランティアですので、本当に忙しい時期にいろいろなものが重なったりしたときに、個々にかかる負荷が非常に大きくなってしまう。やっているうちにだんだんスポーツ団体の課題が見えてきて、「これって、ここまでボランティアがやるべきことなのかしら?」というふうに、少しずつ疑問が湧いてきたのです。この先これで成り立っていくものなのか、「この先、同じように進めていっても、次の世代は引き受けてくれないのではないか」とか。理事としての活動を数年続けていくなかで、持続可能な組織として運営していく上での課題をだんだんと強く感じるようになりました。連盟として、問題意識を持ってこうした課題についての対策をしないといけないと思うようになりました。

大変・戸惑い

組織の課題を解決できないもどかしさ

組織の問題点(ボランティア)

急に「役員やってください」とか言っても、男性だって当然できないですよね。30代・40代・50代であれば、やはりお仕事がものすごく忙しくて、家庭もあって、ということで、女性とか男性とか関係なく、両立は難しいので理事になるなんて難しいというのが現実です。役員の負担というのをもう少し軽減した上で活動に参加してもらうというふうにしていかないと、なかなか成り手は、出てこないでしょう。

そして、もう1つ重要になるのが、働いたことへの対価です。お金のためにやるわけではありませんが、やはりある程度の報酬がないと、優秀な人材は来てくれない。なかなか来にくい。

アイスホッケーをとても愛していて、「私はお金なんか要らないです」という人ももちろんいますし、報酬を求めている人ばかりではないと思うのですが、優秀な人材に入っていただくためには、ある程度の対価を支払うことが必要だと思います。「いやあ、俺たちの時代は好きだったからやったんだよ」といわれても、それはその時代はそうだったかもしれませんが、これからのジェネレーションはそうはいかないはずです。

この問題は多くの方がわかっていることだとは思いますが、「じゃあ、どうやって実現するか」が難しいところ。課題や問題を認識して、どうしたらいいのかという解決策が見つかったとしても、対策をしたらすぐに成果が上がるとは限らないので、スピードを上げつつも、中期的・長期的に考えてやっていかなければいけないなと痛感しています。正直、危機感を持っています。

理事の仕事

現場の女子・女性アスリートのために働く楽しさ

東京都連盟での理事

仕事内容としては、女子の大会を運営したり。東京都連盟に所属する女子中高生や女子小学生による東京都選抜チームの強化練習を行い、遠征に帯同したり。それから、全国大会に出場する東京都代表チームを決める予選を実施したりと、女性に関わる仕事は全部担当しています。かけ持ちで広報委員会も担当しています。ほかの理事も全員いろいろなかけ持ちをしています。

基本、アイスホッケー連盟の役員はみんなボランティアです。事務局の方は職員ですのでお給料が出て、事務作業、実務をしていただくのですが、役員はボランティアなのに忙しいです。今もてんてこまいです。

東京都連盟に入ったときは、自分のやることについてのきちんとした引き継ぎもあって、自分がどういうことをやるのかという活動のイメージが割と具体的にありましたので、「なんだろう」という気持ちはそれほどなかったです。逆に、とても楽しんでいました。運営側として、現場でジュニアの子たちのため、女性のために、いろいろとできるというのは、「あらっ、楽しい」と思ったんですね。

NFでの理事

一方で、NFの理事は「どういう役割なの?」というところも明確ではないですし、それは今でもですが、どのような役割でどのようなことが期待されているのかについては、あまり説明もなく、組織の体系もわかっていませんでした。

そのようなこともあって、ポジティブに理事を引き受けられたわけではありませんでした。とても責任は重くて、やるのだったら本当に腰を据えてする覚悟を持って、生半可な気持ちで受けるべきではないと思っていました。しかし、東京都連盟の会長からも「推薦したい」といわれたので、家族にも相談しました。

そして、自分なりにできることをやればいいかと。できないことを思い悩んでも仕方がないし、新人なんだしと開き直りました。

活動を通して、連盟を変えていかないといけないと思っていましたので、意見を伝えて、良い方向につなげられるようにと意識しています。

やりがい

人との繋がり、達成感

理事のやりがい

大変なことがあったり、問題があると思ったりしても、アイスホッケーが好きという同じ気持ちで知り合った人たちが協力し合ったり、そういう人たちから話をたくさん聞けたりする機会があって、そうしたことがうれしく、コミュニケーションの重要性も再認識しています。

やはり1つの大きな大会やイベントを協力してやり遂げられたときには、みんなでやった達成感を感じたり、ありがたい気持ちになったりするので、そういううれしさや楽しさがあるからやれるのかな、と思います。

選び方

競技との関わり方の変化

アスリート時代から競技を離れるまで

アイスホッケーは中学3年生の終わり頃から始めました。当時、西武系の女性社員のためのクラブチーム「コクドレディースアイスホッケークラブ」(現SEIBUプリンセスラビッツ)に練習生として入部させてもらいました。その後、大学に進学しても、競技は続けていました。大学では英語専攻だったこともあり、英語を使える仕事はないかな、と探して外資系の製薬会社に就職しました。就職しても競技は続けていましたが、日々の練習はフルタイム勤務のあとにしていました。24歳のときに、日本代表になりました。会社がアイスホッケーに対して理解してくれて、代表の活動で合宿や海外遠征に行くといったときにも、特別休暇を出してくださるなど、本当に温かく支援していただいていたんだなと今になって思います。でも、だんだんとアイスホッケーへの情熱が薄れていったのです。仕事の責任が増していくなかで、このまま続けていけないのではないかと。競技中心の生活をするためには、多くのことを犠牲にしないといけないのです。社会人としてもやりたいことが大きくなってきたことと、若い選手が出てきたこともあって、アイスホッケーへのモチベーションが薄れ、高校生のときから続けていた「コクドレディース」を退団したのです。

変革

時代に合わせた変革が必要

組織の変革の必要性(連盟の姿勢)

昔は理事は名誉職だったかもしれません。しかし、時代が変わって、理事には実務能力が必要で、組織を回していける人材でないと本当にやっていけないなと思います。連綿と続いてきた連盟の体質や過去の実績や慣習に支配されていることが、スポーツ団体が世間ずれしている原因です。

スポーツでいえば、当然「選手ファースト」でなければならないわけですが、その視点で動けていないところが問題です。やりたくてもできないとか、リソースが足りないとか、いろいろな事情はあるのですが、できないことも含めた情報公開をしていないので、連盟に対する批判をSNSなど、いろいろなところに書かれたり、いわれたりしています。「そりゃ、いわれちゃうよな」と自分でも思います。ただ、そのように顧客の声を聞くことは企業では当たり前のことですので、スポーツ団体も、そこは急いでやっていかなければいけないところだろうと思います。

私が理事になったときは、50歳で最年少でした。やっぱり組織運営のためには、バランスよくいろいろなジェネレーションが組織に入らなければいけないと思います。そして、いろいろな意見を交えるような役員会にして、そのなかで活動していくのがいいと思いますが、実際には年代に偏りがある状況です。

今後の目標

会社員の経験から、企業で仕事をしていた経験に基づく自分の考え方や仕事の仕方などは、連盟の運営に取り入れていくべきと思っていますし、それを生かせるという自信もあります。

スポーツ団体が少し世の中とずれているなと感じることが多々ありますので、世の中の意見をいかに取り入れて、いいサイクルでいろいろなことを回していって、いろいろな人と関わって、スポーツやアイスホッケーを盛り上げて、ファンを増やすことにつなげていきたいというのが私の目標であり、希望であり、そういったことを常に念頭に置きながら仕事をしています。

スポーツ団体は、ITとか情報を活用することに遅れをとっていると思います。ファン、選手、関係者が求めているような情報発信が遅れているとか、コミュニケーションも不足しているといわざるを得ない部分がありますので、そこをなんとかしていきたいなと考えています。

私が大事にしたいと思っているのは、ボイス・オブ・カスタマー。企業であれば、顧客の声を聞くということです。各地域のチームであったり、連盟であったり、関係者の方であったり、いろいろな人の話を聞いて、何が求められているのか、どのようなことをしていけばいいのかということを吸い上げて、連盟の役員会に伝えて、実際の活動につなげていきたいと思っています。

支援・試み

若いアスリートへのきっかけの提供

若い世代を取り込む

選手として頑張っている若い世代に、委員会の活動や大会で「ちょっとお手伝いしてもらえる?」と声をかけるようにしたんです。積極的にやってくれる選手や学生が結構いるんですね。大きい大会のときには広報の受付業務などをお願いすると「いいですよ」「やります」といってくれたり、あとは「やりたい」といってくれたりする若手もいるので、こうした仕事とのつながりを若いうちから持ってもらうのがいいなと思っています。

なぜこれが大切かというと、今、高校生や大学生であれば時間がたくさんありますが、彼女たちも就職したらやはり忙しくなってしまって、手伝えなくなってしまう時期が必ず来ると思うんです。それでも「仕事が落ち着いて、時間が少しできるようになったので、また手伝います」とか、結婚して子どもが大きくなったら、子どもを連れて一緒にリンクに来てもらうとか、いろいろなことができますよね。競技から少し離れてしまったり、お休み期間があったりしても、現場に戻ってこられるようにしておきたいのです。女性のライフイベントに合った形で競技にずっと長く関わりを持ってもらえるようにするには、若いうちから意識させることが大切なんです。

お手伝いをしてくれる高校生や大学生は、自分が選手でありつつ、運営はこうしているんだ、運営の人とレフェリーがいなければ試合はできないんだ、ということが自然にわかるわけですよね。昔の私は、選手時代、プレーすることにしか興味がなく、連盟の人たちがどのように運営してくださっているのかということに思いをいたすことが足りていませんでした。競技運営に自然に触れる、関わってもらうことで、選手に裏方の大切さを理解してもらおうと心がけています。

そういった意味での普及とか育成ということを考えていかなければいけないと思います。ただ選手を強くする、増やすということばかりにフォーカスしてしまいがちですが、もっと全体的なことを、アイスホッケー界として考えていかないといけないのかな、と身をもって感じています。

女性役員が増えるためには

正直いって、役員を目指したいアスリート、女性アスリートがどれだけいるのか。現実的に「私、役員になりたいです」などという人がいるのかなと。まず、「やってみよう」という気持ちになってもらえるような環境作りが最初だろうと思っています。若いときから運営に携わって、「楽しいな」「みんなと協力してやりがいがあるな」と実感できるような経験の場を提供してあげないことには、「役員になります」という人は絶対に出てこないと思います。

あとは、今のNFの役員というのは、たとえば海外に出ていくことを推奨されたり、国際化のなかで海外と接点を持つことが求められたり、それ以外にも実務スキルが必要だったり、普通の企業並みにいろいろなことが求められるのですが、会社勤めをして学んだことを生かしてもらうのはもちろんとして、スポーツ団体としても機会を提供する必要があるなとは思います。

やはりいろいろな連盟で、とても心細い思いをしている女性の役員候補者や委員、「うちの連盟は…」という切実な訴えをされる方も多くいらっしゃいます。そういう方たちを1人にしないネットワーク作り、実際の悩みを相談できるような支援が、競技を越えて必要になってくると思います。

何かあったときに相談できる女性のネットワーク、連盟のなかだけでなく友人など、どこか相談できる人や場所、気晴らしができるところは絶対に必要です。

私の場合はとても恵まれていて、連盟のなかにも信頼できる上司や先輩がいますし、一緒に活動してくれている20代、30代の委員もいます。こういった人たちといろいろと前向きな活動ができるというのも、とても励みになっています。

あとは家族ですね。家族が良く理解してくれて、サポートしてくれることが重要です。

経験を活かす

選手経験と運営の融合

アスリート経験が理事に活きていること

私は選手としての経験が長いため、選手だったらどう考えるか、チームだったらどう考えるか、ということがパッと思いつくんです。こうした競技者側の考えを運営側とうまく調整できるかどうかが、重要になってくると思います。現場を知らないと現実離れしたアイディアに陥ってしまいます。また、運営面ばかり考えていると、選手のために、という考えが持ちづらくなってしまいます。両方を見ることができる、考えることができるという面で、アスリート経験はすごく必要だなと思います。

自分の選手時代といまはかなり違いますが、共通することもたくさんありますので、自分の経験を生かせると思います。あとは、女子・女性ならではのいろいろな状況があり、男子とは精神面の違いがあったり、チームビルディングの仕方も異なったりするので、女性だったらどうかな、という部分も配慮できると思います。