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【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】宇山賢:「自分がやるしかない」という場面で仕事をした

2021.10.21  カテゴリ:オリンピック

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

宇山 賢(フェンシング)
男子エペ団体 金メダル

■オリンピックのすごさ

――フェンシングはオリンピックの長い歴史の中でも、第1回から開催されている数少ない歴史の長い競技です。そのなかで、ついに日本が初のメダル獲得となりました。

 うれしいのですが、その特別感のようなものは、まだ全て感じきれていないかなと思います。ただ、試合が終わってからスマホが壊れたかのようにSNSの通知がきていて、他の国際大会でメダルをとった時と比べても全然違います(笑)。オリンピックのすごさを感じているところです。

――初戦のアメリカ戦では6点差が開いた場面で、リザーブとして登場しました。宇山選手が勝利を引き寄せたといっても過言ではないと思いますが、見延和靖選手がベンチに入っているなかでどのような気持ちで宇山選手は戦っていましたか。

 団体戦への思いは、見延さんにもあると思いますが、僕も団体戦のためにプレースタイルを変えたほどで、個人よりも団体に対するこだわりのような思いはありました。アメリカとの対戦がスタートして、自分が代わるのは、おそらく日本がピンチのタイミングになるだろうということはイメージできていたので、そこで爪痕を残して、絶対に悔いを残さずにやり残さないようにすることだけ考えていました。それが実際に体現できて、山田優選手、加納虹輝選手とともにいい流れができたと思います。

――試合を見ていてすごく面白いと感じて、感銘を受けました。日本のフェンシングが初めて金メダルを獲得できた最大の要因は何だったと思いますか。

 例えばフランスと当たるからどうとか、試合前に弱音のようなことは誰も発しなかったです。むしろ、「いけるかな」と思っていました。普段の大会であればリザーブと交代しても、次の試合ではまた戻すという調整ができるんですよ。例えば今回の試合のように見延選手に代わって僕が出たとしても、その後また見延選手に戻すということができるのです。ただ、オリンピック特別ルールでそういうことができなかった。選択肢がなくなったことで、みんなが腹をくくり、「自分がやるしかない」という場面で仕事をした……全部やり尽くした結果だと思っています。

所属先がない時期やけがを乗り越えて金メダリストとなった宇山選手(右から2人目)(写真:フォート・キシモト)

■落ち着いていたメンタル

――宇山選手は「プレースタイルを変えた」ともおっしゃっていました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大会が1年延びましたが、どのような対策をされてきましたか。

 これはまだどこにも話していなかったのですが、実は手首にケガがあったのでその治療をしていました。1年前のオリンピック延期以前に痛み止めの注射のリミットを合わせていたので、1年延期になったことで痛み止めが打てなくなってしまいました。そこで手術をして、何とか間に合わせたという背景があります。
 また今、世界中の皆さんがストレスを抱えているという特殊な状況下で、そのストレスを他人にぶつけたり、誹謗中傷をしたりと、悲しい話がたくさんありました。メダルをとることによって、われわれのプレーを見た方々が、今はそんな場合じゃなくて一丸となって前に進んでいこうというメッセージにつながればいいと思いました。

――オリンピックの価値や素晴らしさについて、どのように感じていますか。

 僕が小さかった頃は、マイナースポーツはオリンピックで結果を残さなければ有名になれないという刷り込みがあったように思います。周りの大人もそうですし、僕自身もそうですが……。オリンピックが一番だからこそ、他の大会もオリンピックに似たような大会作りになっていきました。ですから、オリンピックだからという緊張感はそれほどなくて、すごく落ち着いたメンタルで戦えたことは良かったと思います。

――宇山選手はアスナビ(※)を利用したメダリストでもあります。ご苦労もありながら、こうしてオリンピックに出て金メダルを獲得できました。あらためて、どのように感じていらっしゃいますか(※企業と現役トップアスリートをマッチングするJOCの就職支援制度)。

 アスナビを利用して就職し金メダルをとった選手は、僕が初めてだと聞きました。環境が整わない選手はどのスポーツの世界にもいると思います。僕も半年間は無職で何とか食いつないでいたのですが、サポートしてくださる企業(三菱電機)があり、チャンスをいただけました。本当に助かったと思っています。

――将来、フェンシングをしたいというお子さんたちに何かアドバイスいただけますか。

 いきなり剣を使うというのはちょっと怖いと感じる人もいるかもしれません。でも、危なくない剣を使って、決められたルールのなかで武器をぶつけ合うことができるという数少ない競技の一つだと思います。とくにエペはルールが分かりやすいので、ぜひ体験してほしいですね。

(取材日:2021年7月31日)

■プロフィール
宇山賢(うやま・さとる)
1991年12月10日生まれ。香川県出身。中学でフェンシングを始め、高校2年の時にインターハイで優勝。同志社大学に進み、全日本学生選手権で史上初の3連覇を達成した。4年の時には全日本選手権で優勝。2015年にJOCの就職支援制度「アスナビ」を利用して三菱電機に入社。18年にはアジア競技大会のエペ団体で優勝した。21年東京2020オリンピックでは、リザーブでの登録だったが、男子エペ団体の1回戦から出場して金メダル獲得に貢献した。三菱電機所属。

初戦のアメリカ戦で見延選手と交代し、流れを変える役割を担った(写真:アフロスポーツ)
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