東京2020大会のアーチェリー男子団体で銅メダルを獲得した、日本代表選手団の武藤弘樹選手、古川高晴選手、河田悠希選手が27日、記者会見に出席し、メダル獲得から一夜明けた心境を語りました。
■「メダルをとった瞬間からずっと興奮」
――メダル獲得から一夜明けての感想をお願いします。
河田選手 今でもメダルをとったのは夢のように感じています。メダルをずっと眺めちゃっていますけど、きのうメダルをとった瞬間からずっと興奮していて昨夜も寝られず、寝付きが良くなくて。朝起きてようやくメダリストになったんだなという実感とともに、明日からの個人戦もあるので、そこに向けて頑張らないとなという気持ちでいっぱいです。
古川選手 昨日の夕方にメダルをとってから、たくさんの方からメールやメッセージをいただいて、100件以上メールをいただいて、全部返信するのに3、4時間かかりました。改めて実感するのは、それだけの多くの方々に支えられてここまで来られたのだなと思います。まず一番身近で支えてくれた家族もですし、普段見てもらっている監督・コーチもずっと支えてくれていましたし、それから一緒に練習している仲間、近畿大学職員の方々、アーチェリーを知ってくれている方々、僕を知っている方々からたくさん応援していただいて、この場所にいられるのだなと。メールの数を見て感謝の気持ちがたくさんあります。
個人戦ではロンドン大会でメダルをとって、次は団体戦でメダルをとりたいと思っていて。今回東京という舞台で、この3人で初めてメダルをとれて、素直にうれしい気持ちでいっぱいです。明日から個人戦が始まるので、いまは気持ちが少し浮ついている、ぴょんぴょんしているところですけれど、しっかり切り替えて明日に臨みます。
武藤選手 メダルをとってから夜に寝るまで、本当にあっという間でした。「え、もうこんな時間?」って感じで。本当に時が過ぎるのが早くて、興奮していて全然寝られなかったですし、今こうして皆さんに話しているのも夢のようで、「こんなふうになるんだ」と現実味がない感じ。今はフワフワしているというか、うれしい気持ちでいっぱいですね。
昨日の試合で最後、皆で声出して頑張って、近くでずっと田中(伸周)監督や尹(惠善)コーチ、(コーチの金)相勳さんや女子の選手がずっと声を上げて応援してくださったこともそうですし、SNSやメールなどで僕らにエールを送ってくださった方々のおかげでとれたメダルだなと思っています。たくさんの人のおかげでメダルをとって、ここに立つことができているなと実感しています。皆さんは「武藤がメダルをとってくれてうれしい」と言ってくれますが、皆さんに感動を届けられて僕の中の一旦の目標が達成されました。
特にオリンピック出場が決まってから、十何年も連絡をとっていなかった小学生の頃の友達からも連絡が来て、いつも以上に皆が見ていることをひしひしと感じていました。気持ちを込めて、感謝の気持ちを込めて打った(3位を決める)最後の一本だったので、皆さんにいい姿をお届けできたのは本当に良かったと思います。日々一緒に練習している子どもたち、応援してくれる会社の人達をはじめ、応援してくださる人の数がすごかったです。応援の力を感じる試合だったと思います。個人戦が明日からスタートするので、もう一度気持ちを作り直して、自分のやることをやって、悔いなく終われる試合にしたいと思います。
■「見えない部分で強くなろうとした」
――今回はコロナ禍で国際大会などの実戦機会が少ない中、銅メダルの結果を出しました。実戦不足を補う工夫はあったのでしょうか?
河田選手 コロナ禍で国際大会が開催されなかったですが、6月にアジアカップがあって、そこに韓国チームも参加するということで派遣していただきました。そこでは結果的に負けてしまいましたけれど、個人戦で韓国の選手に勝つことができました。自分の中で自信につながる試合で、得たものも多かったので、オリンピックにつながったかなと思います。
古川選手 日本チームは団体でのランキングが22位と聞いて、チーム一同びっくりしました。3年前はもっと上位、5位あたりにいたはずで、22位に下がった理由は、2019年後半~2020年まで大会にほとんど出られていないからだと思います。
先月の韓国遠征後の合宿でチームでミーティングする機会があって。その時に団体戦の練習で僕らが3本打って、別の大会の海外選手の映像を流しながら彼らが3本打つのを見て、といった感じで、仮想対戦相手との点数勝負をやってみました。臨場感は実際の試合とかけ離れているけれど、相手が高得点を出してきた時の心構え、少しでも実戦に近づける工夫・苦労はしたと思います。僕以外の2人は初のオリンピックでしたが、僕を含めて3人とも経験が全く無いわけではない。ユース世代から国際大会に出てきた選手ですし、僕の経験を伝えることでカバーしてやってきたつもりです。
武藤選手 お二人が挙げたとおり、6月のアジアカップで韓国と戦って、惜しくも敗れましたがしっかり戦えたことが大きいです。試合で勝つか負けるかでメダルの色が変わる状況下で一度強い韓国と戦えたことが大きかった。コーチ含めて4人でたくさんミーティングをして、より強いチームになれるかを話し合って。点数、数字の意味で強いチームではなく、信頼感だとかどういう人かを知るなど、見えない部分で強くなろうとした部分も大きかった。チームビルディングを行うなど、本番を想定して練習できたことが大きかった。
――競技場での風を把握するのが難しそうでしたが、把握できましたか?
河田選手 僕が1番目にシューティングしていたので、必然的に風を読まないといけない立場でした。風が前から後ろから、左右全部から吹く。風自体はそこまで強くなかったのですが、方向が変わる中でシューティングしないといけない難しさがありました。うまく風を読んでも、自分が緊張してミスすることもあったので、2人には風の方向を伝えるだけということもありましたし、2人からアドバイスを受けることもありました。チームワークで風への対策をしていました。
古川選手 風は確かに行ったり来たり、前から後ろからありましたが、そこまで強くなかったです。基本的には狙いを少し右に外すくらいでした。観客席の上に国旗が並んでいて、旗を見ていたら的に向かって右後ろから吹いてくる風が基本的なものだったので、その風を読んでいました。河田選手が風読みをしてくれて、僕が聞いて「河田選手はこういうふうに読んで、的に入ったんだな」と判断して、参考にしていました。
武藤選手 僕は3番手ということで、先に2人が打って、その情報をもらった上で打っていました。難しい場面ではあったんですけど、2人が上手に読んでくれたので、僕も当てることができました。風の難しい射場だと思いますが、これが団体戦の良さでありチームワーク。それぞれの得意分野で補えました。
■思いが詰まった会場に「感動」
――無観客試合での影響や、それに対する思いは?
武藤選手 僕は初めてのオリンピックで、観客の入っているオリンピックを体験したことがないので、特に違和感はなかったです。でも、いろんな人から「生で見たかったな」とメッセージをもらって、そう言われると僕も「皆に見てほしかったな」という思いが芽生えました。テレビやインターネットの前で応援してくれたと思うので、ある意味今だからこそどこでも見られたのかなと思います。無観客だったけれど、僕らの試合中に女子選手やコーチ、監督が声援をくれたので、心強かったです。チームジャパン全体で戦っていることを感じられたので、無観客ではありましたがその強さを感じられて良かったです。
古川選手 無観客での開催について、僕はすごく違和感がありました。過去の大会であれば入場の前に観客が見えて「うわあ、すごく人が入っている」とドキドキしながら入ってくるんですけど、観客がいないということで、なんか「オリンピックだけどオリンピックじゃない」ような、アーチェリーの小さい国際大会をやっている感じ。違和感のある中での大会でした。
ただ、決勝の会場は大会前は更地だったけれど、あれだけの立派な会場を作ってくださったので、はじめて立った時にすごくたくさんの方が携わってくれて会場が出来上がったんだなというのが分かりました。関わった皆さんの思いを感じました。もしかしたら中止かもという声もある中で、アスリートとしての務めは大会があるものだと思って準備を進めないといけないと思っていましたけれど、あの会場に立った時に会場を作ってくださった方も一緒だったのかなと思いました。本当に開催されるのかどうか分からない会場を作って、もし中止なら「また解体するのかよ」となってしまうかもしれない心持ちで作ってくださったと思うんですけど、いろんな方の思いが詰まった会場でプレーできたことに感動しました。無観客ではあったんですけど、会場に携わってくれた人の思いを感じとることができたので、首からメダルをかけて話せているし、応援してくださった方、支援くださった方、すべてに感謝したいです。
河田選手 2012年のロンドン大会と2016年のリオデジャネイロ大会を動画でずっと見ていたんですけど、僕の見てきたオリンピックは観客がたくさんいて、すごい声援の中で試合をしているイメージでした。
東京2020大会の選考会が終わった後、観客がいることを想定してメンタルトレーニングをして、観客がいることを想像しただけで汗が出てきました。ただ、いざ会場に立ってみると無観客ということで、日本チームと相手チームの選手ぐらいしか観客席に入っておらず、寂しい思いもあったんですけど、SNSや動画、いろんなサイトからオリンピックを応援してくれている人がいることを試合前や試合後に言葉をいただいたときに、観客席にいなくてもいろんな人から応援してもらったんだなと感じました。
アーチェリーは他のスポーツに比べてマイナーだと思いますが、アーチェリーやってみたいという言葉をSNSで見たりしたので、僕たちの活躍を見て普及につながったことがうれしいです。いろんな人に感動や勇気をコロナ禍でも与えられた、スポーツの力を少しでも見せられたのかなと思っています。
――今回の銅メダルは、アーチェリー界にとって良いアピールになったと思います。今後のアーチェリー界をどうしていきたいですか?
古川選手 東京2020大会で結果を出して、かっこいいところを見ていただいて。(個人戦で銀メダルを獲得した)ロンドン大会の後に「見ているこちらが緊張した、呼吸が止まったよ」と言ってくださる機会があって。まさにそれがアーチェリーで感動を与えることだと思ったんですけど、今回の武藤選手の一本を見ていただいたときに、皆さん呼吸が止まっていたと思うんです。これがアーチェリーの魅力だと思います。
オリンピックでしかこの緊迫した状況を伝えられないですが、それでもアーチェリーを面白いと思っていただけたら、一回やってみてください。難しさがクセになりますし、魅力になります。僕らがメダルをとって今後どう普及につながるかというと、結果を出し続けることが大事。明日からの個人戦もですし、今後控える大きな大会や、次のオリンピックでもしっかり結果を出すことが大事だと思います。
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