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2025.12.16 お知らせ

「令和7年度スポーツと環境カンファレンス」を開催

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令和7年度スポーツと環境カンファレンスを開催(写真:アフロスポーツ)

 日本オリンピック委員会(JOC)は12月3日、日本スポーツ協会(JSPO)と共催で「令和7年度スポーツと環境カンファレンス」を開催しました。本カンファレンスは、JOCが2005年度から開催していた「JOCスポーツと環境・地域セミナー」とJSPOが2020年度から開催していた「JSPOスポーツと環境フォーラム」をスポーツ界が一体となり、共通の認識をもってスポーツと環境に関する課題に対応すべく、2021年度よりJSPOとともに開催しています。2025年度は、56の中央競技団体(NF)から環境担当者等70名が会場に参集しました。

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主催者を代表して挨拶を行った岩田史昭JSPO常務理事(写真:アフロスポーツ)

 はじめに、主催者を代表してJSPOの岩田史昭常務理事が開会の挨拶に立ち、「国連がSDGsを策定し、国際社会で気候変動が最重要課題となる中、スポーツ界も例外ではありません。熱中症予防だけでなく、温室効果ガス排出削減といった緩和策への主体的な取り組みが求められています。JSPOにおきましては、研究部門により調査研究を継続的行っており、またこの成果に基づき、温室効果ガス削減のための手引きの策定や、印刷物のカーボン・ニュートラル化を進めております。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測では、将来的に平均気温が大きく上昇する可能性が示されており、次世代にスポーツの機会と楽しさを伝えていくためにも、環境問題への取り組みは最重要テーマの一つです。参加者の皆さまとともに、環境保護の必要性を考え、実践方法を学び、情報交換をし、有意義なものになりますことを祈念しております」と述べました。

 続いて、JSPOスポーツ科学研究室の石塚創也主任研究員と、JOCサステナビリティ専門部会副部会長及び東海大学准教授である大津克哉氏がオープニングレクチャーを行いました。

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オープニングレクチャーを行ったJSPOスポーツ科学研究室の石塚創也主任研究員(写真:アフロスポーツ)

 まずは、石塚氏が近年の国際的な動向と研究データを示し、「人間による活動が地球を温暖化させてきたことについては疑う余地がない」というIPCCの報告を伝えました。続けて、国際的な法制度や国際オリンピック委員会(IOC)およびJSPOの取組を紹介。2025年6月に改訂されたスポーツ基本法に、国や地方公共団体に対し気候変動への対応に特に留意しなければならないという文言が追記され、これにより熱中症予防の適応策だけでなく、温室効果ガス排出量(GHG)削減の緩和策への主体的な取組が必須となったことなどを説明し、最後に「今後のスポーツの実施やオリンピックの開催が危ぶまれています。本カンファレンスが、これまで先駆的な取組を行ってきた団体からこれから始めようとする団体まで、スポーツの持続可能性を確保するため、また各組織のガバナンスを確保していくために、スポーツが世界に気候変動対策の在り方を発信するツールとなる必要性があることを再確認する場となることを期待しております」と参加者へメッセージを送りました。

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オープニングレクチャーを行ったJOCサステナビリティ専門部会副部会長及び東海大学准教授である大津克哉氏(写真:アフロスポーツ)

 続けて大津氏が「スポーツと環境〜スポーツ界の持続可能性に向けて〜」というテーマでレクチャーを行いました。まず地球温暖化の現状について、日本の夏の平均気温が統計開始以来最も高く、日本の気温上昇のペースが極めて速いことに警鐘を鳴らしました。地球温暖化がスポーツに与える影響として、冬季競技会場での雪不足や、熱中症対策としての夏季競技の開催時間・場所の変更等、近年発生している事例を紹介。続けてJOCでは今年度からサステナビリティ専門部会を新設し、GHG排出量の計測および公表、環境理念・行動指針の見直し、そしてアスリートやNFと連携する行動リストの策定を進めていることを紹介しました。さらにスポーツと環境の接点には「スポーツが環境に影響を与える」「スポーツが環境から影響を受ける」という2つの側面があるとした上で、古着を回収してウェアにアップサイクルするなどの「スポーツの現場における環境保全」と公認指導者が指導対象となる各年代への環境啓発のロールモデルとしての役割を担うなどの「スポーツを通じた環境問題の啓発」という両輪による対応が求められていることを説明。最後に「スポーツの現場における環境汚染について、指導者やアスリート、競技団体、商品メーカーなどスポーツ業界全体で取り組んでいかなくてはいけません。本カンファレンスを通して皆さまの背中を後押しする機会になればと思っております」と述べ、レクチャーを締めくくりました。

 次のプログラムでは2つの事例報告が行われました。

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事例報告を行った株式会社アシックスエグゼクティブアドバイザーの吉川美奈子氏(写真:アフロスポーツ)

 まず、株式会社アシックスエグゼクティブアドバイザーの吉川美奈子氏が登壇し、サステナビリティを推進する企業側の視点からサステナビリティを推進する背景や取組を紹介しました。アシックスは「People(人)」と「Planet(地球環境)」の2つの柱でサステナビリティを推進しており、ものづくり企業として、バリューチェーン全体でのCO2排出量削減の取組だけでなく、循環型のものづくりへの転換を行ってきました。お客様がランニングアプリを使用し、5km走ったり歩いたりする毎に植樹をするという、スポーツをして健康になることと地球が健康になることを可能にしたサービスなども行っており、また東京2020大会での思いを選手の皆さまに届けるために、ウェアを回収して選手のウェアにリサイクルをするということも行いました。吉川氏は最後に「憧れのスポーツ選手が何かを発信すれば、誰かを動かす力になります。未来の人たちがスポーツをする環境を今の皆さまがつくっていきましょう」と行動を呼びかけました。

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事例報告を行った合同会社デロイトトーマツの仲田宗行氏(写真:アフロスポーツ)

 次に、合同会社デロイトトーマツの仲田宗行氏が登壇しました。同社は、IOCのワールドワイドオリンピックパートナーであり、環境保全活動とサステナビリティの知見を提供し、より持続可能なオリンピック・ムーブメントの実現を目指しています。2024年よりIOCグローバルアクセラレータープロジェクトとして、NOC(国内オリンピック委員会)やIF(国際競技連盟)に対し、GHG排出量の算定支援、アクションプランの策定支援など、気候変動対策の支援を実施。さらに、IOCが開始した気候変動対策に優れたNOC、IF、またはアスリート個人を表彰する取組の選定に携わっており、昨年度受賞したスイスオリンピック協会が国内のスポーツ連盟や協会に対して気候変動対策の財政的な支援を行った先進的な事例を紹介しました。ヨーロッパでは自転車移動など移動手段の変更といった取組が活発で、今後のアワードに注目が集まっていることを紹介しました。

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オリンピアンを交えたパネルディスカッションを実施(写真:アフロスポーツ)

 続いて、オリンピアンを交えたパネルディスカッションが行われました。大津氏がモデレーターを務め、事例報告に登壇した仲田氏と吉川氏に加え、オリンピアンの松田丈志氏(水泳/競泳)と村上めぐみ氏(バレーボール/ビーチバレーボール)がゲストとして参加。オリンピックや競技活動を通しての経験談を交えながら議論を深めました。

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パネルディスカッションに登壇したオリンピアンの松田丈志氏(写真:アフロスポーツ)

 はじめに環境問題の気付きについて松田氏は「生まれ故郷は頻繁に台風が来る場所で、台風が通過した後は川沿いや海沿いにゴミが溢れます。それを見たときに、海の中にこんなにゴミが入っているのかと衝撃を受け、現役の頃からビーチクリーン活動を行ってきました。現在は『スポGOMI』のアンバサダーにも就任し、様々な大会の前にイベントをやっています。環境への小さなアクションですが、取り組むためのきっかけをつくっています」と、村上氏は「コート設営の際にいろいろなゴミが落ちているのを見たことをきっかけに興味を持ちました。地球温暖化の影響で当初コート2面張れていたところが、今は1面も張れない状況になっていることや、日中の試合が困難で夜に大会を開催している現状に危機感を感じています」と述べ、活動団体に話を聞いたり、大会前日に選手や関係者とゴミ拾いをしたりしていることも明かしました。

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パネルディスカッションに登壇した村上めぐみ氏(写真:アフロスポーツ)

 続けて、オリンピック会場や選手村等での環境対策について問われ、村上氏は「一番実感したのは、東京2020大会の時に使用した段ボールのベッドです。随所にサステナブルを感じる場所があった印象があります」と、松田氏は「パリ2024大会時、給水ボトルを配布するなど環境負荷を減らすための工夫がいくつもされていたことを覚えています。支給されたユニフォームが無駄になってしまっている現状を見て、関係者として併用できて環境負荷の少ないものを作成するため試行錯誤しました」と述べました。これを受け吉川氏は「環境対策の理解が深まっていないように感じるときがあったため、パリ2024大会の際は選手への説明やリーフレットを配布して伝える努力をしました」とコメントしました。

 次に、アスリート副委員長を務めている村上氏の提案で、NFにおける環境活動への取組について、参加者を交えながらディスカッションが行われました。各競技団体からは「アスリートはあまり環境負荷について意識できていない」「器具そのものが環境負荷になってしまっている」「自分たちが使ったものは、自分たちでアップサイクルする」「選手自らがSNS等で活動を発信している」などの意見が上がり、抱える問題は多種多様であることが判明。これに対し仲田氏は「GHG算定量を計測するなど、まずは現状を把握することが大事であり、そのうえでどこからチャレンジできるかを考えていく必要があります」と、松田氏は「環境アクションのイベントに参加し、それをチームビルディングとして扱うと効果的であるように感じます。フィールドの違いがあれど、インドアの選手が自然の環境を意識する経験をつくっていくことは、大事なポイントだと思います」と、村上氏は「自覚して行動できるかが競技にも繋がり、活動をしていく中で試合の勝ち負けだけではないことに気づいてもらえたらいいと思います。当たり前を変えていく活動ができれば、環境負荷低減に繋がると思います」と回答しました。続けて大津氏は「スポーツと文化に加えて、90年代後半に環境というものが入ってきました。ただ開催するだけでなく、環境問題に真摯に取り組んでいくことが明記され、その教育的なところが非常に重要で、オリンピックだから不便なこともあると知っていれば、アスリートたちの環境に対する感じ方も変わってくるのではないかと思います」と述べました。

 最後にディスカッションのまとめとして登壇者から今後の抱負が語られました。吉川氏は「サプライチェーンの見直し時に環境基準を導入することで、単なる環境推進だけでなく、サプライチェーンの効率化にも繋がります。そして目標を共有することで、社員のエンゲージメントを高め、一体感を持って取り組めるため推進しやすくなります」と語り、仲田氏は「最近の民間企業では、もともとなかった価値に対して付加価値をつけ、所属組織への貢献として評価する新しい考え方が増えており、環境問題だから取り組むというよりも、付加価値をつけるという目線に切り替えて活動することは、気候変動対策に限らず非常に重要です」と語りました。

 続けて松田氏は「アスリートも環境を考える場や設定をいかに一度でも多く作れるかが重要です。小さな一歩の積み重ねが大きなアクションにつながるという思いで、NFでも環境について一緒に考える機会を作っていただければ幸いです」と語り、村上氏は「地球に生きている環境が当たり前ではないという意識を持つことが、行動の第一歩だと考えます。専門知識の有無にかかわらず、1人の人間として誰でもできる当たり前の行動を積み重ねることが重要です。ここにいる皆さまが実践することで、行動の輪が広がり、やがてアスリートたちにも伝わっていくと信じています。思うだけでなく行動に移し、一緒にスポーツ界が社会に良い影響を与えていけるよう実践していきましょう」と語りました。

 大津氏は「海外ではスタンダードな環境対策ですが、日本ではまだ足並みが揃っていません。団体はポリシーとロードマップを明確にし、宣言だけでなく数字で成果を示すことがファンやスポンサーの信頼獲得につながります。また、対策を怠れば将来世代は厳しい環境を強いられます。日常生活でもサステナビリティというフェアプレーを実践し、知識を意識に変えて行動する人を増やすことが重要です。皆さまと一丸となってスポーツ界からポジティブな行動やメッセージを継続的に発信していきたいと思います」と語り、パネルディスカッションが締めくくられました。

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参加したNF環境担当者のディスカッションの様子(写真:アフロスポーツ)

 その後、参加者がグループディスカッションを実施。グループごとに、お互いの所属する組織における環境への取組について、情報共有を行いました。

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閉会の挨拶を行った小谷実可子JOC常務理事(写真:アフロスポーツ)

 すべてのプログラムが終了し、閉会の挨拶として、JOCの小谷実可子常務理事が登壇者とパネリストに感謝を述べた後、「たくさんの方にマイボトルをご持参いただいたり、資源削減のために資料をデータで配布したりするなど、環境に配慮した形で実施することができました。本カンファレンスはオリンピック・ムーブメントの一環としてスポーツ界が一体となって環境課題における情報を共有して改善していく場として開催しており、アスリートや企業の皆さまと連携を深めながらスポーツ界全体での気候変動対策を行うことを目指しています。アスリートやオリンピアン1人1人が価値発信力に気づき、環境に対する意識をもって自発的に活動してくれることを願っています。そして、JOCだけでなくNF内での教育や連携が非常に重要であり、今日の議論をきっかけにそれぞれの立場で取り組める環境保全の一歩を考えていただき、スポーツ界全体で持続可能な社会を作っていけたらと思います。次にお会いする時にはJOCも皆さまも環境保全に関わる取り組みがアップデートされていることを楽しみにしております」と総括し、カンファレンスを締めくくりました。

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