日本オリンピック委員会(JOC)は5月26日、東京都新宿区のJapan Sport Olympic Squareにおいて「令和5年度JOCパートナー都市連携会議」を開催しました。本会議はオリンピック・ムーブメント推進活動を進めるにあたり、JOCパートナー都市との更なる連携強化が必要となることから、JOCの活動やオリンピック・ムーブメントの推進におけるJOCパートナー都市との取り組み事例を紹介し、また、日本におけるオリンピック・ムーブメントの今後の展開について情報共有や意見交換を行うことを目的に実施。会議は二部構成で実施され、JOCパートナー都市、オブザーバー合わせて19の自治体が参加しました。
第一部のはじめに主催者を代表して挨拶に立った山下泰裕JOC会長は、東京2020大会を通して、コロナ禍における日本の大会運営は世界のスポーツ関係者から称賛されたものの、国内におけるスポーツの価値が欧米と比較して著しく下がってしまった現状を説明。この要因にあるのは「我々JOC、日本スポーツ界の努力不足、実力不足」と断じると、「JOC、スポーツ関係者は自分たち、各競技団体、スポーツ界のことだけを考えていた。社会に対する役割、責務を十分に果たせていなかったのではないか」と述べました。そして、『JOC Vision 2064』において掲げている「スポーツの価値を守り、創り、伝える」ための3つの活動指針「オリンピズムが浸透している社会の実現」「憧れられるアスリートの育成」「スポーツで社会課題の解決に貢献」を紹介した山下会長は、「社会に対して果たすべき役割を認識して行動するためにまずは、パートナー都市の皆さんともっと関係を密にして、多くの人たちがスポーツを身近に感じ、その価値を認識してもらえるように、絆を深めて一緒に活動していきたいと思います」と、自らが提案して5年ぶりの開催に至った本会議の目的を述べ、更なる連携強化への協力を呼びかけました。
■オリンピック・ムーブメントについて
次に、パートナー都市協定について伊藤弘一JOC事務局長が説明した後、オリンピック・ムーブメントについての講話が、JOCオリンピック・ムーブメント事業専門部会員でもある中京大学スポーツ科学部の來田享子教授により行われました。
來田教授は近代オリンピックの成り立ちや創始者であるピエール・ド・クーベルタンが提唱したオリンピック・ムーブメントの意義、オリンピックシンボルの色や5つの輪に込められた意味などを説明。そして、それらを踏まえてオリンピック・ムーブメントを簡単に定義するならば「スポーツを通じた、あるいはスポーツによる教育を、国境を越えて若者に提供し、そして人間らしさを高め、平和な社会を目指すという国際的、かつ教育的な社会運動である」と解説し、大会そのものが持つ意義についても補足しました。
また、オリンピック・ムーブメントが推進している活動は近年、他の組織においても同じ共通目標として取り組まれていることを、近年の国際動向として紹介。この世界的な流れの中で国際連合、ユネスコ、世界保健機構などの国際機関の活動、および国際オリンピック委員会(IOC)が現在焦点を当てている課題である「人権と平和」「スポーツとビジネスの両輪」「地球の持続可能性」などについて説明しました。そして、これらのオリンピック・ムーブメントに関する近年の動向を踏まえ、パートナー都市においてオリンピックはどのように活かせるかに関して、來田教授は「アスリートは20年後にどのような人材として地域に貢献できるのかを意識した強化と育成」「草の根レベルでのスポーツの普及」「敗北から立ち上がり歩き続けるアスリートの価値」「市民が集うスポーツ施設の在り方」の観点から言及してアドバイスを送りました。
■オリンピアンがオリピック教室を紹介
次に、JOCオリンピック・ムーブメント事業専門部会員及びJOCアスリート委員であるオリンピアンの伊藤華英さん、小口貴久さん、田中琴乃さんがJOCオリンピック・ムーブメント推進事業について紹介しました。
この中では特に、「オリンピズム(オリンピック精神)」や「オリンピックバリュー(価値)」をより身近に感じてもらうためにオリンピアンが先生となり、中学校2年生を対象に授業形式で行う「オリンピック教室」に関する感想や講義内容などを共有。実際に、オリンピック教室がきっかけとなり、その後、生徒が良い方向に変容する様子を学校の先生から聞くことで、オリンピアン先生としてのやりがいを直に感じることができた等の感想を述べました。また、3つのオリンピックバリューにちなみ、それぞれがオリンピック教室で中学生たちに伝えている自身の経験、スポーツやオリンピックで得た学びを以下のように紹介しました。
エクセレンス(卓越)
「努力なくして今の私はない。その努力の大切さを子供たちに伝えています」(田中さん)
フレンドシップ(友情)
「仲間、ライバルがいるからこそ頑張れる。友情をはぐくむことでなりたい自分になれるかもしれないよと伝えています」(伊藤さん)
リスペクト(敬意/尊重)
「ルールは尊重し守りつつも、より速くなるために何ができるかをやってきたことは自分の一つのリスペクトの部分でした」(小口さん)
そして、オリンピック教室だけでなく、オリンピアンの経験を伝える場として今後も各都市と様々に協力していきたい意向を小口さんらは述べました。
また、この日の会議には谷本歩実JOC理事、JOCアスリート委員会から松田丈志委員長、高平慎士さん、三宅宏実さん、堀島行真選手と、5名のオリンピアンも出席。代表して登壇した松田委員長は「アスリートには必ずターニングポイントとなる話があります。年齢や時期、感じたことなど選手それぞれが違うからこそ、色々なアスリートがいて、3つのオリンピックバリューにまつわる話はきっと子供たちにも刺さると思います。ぜひ、子供たちの学びの場として活用していただけると嬉しいです」と、参加者に向けてオリンピック教室の長所をアピールしました。
■富士吉田市が活動事例紹介
次に、パートナー都市の活動事例紹介として、富士吉田市役所企画部企画課の萱沼俊光課長が登壇。令和2年3月2日にJOCパートナー都市として締結してからの取り組みとして、オリンピック教室の開催実績、JOCストリートバナーフラッグの設置などを紹介しました。また、国際スポーツ大会を契機とした富士吉田市のスポーツ振興とレガシー創出として、ラグビーW杯2019フランス代表事前キャンプ受け入れ、東京2020大会フランス女子セブンズ合宿受け入れ、陸上日本代表の強化合宿受け入れのほか、ラグビー、陸上、トライアスロン、バスケットボール、フェンシングなどオリンピアンを招いてのスポーツ教室や交流イベントの様子を合わせて紹介。萱沼課長は「小さい都市ですが、色々なことに挑戦しながらレガシーを残していこうと取り組んでいるところです」と、今後もオリンピックやスポーツを通じたレガシー創出への意欲を述べました。
第一部の最後は、「TEAM JAPANシンボルアスリート ソーシャルアクション」についてJOC事務局が説明。第1弾として2022年11月に小平奈緒さんが長野県茅野市でスケート教室を開催し、今年度も6月10日、11日に兵庫県で阿部一二三選手・阿部詩選手による柔道教室と柔道大会、10月21日に石川県で金城梨紗子選手によるレスリング教室、12月10日に群馬県高崎市で上野由岐子選手によるソフトボール教室を開催予定であることを紹介しました。これらはパートナー都市と連携して開催しており、JOC事務局は今後のソーシャルアクションのさらなる実施、拡大に向けての協力を呼びかけました。
■情報交換会を実施
第二部は会場を日本オリンピックミュージアムに移して、情報交換会を実施。籾井圭子JOC常務理事が「JOCが単独でできることは限られていますので、オールジャパンでオリンピック・ムーブメントを推進できるように外部の組織、機関、団体との連携を大切にしています。ぜひ今日をきっかけに皆さまそれぞれの自治体と連携を深めていければと思いますし、また自治体の皆さん同士が積極的に情報交換していただいて、パートナー都市全体として連携を深めていければと思います」と挨拶した後、参加したパートナー都市の担当者、山下会長をはじめオリンピアン、JOC職員・スタッフが様々な意見を出し合いながら交流を深めました。
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