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2019.06.14 オリンピック

【東京2020インタビュー #3】野中 生萌:栄光への登頂ルートを求めて

 開幕が迫ってきた2020年東京オリンピック。JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、今大会の追加種目である野球、ソフトボール、スポーツクライミング、空手道、サーフィン、ローラースポーツでオリンピックを目指すアスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いをさらに詳しくお届けします。

【東京2020インタビュー #3】野中 生萌:栄光への登頂ルートを求めて
スポーツクライミングの野中生萌選手(写真:魚住貴弘)
【東京2020インタビュー #3】野中 生萌:栄光への登頂ルートを求めて
オリンピックの実施が決まり注目度もアップ。2018年7月の開幕2年前イベントにも参加した(写真:フォート・キシモト)

スポーツクライミング:野中 生萌選手

「スポーツクライミング」は、壁を登る速さを競う「スピード」、壁を何種類登れるかを競う「ボルダリング」、どの高さまで登れるかを競う「リード」の総合成績で競う。東京2020大会に向かう野中生萌選手の本音に迫る。(Text/中村聡宏)

■クライミングへの注目

――3年前、オリンピック競技になると聞いてどう思いましたか。

 オリンピックは出るものではなく見るものだったので、初めはとにかくびっくりしました(笑)。オリンピック競技になってほしいと思ったこともなかったですし、特にオリンピックと自分を重ねて見ることはなかったです。

――競技に対する注目が増えてきたことは感じますか。

 はい。自分がスポーツクライミングを始めた頃と比較して、オリンピックが決まってからは、クライミングを知っている人も多くなりました。テレビで見る機会も、クライミングジムも増えたことはものすごく実感しますし、うれしく思っています。

――いつも戦っているライバル選手たちとはどのような関係ですか。

 幼い頃からよく知っている友達や姉妹のような存在で、仲がいいです。
 競技中は勝利を目指している以上、お互いに絶対に負けたくない思いがあるので、正直なことを言えば、「失敗してくれ」と願ってしまうこともあります(笑)。でも、結局は自分と壁との戦い。対人競技というわけではないですし、ライバルのことは自分ではコントロールできないことですからね。 パフォーマンスが終わった後はたたえ合う、そういう関係です。選手一人一人の良さを分かっていますし、リスペクトし合える大切な存在です。

――素晴らしい関係ですね。東京2020大会に向けて、今の思いを教えてください。

 オリンピック出場権は絶対に逃したくないですし、出場するからには金メダルをとりたいと思っています。そのためにも、まずは、今年の世界選手権(8月に東京・八王子市で開催。オリンピック日本代表選考大会の一つ)で成績を残すのが目標です。最高のパフォーマンスができるよう、トレーニングしていきます。
 東京オリンピックがベストなタイミングであるから頑張れます。プレッシャーもありますが、必ずオリンピックに出場し、できるだけ見晴らしの良いところからその景色を見たいと思います。

【東京2020インタビュー #3】野中 生萌:栄光への登頂ルートを求めて
家族でクライミングジムを訪れたことがきっかけで競技を始めた(写真:アフロスポーツ)

■クライミングがもたらした成長

――クライミングを始めたきっかけは。

 趣味が登山だった父に、トレーニングの一環として家族でクライミングジムに連れて行かれたのがきっかけでした。当時は、ジャングルジムや木登りやうんていなどと同じような感覚で楽しく感じました。
 大会に出ることになり、落ちるのが怖くてがむしゃらに登った結果、初出場で優勝できました。そもそも大会に出るのはすごく緊張して嫌だったのですが、緊張でアドレナリンが出るような初めての体験が刺激となって、やみつきになったみたいです。その後は何度も負ける経験をすることになるわけですが、負けず嫌いな性格だからこそ、悔しくてもっと強くなりたいと思って、これまで続けてきた感じです。

――負けず嫌いということですが、負けた時にどんな風に受け入れていますか。

 勝てたらうれしいですし、負けたら悔しいですけれど、どちらからも得られるものはあります。そもそも、試合で勝つのは一人しかいませんから負ける人の方が多い。必然的に、負けから学ぶべきことは多くなると思います。

――クライミングを通して自身の成長を感じますか。

 9歳からクライミングを始めて、自ら何かに挑み、挫折して、乗り越えるということを自然にやってきました。競技レベルや関係性を問わず、周りから学ぶこともたくさんあります。人とコミュニケーションをとり、自分の思いを伝えたい気持ちも強くなってきました。クライミングがあるからこそ、今の自分があると思っています。

【東京2020インタビュー #3】野中 生萌:栄光への登頂ルートを求めて
自分のクライミングスタイルを大切にしたいと語る野中選手(写真:魚住貴弘)
【東京2020インタビュー #3】野中 生萌:栄光への登頂ルートを求めて
ダイナミックさやパワーのあるスタイルを追求したいという(写真:JMSCA/アフロ)

■自らのスタイルを追い求めて

――過去のオリンピックを通して印象的なアスリートはいますか。

 どの大会、どの選手もすごいと感じるのがオリンピックですよね。特に、体操の内村航平選手、フィギュアスケートの羽生結弦選手、浅田真央選手は強く印象に残っています。

――名前の挙がった3選手は、採点競技に取り組む表現者ですね。野中選手にとってのクライミングも、より美しく登るといった表現者の要素があるのでしょうか。

 それはあるかもしれないですね。私は、クライミングのスタイルを大切にしたいと思っています。スピード、ボルダリング、リードと3つの登り方に対応しなければなりませんが、選手ごとに体格の違いや能力によって、得意不得意があります。結果的に順位はつきますが、どの選手もすごく魅力的ですし、かっこよく感じます。

――クライミングの3種目それぞれ適性があると思うのですが、トレーニングのバランスが難しいのではないでしょうか。

 たしかに、陸上競技に例えるなら、短距離と障害物と長距離のような感じかもしれませんね。私は瞬発力やパワーを発揮する登りが得意。逆に、持久力を求められるときつい。スピードやボルダリングをメインにポイントを稼ぎ、リードで粘るという戦略になります。さらにスピードを強化したければもっと筋力が必要になりますが、ボルダリングやリードをするためには、筋肉の重さが負荷になってしまいます。使う筋肉も違いますし、いかにバランスをとるかは難しいですね。

――試合で壁を見た時に、「どうやって登るの?」と驚くこともあるのですか。

 ありますね(笑)。ちなみに、決勝では、オブザーベーションというオフィシャルルールがあり、戦う選手全員で話し合う時間があるんですよ。選手同士で話し合ったルートであっていることが多いのですが、実際に登ってみたら間違っていたというケースもあります。一人一人の能力によっても違いますし、臨機応変に対応しないといけません。

――どんなふうに競技を楽しんでほしいですか。

 選手それぞれのスタイルに注目してもらうと面白いと思います。握力が強くて手で引きつけている人もいれば、体幹が安定していて体全体を使っている人、脚力が強くて周りの選手が登っている所を飛び越えてつかんでしまう人。
自分自身、ダイナミックさやパワーのあるスタイルを追求したいですし、野中生萌のようなクライミングをしたいなと思われるような選手を目指しています。

【東京2020インタビュー #3】野中 生萌:栄光への登頂ルートを求めて
(写真:魚住貴弘)

■プロフィール
野中 生萌(のなか・みほう)

1997年5月21日生まれ。東京都出身。9歳からスポーツクライミングを始める。2013年、16歳でワールドカップに出場するようになり、16年ボルダリングワールドカップ・ムンバイ大会で初優勝。XFLAG所属。

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