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2022.06.16 オリンピック

【北京2022冬季オリンピックメダリストインタビュー】堀島行真:オリンピックと向き合う覚悟

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、北京2022冬季オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

堀島 行真(スキー/フリースタイル)
男子モーグル 銅メダル

【北京2022冬季オリンピックメダリストインタビュー】堀島行真:オリンピックと向き合う覚悟
スキー・フリースタイル男子モーグルで銅メダルを獲得した堀島行真選手(写真:アフロスポーツ)

■ミスがあっても諦めない気持ち

――銅メダルを獲得されていかがですか。(※)ほとんど寝ていないのではないかと思いますが。

 大丈夫です。楽しんでいます。
(※インタビュー実施日2022年2月6日)

――日本人メダリスト第1号ということで、TEAM JAPANを本当に勢いづけてくださったと思います。

 うれしいですね。モーグルは僕がもしとれなくても、(原)大智くんもいましたし、(杉本)幸祐くんも(松田)颯もチャンスがあったと思っています。そして今日は女子モーグルもありますし、すぐに第1号は出てくるだろうという気持ちで挑めました。モーグルチームとして自信はありましたが、まずはホッとしたというのが一番大きな気持ちです。

――周囲の反響はいかがですか。

 LINE、メッセンジャー、インスタグラムなどを通して、たくさんの方から「ありがとう」とか「感動した」などポジティブな言葉をいただきました。僕自身がすごく元気づけられましたし、またここから頑張れる糧となり、すごくうれしい時間になりました。

――メダルをとる前ととった後とで、想像と現実とに差がありましたか。

 どこまで華やかな世界なのか想像していたわけではないのですが、こうしたインタビューも銅メダルをとったからこそ経験できています。素直に喜びつつ、また今後の競技に向かっていく力にしていきたいと思います。

――堀島選手が一人のモーグル専門家として自分自身を解説すると考えてください。今回の銅メダルがとれた要因はどこでしょうか。

 シーズン初めから9戦連続で表彰台に上がり、万全の状態で北京に入ることができました。そして、その状況で今回も3位以内に入り、メダル獲得という結果を得られました。明確な準備ができたところが、今回の結果につながったと思います。

――結果が出れば出るほど、かえってそのことがプレッシャーになってしまうこともあるのではないかと想像します。大会前の成績は、自信になるのか、プレシャーになるのか、その点はどのように感じていたのでしょうか。

 北京に入る時点では本当に自信がありました。オリンピック直前のワールドカップでも優勝していたので、すごくいい形で大会に臨むことができました。でもおっしゃられたように、1戦目で表彰台に立ち、2戦目で表彰台立ち……と表彰台を逃さずくると3戦目がキツく感じます。9戦連続、100%表彰台に立てているといっても、その状況も結局のところは確率の話でしかありません。オリンピックという舞台で100%を継続できるかは、本当にやってみないと分からないところがあります。1戦ずつ積み重ねてきたプレッシャーは個人的にも感じていましたが、でもやるべきことはプレッシャーを感じることではありません。僕たちの競技は、1戦1戦の積み重ねの連続です。今回メダルをとることができてあらためて、毎回同じように向き合っていくことが大切なのだと感じました。

――今回、予選1回目でミスがあり、予選2回目に回りました。これは、今までにない流れだったと思います。ご自身はどんな風に受け止めていらっしゃったのでしょうか。

 ネガティブな状況ではありましたが、その結果をポジティブにとらえて、例えば「オリンピックのスタート台により多く立つことができる」とか「オリンピックの時間を長く楽しめる」という気持ちでいたんです。2月5日、この日のためにこれまで努力してきましたし、この日のために力を温存してきた部分もあったので、本数が増えることに関してもネガティブにとらえるのではなく、練習や調整ができる回数が増えたと思うようにしていました。

――予選2回目に回ってメダル獲得に至ったのはオリンピックでも初めてだそうです。客観的に考えると1本増えることによって疲労も増えるということですよね。慣れるからいい、たくさん滑れていいと思うようにしていたとおっしゃっていましたが、どちらかというと本音としては、「あり」あか「なし」かでいえば、「なし」だったのでしょうか。

 本当は「なし」だったと思います。というのも、予選2回目もミスできなかったですし、その後のファイナル1回目(準々決勝)もミスできず、ファイナル2回目(準決勝)も3回目(決勝)も本当にミスができない中での滑りが続きました。
 モーグル競技には、競技特性上、独特の緊張感があります。3本の内ベストの1本で競ってもおかしくないぐらいなのに、本当に不安定な足場の中ミスが決して許されず、ルール上1本1本全ての滑りを揃えていくことが求められます。1本を滑る重みや大切さは、競技をやっている選手全員が感じています。モーグルはそういった見どころがありますが、1本滑る回数が増えたことは、僕にとってすごく不安な要素でもありました。

――そのような中で、予選2回目の第1エアでは強い風を受けました。また、決勝のミドルセクションの部分でも一瞬バランスを崩しかける場面がありました。見ているほうもドキドキするような展開でしたが、ご自身はどのようなお気持ちだったのでしょうか。

 予選2回目の強風が吹いた時は、他のみんなが滑った時とは違う気象状況だったので、それこそ中断申請を出すこともできたのかもしれないのですが、自分自身すごく集中して気持ちが入ってしまっている状態だったので、そういう選択肢を考えられなかったんですね。「とにかく成功させるぞ!」という気持ちで最後まで滑り切ることができました。ワンミスまでは僕としてはOKと思っていました。そのワンミス以外に絶対にミスなく攻めて降りるというのが最後の決勝のランにつながったのです。
 決勝はスタートの段階では思い切っていこうという気持ちで、すごくポジティブでいいスタートが切れたのですが、第1エアのランディング後に少し板が詰まって、足が開いてしまいました。このワンミスがあって、とにかく絶対にゴールラインまで攻めなければ、その時点で上位の選手たちを上回ることができません。逆に、彼らを上回ることさえできれば僕のメダルが確定するという状況の中で滑り出したので、ゴールラインまで全力で最後まで滑るぞという気持ちで諦めなかったことが良かったのでしょう。ミスランディングをしてしまった後に、これを巻き返すためにリスクをとってスピードを殺さずに攻めるしかないと思って滑り切ることができました。とっさの冷静な判断や、やるべきことがちゃんと分かっていたことが今回の銅メダルにつながっていると思います。

■プレッシャーを克服して

――2019年末から世界中に新型コロナウイルス感染症が拡大しました。東京2020大会も1年遅れで開催された中で、堀島選手はスポーツやオリンピックを取り巻く環境をどのように感じていましたか。

 東京2020大会は新型コロナウイルス感染症が流行して最初のオリンピック・パラリンピックでしたので、反対意見が多かったり、選手が非難されることもあったりしたと聞きます。そういう状況で大会に出場することになった選手たちは不運だと感じましたが、ただそこから半年後には僕たちの番になるわけです。一方で、東京2020大会があったおかげで、僕らはどう対処すべきなのか、どう向き合うべきなのかを学ぶこともできました。だからこそ、この北京2022冬季オリンピックも開催できていますし、その点は本当にありがたく思っています。

――4年前の平昌オリンピックと比較して、今回の北京2022冬季オリンピックで何か違いを感じた面はありますか。

 平昌オリンピックの時は、ただひたすら「メダリストになるためにはどうしたら良いか」とばかり考えていました。なったこともないことを「どうしたら良いか」と考えていたのです。いろいろな挑戦に関しても「間違いない」「これだ!」というものはありません。今大会、銅メダルをとるまでは正解かどうか分からなかったわけですが、今、こうしてメダルをとったからこそ「今までやってきたことは銅メダルにつながる」と言えることを実感しています。シーズンが始まる前に、9戦連続表彰台に立つことも、試合の中で得た毎日の気持ちのコントロールのことも、何本滑るのかを本数制限した中で練習してきたことも、全てがかみ合って獲得できた銅メダルです。自分が目的を持ってやってきたことをしっかりと理解した上でとれたメダルだったので本当に良かったと思います。

――他の国際大会とオリンピックとで違いを感じる部分はありますか。

 周りも含めて、オリンピックという舞台だからこそ調子がいい選手が出てきます。オリンピックに合う選手もいるし、オリンピックでは成績が出ない人もいる。大舞台で活躍できる選手、大舞台に飲まれてしまう選手、それぞれタイプがあります。見られることに慣れているか、カメラに映っている自分に対するプレッシャーのかかり方、全世界が競技を見ている中で自分が競技をできる自信があるのか、自分はどういうタイプなのかを踏まえた上で準備する必要があるのです。オリンピックという舞台を1回経験したことで、オリンピックにはそういった視点が必要なのではないかと思うようになりました。

【北京2022冬季オリンピックメダリストインタビュー】堀島行真:オリンピックと向き合う覚悟
スキー・フリースタイル男子モーグルで銅メダルを獲得した堀島行真選手(写真:アフロスポーツ)

■競技力のあくなき向上を目指して

――オリンピックの魅力の一つは、競技をするライバルたちが「敵」ではなく「対戦相手」であり、その対戦相手は同じ競技を愛する仲間であるというところ。そういう考え方が、国際平和に結びついていくという理念があります。戦いを終えた堀島選手が、バルター・バルベリ選手やミカエル・キングズベリー選手と握手して「よくやったね」と健闘をたたえ合う姿は印象に残りました。ご自身としてはライバル選手をどのように思っているのでしょうか。

 僕が今やれることを最大限発揮できました。結果が出た時点で、その結果を受け入れられる覚悟を持ってオリンピックに臨むことができていました。どのような結果でも、それ以上はできなかっただろうと自分が納得できるやり方を貫くことができました。
 滑り終えて結果が出るまで安心できなかったのはたしかですが、やってきたことがこの結果につながっていることを受け入れるようにしています。自分を上回った人がいれば、その人は本当にベストを出したのだと思いますし、逆に、自分を下回ってしまった人は悲しかったり、悔しかったりする気持ちがあるでしょうし……。そういった選手一人一人の気持ちを考えると、ただ競争するだけの仲間ではなく、一歩引いて個々の思いを感じられるようになっていると思います。

――そういうところが、「このスポーツをやってみたい」と思う子どもたちが増えることにつながるかもしれないですね。

 はい。モーグルは自分の技術を20数秒間の中に詰め込む。自分がやってきた滑りに、気持ちも含めて乗せていく競技だと感じていて、それがモーグルの好きなところです。演技者として競技に向き合ってきましたが、子どもたちをはじめ、皆さんの精神面などで参考になるところが少しでもあればうれしく思います。

――堀島選手はトレーニングの一環で、飛び込み、器械体操、フィギュアスケート、パルクールなど本当にいろいろなスポーツに挑戦していますよね。子どもたちがスポーツをする時にも何か一つの競技に絞ってしまいがちなところがあると思っているのですが、複数のスポーツを体験するメリットがあれば教えてください。

 例えば、こうしたインタビューを受ける時でも、この経験が何か競技につなげられないかと考えています。いろいろな競技から学ぶことについても、常に自分のやっていることと結びつける思考を僕は持つようにしているのです。モーグルという競技に集中しているからこそ、どんなことからも何かしら競技に結びつくヒントを得ようという意識で、他のスポーツに取り組んでいます。いろいろな競技をやると自分の競技に応用できるというのが、後付けではなく、「自分の競技力向上に活かしたいからやっている」という点が重要だと思います。競技を愛し、どうすればさらに上達するかを求めていれば、自然にどうすべきが明らかになってくると感じています。

――すてきな話をありがとうございました。4年後、2026年のミラノ・コルティナオリンピックを目指すのでしょうか。

 はい。2030年には札幌も開催都市として手を挙げていると聞いていますので、最終目標としてはぜひ札幌オリンピックに出たいと思っています。

――それは頼もしいですね。期待しております。本日はありがとうございました。

 ありがとうございました。

■プロフィール
堀島 行真(ほりしま・いくま)
1997年12月11日生まれ。岐阜県出身。
両親の影響により1歳でスキーを始める。小学4年の時に、本格的にモーグル競技に取り組む。高校3年の時には、ワールドカップ開幕戦で3位入賞。中京大学に進学後、2年生の2017年には世界選手権に出場し、シングル、デュアルで金メダルを獲得した。18年平昌オリンピックで初のオリンピック出場を果たす。北京2022冬季オリンピックでは男子モーグルで銅メダルを獲得した。トヨタ自動車スキー部所属。

(取材日:2022年2月6日)

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