日本オリンピック委員会(JOC)は9月6日、味の素ナショナルトレーニングセンターウエストで、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「アスナビ説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに219社/団体368名(2023年9月6日時点)の採用が決まりました(内定者含む)。今回の説明会ではJOC主催のもと、17社27名が参加しました。
最初に主催者を代表して服部道子JOC理事が、アスナビ説明会が開催されることへ感謝の言葉を述べました。続けて「アスリートを取り巻く経済的な環境は、未だに整備されていないのが現状でございます。日々のトレーニングに集中し、継続的に練習に行うことができないアスリートは残念ながら未だに数多く存在しております。アスリートは自分のためだけに競技をするのではなく、誰かに応援され、愛されることで自分の限界を超え、そして人間的にも一流になっていくと思います。そういった意味で、皆様のサポートは我が国のトップアスリートの未来を作っていくものであると考えます。本日、ここにお集まりいただきました皆様は、オリンピック・パラリンピックをともに目指すTEAM JAPANの一員であると思っております」と参加企業にメッセージを送りました。
続いて、柴真樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要ならびに就職実績、雇用条件、採用のポイント、アスリート活用のポイント、カスタマーサポート、これからの進め方などを説明しました。
その後、就職希望アスリート5名がプレゼンテーションを実施。映像での競技紹介や自己PRスピ―チを行いました。
■上野優佳選手(フェンシング)
「挑戦し続ける女。私はこれまで目標を達成するために、どんな困難があっても諦めない気持ちを持ち、努力を怠らず、継続的に物事に取り組んできました。私は6歳のときに両親の影響でフェンシングを始めました。初めて出場した大会で優勝し、そこで勝つことの喜びを感じ、フェンシングの楽しさを知りました。私が小学校1年生のときに地元の大分県で国体が開催され、そこで当時フェンシング界で初めてオリンピックのメダルを獲得した太田雄貴選手に出会い、私もオリンピックを夢見るようになりました。
しかし、中学生のときに足首の怪我をしてから、万全の状態で試合に出場することができなくなりました。長く続くリハビリ期間に落ち込むこともたくさんありましたが、常に目標を持ち続け、小さな積み重ねを繰り返し復帰への準備を続けてきました。その成果を感じることができたのは、16歳のときに、U-17とU-20の世界選手権、そしてユースオリンピックで優勝し、日本人選手初の3冠を達成することができたときでした。
そこから私はオリンピックを夢としてではなく、目標として本格的に目指すようになりました。私が高校2年生のときに、親元からひとり離れ、地元の高校から埼玉県の高校に転校し、ナショナルチームのトップレベルの選手と練習ができる環境に身を置くことを決めました。トレーニングで体作りをし、トップレベルのコーチに練習を見てもらい、栄養士の方にサポートしてもらいながら栄養管理、体調管理を徹底し、試合に勝つため、映像分析などを行うようになり、日常生活の全てにおいて妥協することはありませんでした。
簡単な道のりではありませんでしたが、努力をし続けた結果、東京オリンピックに出場することができました。目標であったメダル獲得とはなりませんでしたが、日本人の女子選手の過去最高順位となる6位に入賞することができました。しかし、目標を達成することができなかったからこそ、次のパリオリンピックへの思いは強く、目標達成に向けて始動していきます。
このような経験から、しっかりと目標を設定し、苦しい状況になっても動揺しないようにしっかりとした準備をすることが結果に結びつくということを学びました。
企業に入社後は、社員の方とのコミュニケーションを大切にしながら、何事にも挑戦し続ける女として、これまで培ってきた継続的に努力する力や忍耐、そして分析力を生かして貢献していきたいと思います」
■犬塚渉選手(陸上競技)
「私は陸上競技の100mと200mをやっています。私の競技の目標は、2024年パリオリンピック、2025年東京世界陸上に200mに出場して決勝に行くことです。記録での目標は、20年間破られていない200mの日本記録である20秒03を更新することです。
私のこれまでの陸上競技を振り返ると、中学、高校、大学と全国大会優勝や、日本代表として世界大会に出場するなど、成績を残せていました。
しかし、シニアになってからまだ世界の舞台に立っていません。今までは、ただ純粋に速く一番になることだけを考え競技に打ち込んでいました。ただ、その気持ちだけで競技をやっていては、細かな体の変化に気づかず、怪我をしたり、記録が伸びないことに気づき、日々の食生活はもちろん、走りのフォームや普段の歩き方、トレーニングメニューを見直し、改善していきました。
何事にも向き合い、徹底的に深く追求することが重要であると学びました。その結果、自己ベスト更新やタイムの安定、怪我をしない体作りができています。さらに、社会人アスリートとして、陸上教室や地域のスポーツイベントに参加して、陸上競技の楽しさを伝えています。
子供たちや保護者からは、『どうしたら速くなれますか?』『少し悩みがあります』などの相談をしていただくことが多くなりました。自分が少しでも誰かに影響を与えたり、役に立っていることを嬉しく思っています。それらの経験が競技力向上はもちろんですが、信頼できる人間関係を築くことにも繋がっていると思います。
私は今年で陸上競技を続けて16年目になりますが、自分の競技に取り組む姿勢に対しては一度も疑わずに、夢や成し遂げたいことを叶えられると強い信念を持っています。そして、その可能性も信じています。
その目標を達成するためには、決して一人ではできません。ご支援の環境が必要です。ぜひ一緒に目指すとともに、採用のご検討をよろしくお願いします。さらに、これからも陸上競技の普及活動やイベントに積極的に参加していき、スポーツで社会を盛り上げながら、自分自身も成長していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」
■篠原琉佑選手(スキー/スノーボード)
「私は父の影響でスノーボードを始め、雪と密接なアルペン競技に魅了されて、約15年。競技とともに生きてきました。
そんな私が大切にしたいこと、それは信頼と挑戦です。スポーツはたくさんの人と繋がり、そこに信頼関係が生まれることで、大きな力が生まれ、見てくれる方々に感動や活力を届けることができると考えます。
この信頼をもとに、これまで競技で培ってきた力、その一つに考え方があります。皆さんは、ネガティブと聞くとマイナスのイメージを連想しませんか?私もその一人でした。しかし、それは違うと教えてくれる人に出会い、ネガティブは悪いものではなく、自身の要素を知ることができる1つのツールだと考えるようになりました。
その結果、物事に対する見方が変わり、広い視野を持つことができました。この変化は精神面が弱かった自分にとって競技中はもちろんのこと、競技以外でもプラスに働いています。
次に大切にしたい挑戦についてもお話させていただきます。私はスノーボードアルペン競技において、オリンピックでの金メダル獲得を目標として掲げています。目標に対しての道のりが簡単なものではないことはもちろんですが、オリンピックでの金メダル獲得は夢といった抽象的なものではありません。現実的なステップを踏んだ先、確かな未来として見据える目標です。
スキー競技同様に、アルペン種目に存在する世界との高い壁。この壁に挑戦し、乗り越えていくことで目標を達成し、日本人でも戦えることを証明します。また、私の世界に挑戦する姿が、誰かの挑戦の後押しになるかもしれません。そこに私のアスリートとしての存在が見出されます。人の心を動かせるアスリートになりたい、そんな思いがあるため、全力で目標に挑戦していきます。最後になりますが、私が皆様にご採用いただいた際には、誰よりも強い覚悟を持ち、目標に挑戦すること。
競技で培った力を活かし、企業人としての職務を全うすることはもちろん、身近から世界に挑戦する姿をお届けすることで、事業の一体感の醸成を図り、間接的に社会貢献できるものと信じております。
本日はスノーボードというスポーツをしていたからこそいただいた、このような貴重な機会にとても感謝しています。ありがとうございました」
■平野流佳選手(スキー/スノーボード)
「私は7歳の頃からスノーボード競技を始めましたが、最初の数年間は全く成績が出ませんでした。私にはスノーボードの才能がなかったのです。しかし、才能がなくてもできることがあります。それは人一倍努力することです。私は雨が降ろうが、スキー場のクローズ時間になるまで1人で練習をしていました。
ただ練習時間を長くするだけではなく、どうしたらうまくいくのか、何ができていないのかをしっかり考えて進めるように心がけていました。すると少しずつ大会の結果もついてきました。2017年にはジュニアチームに加入。翌年にはS指定選手まで上り詰めることができました。
北京2022オリンピックでは惜しくも決勝でベースアップできず、12位という悔しい結果に終わってしまいましたが、その悔しさをバネに、2023シーズンはワールドカップ年間優勝、クリスタルグローブを獲得することができました。
オリンピックでの目標は叶いませんでしたが、クリスタルグローブという一つの目標が達成されるとともに、逆境に耐える体力もつき、自分の努力が実った瞬間でした。私は、北京オリンピックの悔しさを胸に、2024シーズンは、2シーズン連続ワールドカップ年間優勝、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック大会連続出場と金メダルを目指して日々選手生活に邁進しております。
私は現在、大阪府堺市にある太成学院大学に在学しており、健康スポーツ学科という学科を専攻しております。スポーツの専門知識や、医学、心理学、教育学、衛生学、経営学を学んでおり、いろいろなスポーツの指導や負傷した際の応急処置などの能力が身につきました。
このたび私がスノーボードという競技を通して企業様に貢献できること、ご興味を持ってくださる企業様の一員として、企画・実行ができるであろう取り組みについてご提案させていただきます。それは健康経営についてです。2023年になり、コロナに悩まされる時期が明け、国内外で体を動かす人が増えてきている状況の中、私は健康経営に注目しています。
私はまず大学で学んだスポーツが心や身体の健康にもたらす効果などの知識を生かし、企業の社員の皆様と身体を動かすスポーツイベントを企画したいと思っております。イベントを企画し実行することによって、よりスポーツへの関心を持っていただき、なおかつ企業の社員様同士の繋がりを作り、企業様全体を活気づけることができればと思っております。皆様の企業にご採用いただいた際には、競技と仕事、どちらにも全力で取り組みたいと思っております。そして、私の努力や挑戦する姿、活躍する姿を見ていただき、社内の一体感醸成にも貢献できればと思っておりますので、応援よろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました」
■武藤裕亮選手(カヌー/スラローム) ※ビデオ登壇
「私は地元のカヌークラブに所属していた両親の影響でカヌーを始めました。スラロームに出会ったのは小学2年生のときです。流れに乗って、水の上を走る心地よさに魅せられ、競技を開始しました。中学2年生では18歳以下の日本代表に選出され、現在シニアの23歳以下の代表として活動しています。
今後の目標は、パリ2024オリンピック出場、2026年世界選手権メダル獲得、ロサンゼルス2028オリンピック金メダル獲得を目指しています。
カヌーはヨーロッパ発祥のスポーツで、日本ではいまだ発展途上にあり、特にスラローム競技においては、世界のスタンダードである人工の競技コースが日本で作られ、そこでトレーニングできるようになったのは、ここ2年の話です。
それまでは、ほぼ流れのないような川でトレーニングをしていました。情報においても同様で、ジュニア時代には、世界の最先端の知識を学ぶ環境は非常に限られていました。私が初めて環境装置を体験したのは、中学2年生のときでした。ヨーロッパに遠征に行き、初めて海外のレースに参戦しました。しかし、結果は惨敗でした。初めて体験する人工の競技コースの流れは、日本で体験したこともないパワフルでサイズの大きいものでした。日本で得られる情報のみで太刀打ちすることはできないと痛感しました。
このレース以降、私は日本の限られた環境の中で、世界で活躍するトップ選手になるためにはどうしたら良いか、真剣に考えました。そして私は、オリジナルスタイルの構築にチャレンジすることを決意しました。カヌー/スラロームには、確固たる理想型は存在せず、トップ選手は皆それぞれのオリジナルスタイルを持っています。ですので、私は自分に最適なスタイルを自分で作り出そうと考えました。そこからチャレンジの繰り返しでした。何度も挑戦し、失敗を繰り返して、そこから得たノウハウや知識をもとにオリジナルスタイルを構築していきました。まだまだ未完成ですが、成果に繋がっています。現在は、シニアの日本代表3名に入り、日本の第一人者として10年間活躍されている選手にも勝つことができるようになってきました。今後もチャレンジを続け、オリジナルスタイルで金メダルを目指します。
皆様の企業にご採用いただきましたら、カヌーの競技活動を通して培ってきたこのチャレンジ精神で、仕事においても果敢に挑戦したいと思っております。難しい課題にも諦めずに挑戦し、最善の解決策を見出す努力を続け、仕事においても成長したいと考えております。
競技活動においては、私の競技に対する真剣な姿を社員の皆様に見ていただき、応援される選手になれるよう努力します。世界で活躍し、私の試合を楽しんでいただけるよう、自己発信を積極的に行っていきたいと考えております。よろしくお願いいたします」
5名のアピールが無事終了すると、続いて特別企画の質問コーナーが始まり、それぞれオフの過ごし方などをリラックスしながら話してくれました。また参加企業の皆さんとの掛け合いも行われ、説明会は終始和やかに進みます。
終盤には、採用企業の選手活用事例として、黒川魁選手、長谷川暁子選手、福嶋晃介選手(ともにバレーボール/ビーチバレーボール)採用したエヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社 総務人事部 人事部門 採用担当 三成竜也氏より、トップアスリートを社員として採用する理由やアスリート社員の業務について紹介がありました。三成氏は「弊社が2019年当時に20周年を迎えましたが、それに向けて社会貢献であったり、社員の一体感醸成を目的に、アスリート社員の採用を検討しました」と同社の背景を語り、「アスリート社員は成長していくスピードが早いです。私の考察ですが、スポーツやってきた方、特にオリンピックを目指すような方は、しっかりと自分で目標を立てて、小さい成功体験を通じて今の実績を残せています。それが仕事になってもしっかりと目標を立てて、PDCAサイクルと同じような成長サイクルをうまく回せているのだと思います」と、アスリート採用のメリットをアピールしました。
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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