日本オリンピック委員会(JOC)は2月16日、Japan Sport Olympic Square14階「岸清一メモリアルルーム」にて、JOCオリンピック・ムーブメント事業専門部会所管の下、JOCアスリート委員会が中心となり開催している「オリンピアン研修会」の内容をさらに発展させた形として企画した「The 2nd JOC Athletes’ Forum」を開催しました。本フォーラムは、JOC及びNFのアスリート委員会の合同ミーティングも兼ねており、オリンピズムの意義や日本のスポーツ界が抱える各種課題の解決に向けた活動事例報告や意見交換等を行い、当日のプログラムから様々な知見を得ることによって今後の活動の活性化に繋げるための有益な情報共有の機会を提供することを目的としております。
開会挨拶では、主催者を代表して松田丈志JOCアスリート委員会委員長が「現役または現役に近い世代のNFのアスリート委員との連携をさらに強化し、日本のスポーツを盛り上げていきたいという思いから、昨年に引き続き開催いたしました」と本イベントの目的を説明し、「このフォーラムでは競技の垣根を越えて交流を図り、我々がスポーツ界にどう貢献していくか、また社会の中でどのようにスポーツのインパクトを大きくしていくかを、世代や競技に関係なく話すことができればと考えています。ぜひ前後左右の方々とコミュニケーションを取り、仲良くなってください」と参加者に呼びかけ、続けてJOCアスリート委員が一言ずつ挨拶を行いました。
次に尾縣貢JOC専務理事が登壇し「JOCの主な取り組みについて」というテーマで、昨年開催されたパリ2024大会におけるTEAM JAPANの成果や、今後開催される国際競技大会に向けての動き、そしてJOCの理念や事業内容、行っている取り組みについて説明しました。最後には「アスリートの皆様にはぜひこのようなフォーラムや研修会に積極的にご参加いただき、新しい情報をどんどん取り入れてください。そこで得た知見を皆様の活動の糧にしていただき、周囲の方々と連携することが、日本のスポーツ界を更に発展させるための原動力になります」とメッセージを送りました。
続いてのプログラムでは、松田JOCアスリート委員長がモデレーターを務め、朝日健太郎参議院議員、中西真知子大阪府貝塚市議会議員、牛山貴広長野県諏訪郡原村長という現在は政治の世界で活躍されている3名のオリンピアンが登壇し、「スポーツと社会を繋ぐ:オリンピアンが挑む新たな役割」をテーマにパネルディスカッションが行われました。朝日参議院議員は競技引退後の自身のキャリアについて紹介すると共に、「国会議員へのキャリアチェンジは、2〜3年間は非常に大変でしたが、2期目を当選させていただいた現在は、いよいよスポーツ界に具体的な恩返しをしていこうという思いです」と参議院議員選挙当選後のエピソードや現在の思いを語りました。2023年から地方議員として活動している中西貝塚市議会議員は、現在スポーツに関わる活動は10%ほどだという現状を説明した上で「スポーツと教育を結びつけたいという思いで公約を掲げて活動しているものの、その前に待機児童や子育て、女性の働き方などといった課題があるため、まだそこまでスポーツに力を入れられている状況ではありません。早田ひな選手(卓球)の練習拠点があることや、クリケットができる広場がある等、スポーツとは縁があるので、そういった特色を活かしていけたらと考えています」と述べました。また、牛山村長は「長野県にはオリンピアンの首長が4人いるので、県議会との連携やいくつかある小規模なスケート連盟を一つにまとめるなど、声を一つにして県や国に届けられるような体制を作っていきたいです。声が大きくなることで解決できるものは多数あると実感しているので、そこからやっていきたいと思います」と今後の意気込みを語りました。また、本プログラムでは室伏広治スポーツ庁長官からビデオメッセージで「日本には学校教育の上にスポーツが成り立ってきた経緯もありますが、そこに留まらずスポーツを産業として発展させていくように取り組んでおります。また我々はオリンピックやパラリンピックなどのハイパフォーマンスの支援も行っておりますが、そこで得られたコンディショニングの知見を国民の健康増進に繋げていくことが重要だと考えています」と自身の取り組みや今後の目指す方向について述べられました。最後に松田JOCアスリート委員長が「この国のルールや予算を決めているのは政治ですから、やはりそこにアスリートが積極的に参画することでスポーツ界を盛り上げていくことが重要だと改めて感じました」と感想を述べ、プログラムが締めくくられました。
次のプログラムでは太田雄貴JOCアスリート委員会委員がモデレーターを務め、一般社団法人日本車いすラグビー連盟理事の髙島宏平理事、長谷部健東京都渋谷区長、パラリンピアンの若山英史選手(車いすラグビー)が登壇し、「車いすラグビー連盟の進化:経営・競技・自治体の連携がもたらす革新」というテーマでパネルディスカッションが行われました。本プログラムでは、パリ2024パラリンピックで悲願の金メダルを獲得した車いすラグビーにおいて、その躍進の一因となった日本車いすラグビー連盟の変革や渋谷区との連携にフォーカスを当てました。2018年に日本車いすラグビー連盟の理事長に就任した髙島理事は、最初に着手したことを組織改革だと説明し、「日本車いすラグビー連盟は100人ほどの選手登録数に対して、それを支える人は250〜300人ぐらい必要な組織でした。かなりの人数が必要なところを文鎮形で集約し、これまで理事長や副理事長が全て決めるという体制だったところを、役割を明確な組織にして『決め方を決めた』というのが最初に行ったことです」とその具体的な内容を紹介しました。長谷部渋谷区長は2015年の就任当初のモチベーションの一つに東京2020大会の開催があったといい、「渋谷区が会場となる競技にアプローチをしてくれたところ、リオデジャネイロ2016大会の前に車いすラグビーの皆さんが来てくださいました。練習会場が不足していること、車いすが体育館を傷つけるという懸念を伝えられたのですが、我々もボランティアを集めて対応しました。その後リオデジャネイロ2016大会で銅メダルを獲得し、選手たちが訪問してくれた小中学校の生徒はもちろん、渋谷区におけるローカルスターのようになってくれました」と車いすラグビーと渋谷区の関わりについて述べました。また、現在はいくつかの車いすラグビー大会を開催している渋谷区について若山選手は「『草大会』の規模だと言っていましたが、その草大会が我々にとっては非常に重要です。公式戦だけですとトップ選手しか出場することができず、初心者や若手選手が育つ機会がありません。渋谷区に出場しやすい大会ができたことで競技全体の強化に繋がり、実際にそういった大会から若手選手がエースに成長するなど、パリ2024大会での金メダル獲得に繋がったと思っています」と、自治体の協力が競技力向上に繋がったエピソードを語りました。最後に太田JOCアスリート委員が「本プログラムは経営、自治体、競技といった外部との関わりをテーマにしていました。いきなり外部というのは難しいところがあるかもしれませんが、まずは他のスポーツというだけでも大きな学びがあると思いますので、今日は周囲の方々と積極的に交流を行ってください」と呼びかけ、プログラムが締めくくられました。
最後のプログラムでは「アスリート委員会の活動事例報告」として、3つの団体から報告が行われました。
1組目は公益社団法人全日本アーチェリー連盟の坂野太一アスリート委員会委員が登壇し、2016年に発足されたアスリート委員会における社会貢献事業や普及・教育事業などを紹介しました。今後の展望として「募金活動だけでなく、環境問題に対する取り組みについても考えるなど、これまで以上にアーチェリーを通して社会貢献に繋がる活動を進めていきたいと思います。また、連盟との関係性をより強固なものにし、少子高齢化やスポーツの地域連携といった課題に取り組んでいきたいと考えております。そのためにも、アーチェリー競技の認知向上のために、見るスポーツ、支えるスポーツに繋がる活動を選手の立場から模索、提案、実行していきたいと考えております」と語りました。
2組目は公益財団法人全日本柔道連盟の山部佳苗アスリート委員会委員が登壇し、強化選手へのアンケート実施やSNS等での情報発信、社会貢献活動、普及活動を紹介した上で、「今後は競技の魅力発信のため、他の競技のアスリートの皆さんとコラボするなど、より踏み込んだ取り組みを行っていきたいと考えています。ぜひ柔道体験や柔道観戦にお越しいただければ幸いです」と呼びかけました。
最後は、第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)組織委員会の荒木絵里香アスリート委員会委員と小塚崇彦アスリート委員会委員が登壇し、アスリートによる学校訪問事業や各種イベントなど、来年に開催を控える本大会におけるアスリート委員の活動を紹介したほか、第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)のボランティアの募集状況などについても紹介しました。また、環境への取り組みについて他の大会やイベントから良いところを取り入れるとともにアスリートとしての経験も反映していきたいと伝え、昨夏開催されたパリ2024大会へ出場したアスリートに向けて環境に関するアンケートへの協力を呼びかけました。
閉会挨拶では、羽根田卓也JOCアスリート委員会副委員長が登壇者感謝を述べた後、「自分自身も運営側ということを忘れてしまうぐらい、たくさんのことを学べて非常に楽しかったです。皆様も多くのことをNFに持ち帰って参考にできるような、学びにあふれた会だったのではないかと思います。このアスリートフォーラムは繋がって学ぶ、そのような場にどんどん成長していくと思いますので、今後もよろしくお願いします」と総括し、アスリートフォーラムを締めくくりました。
関連リンク
CATEGORIES & TAGS