公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は6月16日、名古屋マリオットアソシアホテルで、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまで237社/団体428名(2025年6月27日時点)の採用が決まりました。今回の説明会は愛知県、中部経済同友会との共催で行われ、22社36名が参加しました。
最初に共催者を代表して、大村秀章愛知県知事がアスナビ説明会の開催に尽力した関係者および参加企業への感謝を述べました。世界の舞台での活躍が期待される若きトップアスリートである就職希望者5名に対し、「試合とは異なる緊張感の中でも、自分の思いをしっかりとアピールしてほしい」と激励しました。続けて、「トップアスリートの皆さんにとって、安心して競技活動に専念できる環境は、国際大会での活躍に直結いたします。また、企業の皆様にも社内に新たな活力が生まれるなど、大きな効果が期待できます」と述べ、企業にアスリート採用を呼びかけました。また、愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会が開催されることにも触れ、開催まで500日を切った中で経済界の支援に感謝しつつ、JOCなどと協力して開催準備を進めることを表明しました。最後に、「大会を盛り上げるためには、地元愛知県にゆかりのある選手が活躍することが大変重要だと考えます」と、引き続き愛知県ゆかりの選手への支援を呼びかけました。最後に、本日の会が実りの多いものとなることを祈念し、冒頭の挨拶を締めくくりました。
続いて、中森康弘愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会副事務局長兼JOC参与が主催者を代表して、アスナビ説明会に参加した愛知県の大村知事と中部経済同友会の皆様に感謝の言葉を述べました。また、トップアスリートの練習環境は整備されてきているものの、選手個人の日々のトレーニングや日常生活のサポートまでは支援できていない現状を説明し、「ぜひ皆様方の力添えをいただきまして、我が国のトップアスリートの明日を、そして未来をご一緒に築いていただけないでしょうか」と参加企業にアスリート採用を呼びかけました。
続いて、柴真樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要を、資料をもとに紹介。アスナビが無料職業紹介事業であることや登録するトップアスリートの概略のほか、就職実績、雇用条件、採用のポイント、アスリート活用のポイント、カスタマーサポート、採用活動の進め方などを説明しました。
続いて、採用事例の紹介として、株式会社河合電器製作所代表取締役社長の佐久真一氏とPublicRelationsご縁づくり担当の神谷友芽氏が登壇しました。まず佐久氏が同社におけるアスリート採用のエピソードについて、2023年の中部経済同友会のアスナビ説明会をきっかけに、フェンシングの小林かなえ選手の採用に至った経緯を説明しました。
続いて、神谷氏が同社におけるアスリート活用事例を紹介しました。神谷氏ははじめに会社説明を行った後、アスリート採用の狙い、採用後の効果を話しました。アスリートを通じた地域貢献活動にも力をいれていく旨を述べ、最後に「選手が秘めている可能性は無限大で、いろいろな形で活躍してくれると感じています。他のアスリート採用企業の皆様からも学びつつ、企業とアスリートの良い関係性を築いていきたいと思います」と参加企業に向けてメッセージを送りました。
その後、就職希望アスリート5名がプレゼンテーションを実施。映像での競技紹介やスピーチで、自身をアピールしました。
■渡邉愛蓮選手(スキー/アルペン)
「私は雪国の長野県戸隠市に生まれ、気が付いた時にはスキーが生活の一部になっていました。公園で遊ぶようにスキー場で遊び、小学1年生で地元のレーシングチームに入り、難しい雪やコースを攻略するなど、アルペンスキーの魅力にのめり込んでいきました。小学生の頃から数々の大会で優勝し、その後もジュニアオリンピック、インターハイ、インカレ、国体、全日本選手権で優勝、そして世界ジュニア、ユニバーシアード、ワールドカップ、世界選手権など数々の国際大会にも出場してきました。私がスキー競技を通して培ってきた強みは2つあります。1つ目は、自分の軸を持ち、目標達成まで挑戦し続ける力です。私は12歳の時、初めて苗場でワールドカップを観戦し、大歓声の中をフルスピードで駆け抜ける選手たちに心を奪われました。私もあの舞台でスキーがしたいと強く思った日から、どうすれば速くなれるのかを常に考え、行動してきました。思うようにいかない時も、その夢を信じて厳しい練習に耐え、挑み続けました。その結果、昨シーズン初めて世界選手権に出場し、1万人を超える大歓声の中を滑り切ることができました。そして、次はワールドカップや世界選手権、オリンピックなどの大舞台で優勝するという新たな目標が生まれました。その夢に向かって、私は新たな挑戦を始めています。2つ目の強みは、限られた時間の中で優先順位を考え、効率的に行動する力です。私は日々のハードスケジュールの中で、道具の手入れやフィジカルトレーニング、セルフケア、食事の管理、そして大学の課題など、これらすべてをこなすために時間を無駄にせず、何を優先すべきかを常に考えながら行動してきました。この経験から目標に向かって効率的に努力し、確実に成果へと繋げる力を磨いてきました。私はこの2つの強みを生かし、部長を務めた高校3年生では、インターハイ、女子学校対抗で2位という快挙を成し遂げることができました。私が自分の目標と真剣に向き合い、本気で練習に取り組む姿勢が次第に周囲にも影響を与え、チーム全体の意識を大きく変えていきました。私はこの経験から、私の行動は周囲に良い変化をもたらすということを実感しました。ご採用いただけましたら、競技に向き合い続ける姿勢を通じて、社員の皆様に前向きな刺激を届け、一体感の醸成、会社の変革に貢献していきたいと考えています。私は、地域の皆様に支えられてここまで競技を続けることができました。そのため、アルペンスキーを通じて恩返しをしたいという強い思いがあります。12歳の時にワールドカップを観戦して夢と希望をもらったように、次は私が夢と希望を与え、そして挑戦への活力を届け、地方全体を盛り上げる存在になりたいと思っています」
■舟橋悠矢選手(アーチェリー)
「私は小学6年生の夏休みにアーチェリーに出会いました。それから10年間競技を続け、アーチェリーを通してたくさんのことを学び、精神的にも成長したと感じています。特に成長したと感じていることは、どんな試合でも実力を発揮できるようになったことです。大学1・2年生の時は、トーナメント形式での試合が苦手でした。予選を上位で通過しても、本選のトーナメント戦になると、1回戦もしくは2回戦で敗退していました。結果を出さなければいけないという気持ちで自分を追い詰めてしまい、本来のプレーができず、ミスをして負けていました。大学1年生の終盤では、トーナメント戦になると弓をまともに引けなくなるくらい自信を失っていました。しかし、大学のコーチや高校の恩師、先輩や同期から「いつも通りやれば負けることはないよ」と励まされ、少しずつ自信をつけて競技ができるようになりました。今では予選、トーナメント戦ともに自分の力を出せるようになり、大学3年生で臨んだ2024インカレでは優勝、全日本選手権では準優勝することができました。2025年4月の日本代表選考会では悔しくも4位となり、1点差で世界選手権への出場は叶いませんでしたが、Bチームに選ばれ、6月初旬にトルコで行われたワールドカップ第3戦に出場し、混合団体で銅メダルを獲得することができました。また、FISUワールドユニバーシティゲームズの選考会では1位となり、7月にドイツで行われる大会に日本代表として出場します。今後の目標は、愛知・名古屋アジア大会、ロサンゼルス2028大会でメダルを取ることです。特に愛知・名古屋アジア大会は自国開催であり、私の地元である愛知県で行われるため、出場しメダルを獲りたいという気持ちがとても強いです。私の強みは継続力です。10年間の競技人生で何事も最後までやり切ることの大切さを学びました。苦手意識のあったトーナメント戦も克服し、精神的にも強くなりました。このように、困難な状況に直面しても、最後までやり切る継続力を培ってきました。私は、たくさんの人に勇気を与え、応援されるアスリートを目指しています。皆様の企業にご採用いただくことができましたら、アジア大会やオリンピックでのメダル獲得を目指し、良い結果を残せるように一生懸命頑張ります。また、社員の皆様に応援してもらえるように、競技だけでなく、仕事にも精一杯取り組みます。アスリート社員として成長し、競技力も人間力も高め、たくさんの人から愛されるアスリートになれるように努力を続けます」
■浅野志織選手(スキー/フリースタイル)
「私は現在、スポーツ科学部で身体やスポーツ全般について学んでいます。怪我はどうして起こるのかという発生メカニズムを知り、怪我をしないためのトレーニングを取り入れています。私には2つの強みがあります。1つ目は行動力です。私は、練習場所やトレーニング内容を自ら考え、自分には何が必要なのかを常に意識しながら競技に取り組むことで、主体的に行動する力を身につけてきました。オリンピックでのメダル獲得を目標に、シーズン初めに1年の目標と大会ごとの目標、そして1ヶ月ごとの目標を紙に書き出し取り組んできました。そして自らの考えをもとにコーチやトレーナーと相談し、練習を積み重ねています。私は、自分で考えるということを大切にすることで、自分らしさを出し、自分の強みを伸ばすことができていると考えています。2つ目の強みは協調性です。モーグルは個人競技ですが、人との関わりはなくてはならないものです。合宿や遠征を通して仲間や先輩、コーチと深く関わり、集団生活を多く経験してコミュニケーション能力や協調性を高めることができました。私は、相手の意見をよく聞くとともに自分の意見をしっかりと持ち、発言する事を心がけています。自分の意見を周りに伝える事で、より良い人間関係や環境を作ることができていると感じています。私が現在競技を続けられているのは、自分だけの力ではなく、共に切磋琢磨する仲間や支えてくれる家族、コーチ、応援してくださる皆様のおかげです。このことを心に刻み、常に感謝し続ける事を大切にしています。態度でも言葉でも感謝が伝わるように日々努めています。これら2つの強みは、私が競技や今までの学校生活や日常生活で身につけてきたもので、社会人となり働くようになってからも持ち続けていきたいです。私の競技における目標は、オリンピックの舞台でのメダル獲得です。私がモーグルを始めたきっかけは、テレビで見たバンクーバー2010冬季大会です。テレビで見たオリンピックはとてもキラキラと輝いた世界で、見ている私を一瞬で虜にした素敵な舞台でした。スポーツには人の心を動かす力があります。私はモーグル競技を通して、人の心を動かせる選手になります。私が幼い頃に憧れを抱いたように、少しでも多くの人に、スポーツは素敵なものだと伝えていきたいです。皆様の企業にご採用いただけましたら、行動力、協調性という強みを活かし、社員の皆様との交流を通じて、スポーツの楽しさを伝え、会社を盛り上げていきたいと思っています」
■西小野皓大選手(水泳/競泳)
「私は、4歳のときに競泳と出会い、鹿児島のスイミングスクールに通い始めました。全国大会で入賞するようになったのは小学校高学年の頃ですが、練習環境はあまり良くなく、非常に狭いプールでした。そのため、海外レースの映像を見ながら仮説を立て、自分の泳ぎを客観視する習慣が自然と身につきました。その学びの積み重ねが高校で全国大会の表彰台に立つこと、そして私の夢と真剣に向き合ってくださる中京大学への進学へとつながりました。大学入学後は1年時に日本学生選手権で優勝、2年時にはFISUワールドユニバーシティゲームズに日本代表として出場し、銀メダルを獲得しました。順風満帆かと思いきや、大学3年のパリ2024大会選考会ではまさかの失速。夢に描いたオリンピック出場は、手の届かないものとなりました。しかし、その経験が私をより強くしてくれました。支えてくれた仲間やスタッフ、そして何より継続力と挑戦力が、私の財産です。日々のトレーニングでも泳法の分析や体の使い方を研究し、実験台はいつも自分という精神で、自分で決めた課題を粘り強く取り組み、常に限界のその先に挑んでいます。継続力については、1日2回の練習でも手を抜かず、移動中のわずかな時間も動画分析に充ててきた姿勢に表れています。挑戦力については、筋力、可動域、フォームの改善を図るために自ら新しいトレーニングを提案、実行してきた経験に基づいています。このように、成功と失敗を繰り返しながらも、自らをアップデートし続ける姿勢は、アスリートとしてだけでなく社会人としても活かせる確かな強みだと自負しております。私は、競技生活を通じて集中力と課題解決力を身に付けました。集中力については、タスクを細分化し、意識できる範囲に限定して集中するトレーニングを重ねてきました。特に、試合形式の練習やプレッシャーのかかる状況下で何に集中すべきかを明確にし、目的意識を持って繰り返し練習することによって、試合本番でも再現可能な汎用性の高い集中力を身につけることができました。課題解決力については、自身のパフォーマンスを定期的に可視化し、技術や体力面の強み、課題を明確にしてきました。その上で、抽出した課題に対し、毎日の練習後に振り返りを行い、自分やコーチ、同じ種目の仲間とディスカッションを重ね、改善策を具体的に実行するサイクルを繰り返すことで、課題に直面しても冷静に分析し、最適なアプローチで乗り越えていく力を培うことができました。入社させて頂くことになった企業様には、競技との両立を通じて時間管理力や自己管理能力を磨きつつ、限られた時間の中で結果を出す集中力と課題解決力を武器に、企業様の一員として価値を発揮していきたいと考えています。競技引退後には、アスリートの視点と現場感覚を活かしながら、企業のブランド価値や社会的信頼の向上に貢献していくキャリアを築いていきたいと思っています。競技者としてさらなる高みを目指し、オリンピックでのメダル獲得、そしてその先の社会貢献に向け、今後も精進してまいります」
■平泉真心選手(トライアスロン)
「私は小学3年生の時にトライアスロンに出会い、競技を始めました。トライアスロンは、たくさんの魅力に溢れた競技です。その1つは、スイム、バイク、ランの3つの種目を一度にこなすことで得られる達成感や充実感です。各種目が持つ特性と難しさをクリアし、目標に向けて自分自身を乗り越えた時の達成感は格別です。また、トライアスロンの大会は、海や山などの自然豊かな場所で行われることが多く、自然の美しさを感じながら競技に挑むことができます。私はこのようなトライアスロンの魅力に惹かれ、競技に打ち込んできました。そして、大学進学の際、オリンピックを目指す覚悟を決めて、オリンピアンの指導を受けられる環境を選択しました。私の強みは、困難な状況に直面したときでも広い視野をもって前向きに問題解決に取り組み、成長できるところです。大学2年生の時、私は腸脛靱帯や股関節の痛みに悩まされ、練習ができない期間がありました。思うような成果が上げられず、これまで味わったことのない悔しさを感じることになりました。しかし、この試練を通じて、私は自分の弱さと向き合い、前向きに立ち向かう力を養いました。通常の練習が難しい中で、私はもっと多角的にアプローチしてみようと考えました。フィジカルや栄養面にも目を向け、大学で専攻する栄養学の知識を活かし、食事の管理を徹底することで、身体作りや競技パフォーマンスの向上に繋がりました。体調やトレーニング以外の側面も含めて総合的に考えることで、怪我の回復に繋がり、その後の競技パフォーマンスにも好影響を与えました。そして、日本学生トライアスロン選手権で2連覇を果たすことにも繋がりました。この経験から、高い壁にも広い視野で考え、実行する力が養われました。痛みや挫折を乗り越えた経験を通じて、自分を成長させ、今ではどんな困難にも前向きに挑戦できる強さが培われたと思います。努力を重ねてきた結果、幼い頃からの夢であったオリンピックという目標が、今は現実のものとして見えてきました。私は、競技ができることに心から感謝し、今後も一層の努力を続けていきます。そして、必ずロサンゼルス2028大会出場、さらにはブリスベン2032大会でのメダル獲得の夢を実現させます。また、地元開催の愛知・名古屋アジア大会に出場し、結果を出すためにも全力で競技に取り組んでまいります。そして、トライアスロンは仲間との絆が深まる競技でもあります。企業にご採用いただけましたら、トライアスロンに取り組む姿勢で社内を活気づけ、一層活発な職場を作り上げる一助となりたいと考えています。業務においても、広い視野で、全力で取り組む所存です。どんな困難にも感謝の気持ちを忘れず、競技や仕事を通して企業に貢献できるよう努めてまいります」
続いて、オリンピアン応援メッセージとして、ロンドン2012大会とリオデジャネイロ2016大会に体操競技で出場し、現在は至学館大学で助教を務める寺本明日香氏が、自身の体操競技人生と現在の活動の紹介の後、スポーツを通じて身についた力、自身の経験からみた企業支援の重要性を述べました。寺本氏は企業がアスリートを雇用する価値、アスリートの持つ力とそれが企業でどう活かされるかについて語り、最後に「大学教員として接する部活動レベルの選手たちも、日々の努力を積み重ね、それが将来の就職活動や人生の経験として活かされると感じています」と語り、さらに「トップ選手だけでなく、どんな競技レベルのアスリートも地道な努力を重ねられる強みを持つため、ぜひアスリートの応援をよろしくお願いします」と応援のメッセージを送りました。
最後に、中部経済同友会の加藤博代表幹事より閉会の挨拶があり、共同開催が今回で9回目を迎え、これまでに19名のアスリートが採用されたことに触れ、さらなる採用を呼びかけました。さらに、神谷氏と寺本氏の話に賛同したうえで、「エンゲージメントの向上は、労働生産性や利益率に影響することからも、ぜひアスリートを採用してほしい。同友会のテーマは『日本の再浮上~夢なき者に成功なし~』であり、アスリートはまさに夢を追い求める存在です。彼らの活躍が日本の再浮上の出発点となると考えられています。今日のプレゼンを聞いてこの方がいいなと思えるアスリートがいれば、ぜひ皆様の企業で採用し、エンゲージメントの向上に繋げてほしい」と採用を呼びかけ、挨拶を締めくくりました。
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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