Athletes’ Voices 【パリにかける想い】
成長した姿を見せる時が来た
石川 祐希

ライバルやチームメイトの存在
――3月にはワールドベースボールクラシック(WBC)がありました。大谷翔平選手やダルビッシュ有選手など、メジャーリーグ(MLB)で活躍する選手たちがチームに対する影響力は大きかったと感じます。石川選手がTEAM JAPANに及ぼす影響や期待も大きくなりそうですね。
WBCは観られる時間の試合は観ました。すでにMLBで活躍している選手やこれからアメリカで戦う選手が日本代表で活躍していましたよね。彼らのプレー、行動、発言などは、チームメイトの選手たちに対する影響はもちろん、観ている人たちにとっても大きかったと思います。 バレーボールで考えれば、僕のほかに、イタリアでは高橋藍選手が、またポーランドでは宮浦健人選手が活躍しています。今シーズン日本でプレーしていた選手の中にも、海外経験がある選手も複数います。そういった選手がいればいるほど、チーム力も上がるでしょうし、チームにいい影響を及ぼすはずです。日本代表の中でも、経験やモチベーションなどについて、言動を通して伝えていくことが重要だと思っています。
――ご本人からすれば日々ご苦労があることと思いますが、一方で、順調にステップアップされているようにも感じます。今、昔のご自身を振り返っていただき、成長を実感するのはどんなところですか。
バレーボールのスキルに関しては、日々練習を継続してきた積み重ねの結果。毎日目的をもって意識しながら練習しているので、当然やればやるほどスキルは高くなっていきます。 一方で、周囲とコミュニケーションをとること、自分の意見を言うこと、1点決めた時の表現力、チームを鼓舞する言葉などといった部分は、海外に来てからだいぶ変わったと思います。言葉がしゃべれるようになってきたこともありますが、海外のトップ選手たちと日常から過ごすことで、対戦相手も含めた選手たちの表情、態度、雰囲気などを見て学んでいることが大きいです。とくに感情表現の豊かさは、日本人と比較すると本当に半端じゃない。そういう選手たちと競っていくには、僕もそこまでやらないといけないと感じたので、そこは大きく変わった点だと思います。
――国際大会になると普段はチームメイトの選手たちと戦うケースもあります。ライバルたちとの関係が石川選手にもたらしている影響を感じることはありますか。
はい、イタリアでともに戦っているチームメイトが相手にいるのはうれしいものです。試合をして勝敗を決めるのがスポーツなので、勝った時はうれしいし、負けた時は悔しいもの。チームメイトと戦って僕が勝った場合は、向こうは負けるわけなので、少し残念というか複雑な思いはありますが、それでも僕はチームメイトと対戦できるのはすごく楽しみです。 チームメイトとして戦っている時と、対戦相手として戦う時ではモチベーションは変わってきます。加えて、相手も僕のことをよく知っていますし、僕も相手のことをよく知っているので、普通の試合よりも駆け引きが多く生まれるところも楽しさを感じますね。
――スタメン争いやベンチ入り争いなどを考えると、チームメイト同士もライバル関係だといえます。そういうチームメイトの存在はどのようにとらえていますか。
僕のポジションはチームに4人いてそのうち2人がスタメンで出場できます。その2人に選ばれるためにも、チームに、監督に、何を求められているのかを理解してプレーすることが重要です。監督から信頼を得ている選手は、チームから頼られる存在になるので、まずそれを理解することが第一。 僕にあって他の選手にないもの。他の選手にあって僕にないもの。それらを見つけて、僕にない部分を他の選手プレーを見て学ぶことを常に意識しています。どの選手にも必ずいいところはあるので、それをどんどん吸収していくというスタンスです。 スタメン争いが厳しいとナーバスになる人も多いと思うのですが、僕は違います。バレーボールのプレーヤーとして成長するために、常にスキルは磨かないといけません。やるべきことをこれだけしっかりやってダメなら仕方ない、負けたのは僕の実力がそれまでだったと思えるくらい、練習はもちろん、練習以外のことでもバレーボールに時間を割いているつもりです。スタメンでなくても例えば、ピンチサーバーで出る機会があればそこでしっかり結果を残すなど、ほかにやるべきことを探して切り替えるしかないと思っています。 でも、やはり負けたくはないです。ほかの選手より意識して練習したり、自主練を増やしてみたり、何が足りないかを理解して足りない部分をなるべくプラスに変えられるように練習したりすることしかできないので、はじめてチームに合流する時にはそういったことをよく考えますね。そこでしっかり安定したプレーができればスタメンを獲得できると思うので、とくにシーズンの最初はそのようなことを意識して行動しています。

いざ、パリを見据えて
――石川選手の話からは、クレバーで誠実な人柄が伝わってきます。あらためて、TEAM JAPANシンボルアスリートに選ばれたことをどのように受け止めていらっしゃいますか。
バレーボール競技初の選出ということで僕自身光栄に感じています。「バレーボールの石川祐希」から「TEAM JAPANの石川祐希」になって、たくさんの方に観ていただきたいですし、たくさんの子どもたちが目指したいと思う、お手本となるようなアスリートになりたいと思っています。そのために、TEAM JAPANでも海外でも注目してもらえるような結果を出して活躍していきたいですし、結果だけでなく、人間性や人間力という面でも「石川祐希っていいね」、「かっこいいよね」、「ああいう選手になりたいな」という言葉をもっともっと聞けるとうれしいです。それが、今後のバレーボール界、スポーツ界のためになると思うので、シンボルアスリートとして自覚を持って行動しながら、さまざまな活動をしていきたいです。
――そのために何か勉強していることや心がけていることはありますか。
人として常に成長することが必要ですが、海外で過ごしているからこそ、僕は人間力を高めるチャンスが多い環境にいると感じています。イタリアのチームですが、メンバーにはフランス人やキューバ人やプエルトリコ人などがいるので、彼らから海外の文化や国の状況など広くさまざまなことを学び、吸収しています。 例えば、キューバにおける子どもたちの貧しさについて聞くことで、今ある環境がいかに恵まれているかにあらためて気づかされ、モノを大切にする気持ちが芽生えます。イタリア人はわがままで自己中心的だと感じることも多いですが、一方で、他人に対してはすごく優しくていい性格だとも感じます。そして、僕たち日本人は、そうした多様な価値観を理解し納得できることに気づける。このように、さまざまなことを受け入れる大切さを実感するからこそ、さらにいろいろと学び続け、将来スポーツをやる子どもたちに伝えていけるといいなと思いながら生活しています。
――素敵な話をありがとうございます。あらためて、石川選手が考えるバレーボールの魅力を教えてください。
バレーボールはボールをつなぐ競技です。全員でつないで1点をとる競技だからこそ、団結力やチーム力の大切さが観ている方にも伝わると思います。普通の生活でもいろいろな人と助け合って物事を作っていくので、身近なところに置き換えて観ることもできますよね。 また、ボールのスピード、ジャンプの高さなど、テレビで観るよりも現地で観るほうが間違いなくプレーの迫力を感じていただけるはずなので、機会があればぜひ生で観戦してほしいと思います。
――あらためて、パリ2024オリンピックに向けた石川選手の意気込みをお聞かせください。
前回の東京2020オリンピックでは準々決勝敗退だったので、次回パリではその準々決勝で勝ってメダル争いに絡み、そして、メダルをとることが目標です。 そのためにも、まずは、23年9月にあるパリ2024オリンピック予選でグループ2位までに入り出場権を獲得したいです。23年最大の大会がオリンピック予選なので、そこでベストパフォーマンスを発揮することが必要だと考えていますし、日本で開催されるので、皆さんにはオリンピック出場権を獲得する姿を目の前で観ていただきたいと思います。 僕は基本的にイタリアでしかプレーしていないので、日本の皆さんの前でプレーできるのは日本代表としてプレーするこの23年6月から9月、10月にかけての期間しかありません。そんな短い期間の中でも試合を観に来てくださる方が増えるとうれしいですし、1度観ていただければバレーボールに興味を持っていただける自信があるので、ぜひ会場にお越しください。もちろん、テレビでも放映されますので、それを観て応援していただければありがたいです。

■プロフィール
石川 祐希(いしかわ・ゆうき)
1995年12月11日生まれ。愛知県出身。姉の影響を受け、小学4年でバレーボールを始める。2012年、13年と星城高校で2年連続高校3冠を果たす。14年、中央大学に進学。日本代表に選出され、仁川アジア競技大会に出場。同年、イタリア・セリエAパッラヴォーロ・モデナと契約。大学卒業後プロ宣言し、以後セリエAでプレーを続ける。21年4月、バレーボールTEAM JAPAN主将に就任。東京2020オリンピックでは、バレーボール男子29年ぶりとなるベスト8進出に導き、7位入賞。22年6月、TEAM JAPANシンボルアスリートに選出される。22-23シーズンのセリエAではプレーオフに進出、チームをベスト4に導く。パワー・バレー・ミラノ所属。
注記載
※本インタビューは2023年4月26日に行われたものです。
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