公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は7月23日、味の素ナショナルトレーニングセンターウエストで、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまで237社/団体429名(2025年7月23日時点)の採用が決まりました。今回の説明会ではJOC主催のもと、11社20名が参加しました。
はじめに柴真樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要を、スライド資料をもとに紹介。アスナビが無料職業紹介事業であることや登録するトップアスリートの概略のほか、就職実績、雇用条件、採用のポイント、アスリート活用のポイント、カスタマーサポートなどを説明しました。
続いて、バレーボール男子元日本代表であり、全日本男子バレーボールコーチも務めた株式会社デサント ブランドプロモーション室2課の諸隈直樹氏が、アスリート社員の先輩として講話を行いました。諸隈氏は選手引退後の株式会社デサントに入社した経緯を説明した後、入社後の職歴と業務内容、自身が大切にしていることを紹介。続いて、アスリートを採用する企業側のメリットと対応について「社内で選手の競技結果などの情報発信をすることで、社員間での一体感醸成やモチベーションアップに繋がります。また、社会人として必要な人材へ育成するために、ミッションを与えるとともに仕事の楽しさを教えてあげることが大切であると考えています。アスリートの皆さんのパワーを信じていただき、支援に対して必ず恩返しがあると思いますので、ぜひ採用をよろしくお願いします」と参加企業にアスリート採用を呼びかけました。
その後、就職希望アスリート6名がプレゼンテーションを実施。映像での競技紹介やスピーチで、自身をアピールしました。
■笹岡蒼空選手(スキー/フリースタイル・スキークロス)
「私は長野県野沢温泉村に生まれ育ち、物心つく前からスキーを始めていました。それ以来スキーが生活の一部であり、挑戦し続ける原動力になっています。中学、高校時代には、アルペンスキー競技で成績を積み重ね、全国大会で数々のタイトルを獲得しました。自分の限界に挑戦することに魅力を感じ、何度も挑戦し乗り越えてきました。大学2年からスキークロスに転向し、国内外のレースに出場しました。スキークロスは、スキーの技術だけでなくスピードや戦略、さらには他の選手との競り合いも重要な競技です。1シーズン目からその楽しさと厳しさに魅了され、競技転向直後でしたが世界ランキング二桁台に入ることができ、世界との差を身近に感じ、頂点を狙えるという自信につながりました。世界ジュニア選手権では17位という成績を収めましたが、自分にはまだまだ成長できる余地があると強く感じています。世界の舞台で戦う経験を積みながら、次の目標を見据えてさらに努力を続けています。2年目の昨シーズンには、FISUワールドユニバーシティゲームズで銀メダルを獲得し、世界選手権やワールドカップにも出場することが出来ました。世界選手権ではチーム戦で15位という結果を残すことができましたが、世界の大舞台でワールドカップ優勝者や表彰台常連者と闘ったことで課題が明確になり、次の目標に向けて今まで以上に燃えるような思いが湧いてきました。私の目標はワールドカップ優勝、そしてオリンピックに出場して優勝することです。スキークロス競技は非常に競争が激しく、接触のある競技のため、個人の技術力だけでなく瞬時の判断力、状況に応じた戦略、そして強いメンタルが求められる競技です。私はこの競技を通して、どんな場面でも冷静に対応する力、目標に向かって努力し続ける継続力、そしてチームの中で自分の役割を果たす責任感を学びました。特に世界ジュニア選手権と世界選手権で2度出場したチーム戦では、結果以上に仲間のために滑る責任感と達成感を学びました。そんな私ですが、怪我により6か月余りのリハビリを強いられた期間や怪我の影響と後遺症で、思い通りに身体が動かずパフォーマンスが低下してしまったことなど、数多くの困難に直面してきました。しかし、サポートや応援してくださる多くの方々のために、必ず大舞台で活躍している姿を見せたいと強く感じ、何事にも全力で向き合ってきました。この経験が、現在の自分にとって非常に大きな財産となり、競技以外の場でも必ず活かせると確信しています。例えば、変化の激しいビジネス環境でも柔軟に対応する力、逆境に打ち勝つメンタル、そして組織の中で信頼関係を築きながら成果を出すチームワーク力には自信があります。また、私は社会人として結果を出すことだけでなく、チームや組織の中で良い空気をつくること、応援される存在になることも大切にしています。競技を続けながら、企業の皆様との交流を通じて、社内の一体感醸成にも寄与していきたいと考えております」
■山浦健選手(トライアスロン)
「私はこれまで、常に挑戦する道を選び、視野を広げてきました。大学1年生の時にトライアスロンに挑戦し、未経験からのスタートで初出場した全国大会は56位という結果に終わりました。この悔しさをバネになぜ勝てないのかを徹底的に分析しました。自ら国内トップチームに交渉して練習に参加し、さらに体調・栄養・睡眠・乳酸値などを科学的に管理することで、トレーニングと回復力を最適化しました。その結果、競技開始からわずか2年で海外派遣基準を突破し、アジアカップ5大会に出場するまでに成長しました。同時に、資金面の壁にも直面しましたが、自ら200社以上にアプローチし、スポンサー営業に取り組みました。競技の特性と企業価値を結びつけた提案によって、5社とのスポンサー契約、2社とのアンバサダー契約を獲得することができました。順調にみえた競技生活でしたが、大学3年の春に大きな壁に直面しました。練習の楽しさから、プロ選手の一般的な練習量を大幅に上回るトレーニングに没頭した結果、疲労骨折を引き起こし、アジアカップ2大会と初の日本代表として出場予定だったワールドカップの欠場を余儀なくされました。復帰後も成績は低迷し、自分を見つめ直す中で競技中心の生活によって視野が狭くなっていたことに気づきました。それまで競技に無関係だと遠ざけてきた、ゼミの旅行や飲み会など競技に直接関係しない時間こそが、人とのつながりを生み、競技者以外の価値観に触れる貴重な機会でした。この気づきをきっかけに、人とのつながりを大切にし、意識的に視野を広げるようになりました。この経験を通して強く意識するようになったのがデュアルキャリアという考え方です。私はこれまで、競技・学業・スポンサー活動・留学と、やりたいこと全てに挑戦してきました。この姿勢は社会人になっても変わりません。アスリートとして挑戦を続けると同時に、ビジネスパーソンとしても全力で挑戦します。私の原動力は、幼い頃に憧れた入江陵介選手の姿です。競技に全力で向き合い続けるその姿に胸を打たれ、背中を押されました。そして、私自身が挑戦を続けることで多くの方に支えられ、私の挑戦が誰かの背中を押す瞬間にも出会いました。挑戦は循環すると身をもって体感しました。私の人生の軸は挑戦と成長が循環し、社会が活性化することです。これからも挑戦を続けながら、誰かの挑戦を支え、社会全体に前向きなエネルギーを届けていきたいです。私は、競技の舞台でもビジネスの現場でも成果を出せる人材になります。この挑戦を、ぜひ御社と共に実現させてください」
■櫻井愛菜選手(体操/トランポリン)
「私がトランポリンと出会ったのは3歳の頃です。最初は遊び感覚でしたが、姉がクラブに入るのをきっかけに6歳から本格的に競技を始めました。技を覚える達成感や少しずつ上達する面白さに夢中になり、小学生で全日本ジュニア準優勝という結果を残しました。その後も地道に練習を重ね、中学1年で初めて日本代表に選出され、日の丸を背負う責任と誇りを感じながらより高いレベルを目指すようになりました。その後も日本代表として戦ってきましたが、高校1年の時に、膝の手術により思うように練習できない日々が続きました。もう代表には戻れないかもしれないという不安に襲われながらも、世界でまた戦いたいという気持ちだけは消えませんでした。家族や仲間、指導者、トレーナーの方々の支えの中でリハビリに取り組み、再び競技の場に復帰することができました。膝との付き合いは続きましたが、一日一日を無駄にせず、それまで以上に全力で競技に向き合ってきました。高校3年時には世界選手権シンクロの出場権を獲得しましたが、ペアの怪我により出場はできませんでした。しかし、その後ワールドカップではシンクロで3度の優勝、個人でも5位と大きな成果を残すことができました。努力してきたことが形となったこの経験から、諦めずやり続けること、困難にも負けず自分を信じることの大切さを学びました。競技を通じて得たのは技術や実績だけでなく、忍耐力や継続力、自分で考え行動する力、そして最後まで諦めずにやり遂げる強い意志です。現在はロサンゼルス2028大会出場を目標に、これまで以上にトランポリンに向き合っています。経験と挫折があったからこそ、今の自分があり、世界の頂点を目指すという強い気持ちで日々挑戦を続けています。トランポリンは私の人生そのものであり、これからも挑戦を恐れず、全力で前に進み続けたいと思います。ご採用いただけましたらこれまでの経験を活かし、何事にも最後まで責任を持ち、企業の一員として貢献できるよう全力を尽くします」
■和田拓実選手(スケート/ショートトラック)
「私はこれまで、スピードスケート/ショートトラックで世界の舞台を目指し、挑戦を積み重ねてきました。5歳で競技を始め、小学4年で全国大会を制し、小学生のうちに全国優勝を経験しました。その後も国内外の大会で実績を重ね、確実にステップアップしてきました。しかし高校時代、ワールドカップ代表を目指していた最中にレース中の転倒によって両足を骨折してしまいました。右足は開放骨折、左足は複雑骨折という重傷で義足になる可能性もあり、2か月の入院生活と神経障害によって選手復帰は難しいと言われました。自分のキャリアだけでなく、当たり前だった生活さえ脅かされる状況に、言葉を失ったことを今でも覚えています。さらに、この怪我の期間はコロナ禍と重なっており、面会も許されず、退院後もチーム練習がなく、復帰のためのトレーニングもすべて1人で行いました。孤独な環境の中で自分を律し、目標に向け努力し続ける力が鍛えられました。同時に、これまで当たり前のようにあった家族や仲間の存在の大切さに気づき、人とのつながりがどれだけ自分を支えてくれていたかに深く気づかされる機会でもありました。退院後は、支えてくれた人たちに結果で恩返ししたい、もう一度自分に期待したいという強い思いから、1年間の緻密な目標設定を立て、毎朝のトレーニングと自己管理、栄養や身体の理解を深めながら、身体の再構築に向き合いました。最短で復帰することを目指すのではなく、長期的に競技を続けるために、いかにして身体の基盤を整えるかという視点を持ち、着実に実行していきました。その結果、1年半後に世界ジュニア代表に選出され、大学ではFISUワールドユニバーシティゲームズで入賞し、ワールドカップ代表にも選ばれ、自身の目標を次々と形にすることができました。今後も引き続き、オリンピックでのメダル獲得を目指し尽力していきます。この経験から得たのは、目標から逆算し、成果に向けて行動し続ける力と、困難においても自分を律し続ける自己管理力です。そして何より、結果は自分ひとりでは成し得ないこと、周囲とともに挑戦する姿勢が未来を切り開くことを学びました。競技で培ったこの力を、今後は社会人として最大限に活かし、組織の一員、アスリートとして価値を発揮したいと思います。目標達成力・行動力・逆境対応力に加え、周囲への感謝を成果として返す意識を強みに、企業の発展に貢献します。ご採用いただいた際には、自身の努力と成果で周囲に好影響を与え、企業全体を活気づけたいと思います」
■下川拓樹選手(カヌー/スプリント)
「私は、高校からカヌーを始め、10年以上もの間、全国大会や国際大会に挑戦し続けてきました。決して順風満帆な道のりではありませんでしたが、そこで得られた経験と成長が、今の私を形づくっています。父親がカヌー競技の経験者だったこともあり、高校進学と同時にカヌー競技を始めました。最初は一瞬で艇から落ち、とても悔しかったことを今でも覚えています。高校生のトップ選手たちはジュニアの頃からカヌーに乗っている人が多く、高校から始めた私は、中学生にも全く歯が立たず、高校から始めても無理だと言われることがよくありました。悔しかった私は、カヌーに本気で向き合い、朝早くから自主練習をし、授業との両立に取り組みました。体力的にも精神的にも厳しい時期はありましたが、誰よりも練習し、1つずつ目の前の目標を達成し、高校3年時にはU-18日本代表として世界の選手と戦いました。現在は、オリンピックのメダル獲得を目標に、日々トレーニングに励んでいます。日本代表として世界と戦うには技術だけでなく、メンタルの安定や試合とトレーニングにおける戦略的思考、そして人としての器も求められます。だからこそ私は、競技力だけでなく、一人の人間として沢山のことに挑戦し成長できるよう取り組んでいます。私の強みは、目標に対してぶれずに努力を続けられる継続力と困難を前向きに捉える柔軟な発想力です。競技を通じて、目標が達成できた時の喜び、仲間やコーチとの信頼関係の大切さ、応援してくださる方々への感謝など多くのことを学びました。これらは、社会人として働く上でも大切な要素だと考えています。もしご縁があり入社させていただいた際には、社員としての責任を持ち、信頼される存在になりたいと思っています。私はこれまでの経験から時間管理や自己管理の大切さを身に染みて感じ、限られた時間で最大の成果を出す工夫を日々実践しています。仕事と競技、どちらも本気で取り組むからこそ、それぞれの分野で相乗効果が生まれると信じています。競技で培った集中力、粘り強さ、そして目標達成のための努力を仕事でも発揮し、会社やチームに貢献したいと考えています。そして、私の挑戦を通して、社内外の皆様にスポーツの素晴らしさや勇気と希望を感じてもらえるよう努力していきます。最後に、私は全力で楽しむというスタンスを大切にしています。カヌーも人生も仕事も、すべてを前向きに楽しみながら本気で取り組むことをこれからも貫いていきたいです」
■宿谷涼太郎選手(カーリング)
「私は北海道札幌市出身で、大学1年時にカーリングを始めました。大学4年時には日本選手権で優勝し、日本代表として世界選手権に出場しました。大学では経営学を専攻しており、卒業後は大学院に進学しスポーツ運動学の分野を研究しました。その後、より競技に専念できる環境を求めて軽井沢に拠点を移し、これまでパシフィックアジア選手権で準優勝、2023年には当時の国内チーム最上位である世界ランキング18位という成績を残しました。カーリングは戦略的な思考力と高いコミュニケーション能力が求められる競技です。試合中の氷の状態は常に変化するため、変化を感覚的に察知して状況を予測し、チームメンバーに的確に伝える力が重要になります。私は競技の中で、チームパフォーマンス向上のためにメンバー1人1人にとって心地よい会話表現やタイミングなどの実践的なコミュニケーション能力を磨いてきました。合宿での共同生活を通してメンバーの性格や考え方を理解し、それぞれに合わせたコミュニケーションを実践する事で、ショットの成功やチームの士気向上に貢献してきました。また、試合中は氷の状態や相手チームの性格、ゲームの流れなどを客観的に観察し、状況に合わせた戦術を提案するなど、戦略的な面でもチームをサポートしてきました。日々の生活では競技継続のためにこれまで年間約900時間レストランでのアルバイトを続けてきました。業務では店舗のコンセプトを理解したうえで、お客様一人一人に合わせた接客を行い、競技で培ったコミュニケーション力を活かして、料理やドリンクの提案、提供タイミングの調整など工夫を重ねてきました。さらに、競技で培った戦略的な思考力を活かし、飲料メニューの改変や販売方法の変更などを実施し、飲料の展示会などにも自ら足を運び、学んだことを現場に活かすなど業務改善に努めてまいりました。結果として私の対応について口コミなどでご評価をいただき、顧客満足度の向上やリピート顧客の獲得に貢献することができました。こうした経験を通じて身につけた実践的なコミュニケーション力や戦略的な思考力は、必ず業務でも活かせると確信しています。また、カーリングは日本選手権がNHKで全国中継されるため、企業様にとってのPRの場にもなります。チームでSNSを通じた情報発信にも取り組んでおり、企業広報の一端を担うことも可能です。現在はフランス・アルプス2030冬季大会での金メダル獲得を目指し、競技と仕事の両方で日々研鑽を続けています。これまでの経験を最大限に活かし、企業の一員として貢献しながら、新たな価値を生み出していけたらと思います」
プレゼンテーション終了後には、登壇した就職希望アスリートによる座談会を実施。柴JOCキャリアアカデミー事業ディレクターの進行のもと、参加企業の方々との対話形式で、競技の魅力を伝えるなど自らの考えを述べました。説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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