日本オリンピック委員会(JOC)は6月23日、味の素ナショナルトレーニングセンターウエストで、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに219社/団体368名(2023年6月23日時点)の採用が決まりました。今回の説明会ではJOC主催のもと、21社34名が参加しました。
最初に主催者を代表して岩渕健輔JOC理事が、アスナビ説明会が開催されることへ感謝の言葉を述べました。続けて、JOCでは選手の強化活動サポートはできている一方、選手個別の生活基盤までは手が回っていないことを伝えて、「個人競技にしてもチーム競技にしても、選手たちは生活基盤や経済基盤など、色々な環境が整うことで最大のパフォーマンスを発揮できますので、ぜひとも皆様にはTEAM JAPANの一員となって、アスリートと一緒に前に進んでいける関係を構築していければ」とアスリートの採用を呼びかけました。
続いて、柴真樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがスライド資料をもとに、アスナビが無料職業紹介事業であることや登録するトップアスリートの概略、その他、就職実績、雇用条件、採用のポイント、アスリート活用のポイント、カスタマーサポートなどの説明をしました。
その後、就職希望アスリート7名がプレゼンテーションを実施。映像での競技紹介やスピーチで、自身をアピールしました。
■篠原琉佑選手(スキー/スノーボード)
「父の影響でスノーボードを始め、雪と密接なスノーボードアルペン競技に魅了されて約15年、競技と共に生きてきました。そんな私が大切にしたいこと、それは『信頼』と『挑戦』です。スポーツは決して1人でできるものではありません。チームスポーツ個人スポーツに関わらず、他の選手やコーチ、そして応援してくださる方々との信頼関係があってこそスポーツは大きな力を生み、それが見てくれる方々に届くことで感動や活力に繋がると考えています。これは、日々新たなビジネスを開拓し、社会貢献に尽力されている企業の皆様と共通する点ではないでしょうか。続けて大切にしたい『挑戦』についてもお話しさせていただきます。私は、オリンピックでの金メダル獲得を目標として掲げています。これに加え、オリンピックでの金メダル獲得に挑戦する過程を通して、1人のアスリートとして誰かの助けになりたいという思いが強くあります。なぜなら、そこに私のアスリートとしての存在意義を見出すことができるからです。私はなぜ自分がスノーボードをしているのかを考えてしまうことがあります。しかし、私の世界に挑戦する姿が誰かの挑戦の後押しになるかもしれない、そう考えると非常にわくわくします。私はそのような人の心を動かせるアスリートになっていきたいと考えています。最後になりますが、私が皆様の企業にご採用いただいた際には、誰よりも強い覚悟を持ち、目標に挑戦していきます。競技で培った力を生かし、企業人としての職務を全うすることはもちろん、身近から世界に挑戦する姿をお届けすることで、企業の一体感の醸成を図り、間接的に社会貢献できるものと信じております。本日はスノーボードというスポーツをしていたからこそいただいたこのような貴重な機会にとても感謝しています」
■眞弓怜奈選手(アーチェリー)
「私がアーチェリーを始めたきっかけは中学3年生の頃に高校の見学会に行き、部活動体験をしたことでした。先輩方が弓で矢を放っている姿がかっこいいと思い入部しました。憧れから始めたアーチェリーですが、今では強化指定選手になり、オリンピックでメダルを取りたいと思っています。私がここまで成長できたのは、大学に進学し、自分自身を変える試合に出場できたからだと思っています。私自身を変えた試合とは、2022年4月に行われたワールドユニバーシティゲームズの選考会です。私以外の選手全員がシニアナショナルチームのメンバーだったので、『負けたくない』『シニアにも通用する戦いをしたい』と思いました。誰よりも練習量を増やしすぐには結果がついてこなくても諦めずに、努力を続けました。そして少しずつ結果がついてくるようになり、全日本学生アーチェリー女子王座決定戦では優勝することができました。2023年の4月に行われた世界選手権大会最終選考会兼アジア競技大会最終選考会では4位とあと1人で世界選手権、アジア競技大会の選考メンバーにはなれませんでしたが、ワールドカップを経験することができ、オリンピックでメダルを獲得するという夢を新たに持ちました。私は高校、大学と部活動内で女子リーダーを務めました。同期と協力しチーム作りに取り組んだり、自分から部員全員声をかけ親しみやすい人間関係を築きました。また、後輩が悩んでいるときには率先して声をかけ、メンタル面でも寄り添ってサポートをし、解決に導きました。皆様の企業にご採用いただきましたら、これまでアーチェリーで培ってきた向上心を持って、難しい仕事であっても任された業務はやり遂げたいと思います。また、持ち前のコミュニケーション力を活かし、チーム一丸となって業務の成功に取り組んでいきたいと思っています。そして仕事と競技の両立を図り、支えてくださる方への感謝を忘れずに応援される選手となり、国際大会でも活躍していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします」
■渡邉太陽選手(水泳/水球)
「私は小学2年生から水球を始めました。高校3年生時にインターハイ準優勝、国民体育大会3位という結果を残し、世界ジュニア選手権のメンバーに高校生では唯一選出していただき、日本水球として初のベスト8入賞を果たしました。その後、日本体育大学では日本代表候補として合宿に参加し、大学2年生時には東京2020大会の最終候補に選ばれました。そして昨年、日本代表のレギュラーメンバーを勝ち取ることができました。昨年末に行われた世界選手権では日本史上最高位となる9位となり、アジア選手権では優勝することができました。中でもアジア選手権では全6試合中3試合でマン・オブ・ザ・マッチを獲得しました。私は1ヶ月後に行われる福岡の世界水泳と、9月から10月にかけて行われるアジア競技大会のメンバーに選ばれております。中でもアジア競技大会は優勝すると来年のパリオリンピックの出場権を獲得できる重要な試合であり、私の目標であるオリンピック出場に向けての大きな一歩となります。私は昨年の11月から大学のチームのキャプテンを務めており、リーダーシップには自信があります。私の所属する日本体育大学は現在インカレを25連覇しおり、全国各地からエースと呼ばれるような選手が多く集まっています。いろいろな個性や考えを持つ選手が多くいるため、プレーのことなどで衝突が多々起きてしまいます。その際に私はチームメイトと個人的に話をして、プレーの最善策を一緒に考えたり、ミーティングを開いて共通の意識や考えを持って練習できるようにしています。また、キャプテンの自分が率先して準備や片付けなどを行うことによって、チームの指針となりチームメイトを引っ張っていけると考え、日々実践しています。また、リーダーシップだけではなく、自分に足りないところは何かを客観的に捉え分析し弱みを工夫していこうとする行動力や、何事にも目標を決めて最後までやり抜く継続力を、水球を通して身につけました。皆様の企業にも採用いただけましたら、持ち前の明るさと、自らの競技の活躍で、社内の活性化などに貢献していきたいと考えています」
■田中大寛選手(水泳/競泳)
「私は小学校1年生のときに水泳を始め、小学校3年生から競泳選手として泳ぎ始めました。高校3年生時にはインターハイ、ジュニアオリンピック大会、国体と3大会で全種目優勝し、7冠を達成することができました。その頃からオリンピックに出場したいという目標が明確になりました。大学1年生時のインカレでは200m自由形で優勝し、東京2020大会出場が現実的なものとなっていましたが、大学2年生で迎えた代表選考会で、あと0.7秒というところで代表になれませんでした。これ以上努力を積み重ねても結果が出ないのではないかとまで考えるようになっていましたが、これまで積み上げてきたものを信じ、粘り強さと、腐らない精神力で再び練習に打ち込みました。その結果、2022年のインカレでは100m自由形と200M自由形で2冠、そして2023年4月に行われた日本選手権では200m自由形で3位となり、7月の福岡世界水泳と、9月のアジア競技大会の日本代表に選出されました。2024年の3月に行われるパリオリンピック選考会では、標準記録を突破し4位以内であれば、リレーの代表にも選出されます。現在私は日本ランキング3位という位置にいますので、さらに記録を縮め、オリンピック出場をより確実なものにしていきたいと思っています。これまでの努力の結果、この小さい体で日本代表になれましたが、コミュニケーションも自分を支える大きな武器だと思っています。日々の練習だけでなく、他チームの選手やコーチと、試合会場や合宿などでコミュニケーションを取ることで、自身に欠けている思考や技術に気づかされ解決策が生まれることもあります。視野を広く持ち、良いと思ったものを吸収することで、さらに成長していけるということを感じています。また、大学では副主将という役目を担っておりますが、相手の立場になって話を聞き、共感し、意見を伝えるということを日々心がけています。採用していただけた際には、社員の皆様との関わりを大切にし、社員としての誇りを持ち、企業様の目標達成に向けて、また、競技を通して人々や社会に向けての貢献活動、さらにはそれが企業様のPR活動に繋がるよう全力で努力してまいりますので、よろしくお願いいたします」
■小谷優奈選手(カーリング)
「私は小学校3年生のときに父に誘われてカーリングを始めました。高校卒業後、2018年の日本カーリング選手権で優勝し、その年の世界選手権に日本代表として出場することができました。
しかし、その結果は思い描いたものではありませんでした。まだ世界で戦う経験が少なく、自分の実力が発揮できないことで悔しい思いをしました。そのときから、もっと勝ちたい、もう一度この舞台に立ちたい、オリンピックで金メダルを取りたいという思いを強く持ち続けています。その思いから、自分が理想とするカーリングをするためには何が必要かを探し、試行錯誤した結果、初心にかえって競技と向き合うために、環境を変えたいと思い、行動に移しました。その際に現在所属しているチームから声をかけていただき、ここでならもう一度オリンピックが目指せると思い、加入しました。夢や目標に向かって新しいことに挑戦し行動することができる、それが私の強みです。世界で勝つためには何が必要かを探し、それをどう自分に活かせるか考え、常に実践しています。また、カーリングはコミュニケーションがとても大事な競技です。カーリングは個人で選抜されるのではなく、チーム単位で日本代表になります。チームの目標はオリンピックでの金メダル獲得ですが、その達成のためにコミュニケーションを大切にし、さらにそれがより良いものになるように常に進化させています。話は変わりますが、私には先天性の心疾患があり、生まれたときには将来運動制限が必要になるかもしれないと言われていたそうです。幼い頃は体力がなかったため、プールに長い時間入れなかったり、友達と長い時間遊べないことで悲しい思いをしたことを覚えています。しかし、家族の諦めない気持ちや周りの方々の協力、手術のおかげで、今では何の制限もなくやりたいことに打ち込めており、非常に感謝しています。今の私は健康な体力に自信があります。私が夢や目標に向かって努力することで、たくさんの方も希望を持ってもらえるのではないかと思っています。ご縁をいただいた際には、これまでの経験で学んだ諦めない気持ちや新しいことに挑戦する行動力、コミュニケーション力を生かすことで、人と繋がり、社会に貢献してまいります」
■犬塚渉選手(陸上競技)
「私は陸上競技の100m、200mを専門としています。私の競技における目標は、2024年パリオリンピック、2025年東京世界陸上に200mで出場し、決勝に残ることです。記録での目標は、20年間破られていない20秒03という200mの日本記録を更新し、19秒台を出すことです。私の競技人生を振り返ると、全国大会優勝や、日本代表として世界大会に出場するなど、中学から大学までは良い成績を残せていました。しかしシニアになってからは、怪我の影響が多少あったものの、まだ世界の舞台に立てていません。これまではただ純粋に速く走る、1番になるという気持ちだけで競技に打ち込んでいましたが、細かな体の変化に気づかず怪我をしたり、記録が伸びない時期が続いて、悩んでしまう時間が増えました。そこで、日々の食生活はもちろん、フォームや普段の歩き方、姿勢、トレーニングメニューを全て見直し、改善していきました。何事にも向き合い、徹底して深く追求することが重要であると実感しました。その結果、昨年200mの自己ベストを0.2秒以上更新でき、今では怪我をしない体づくりもできています。社会人になってからは、前職では人と接する仕事をした他、陸上教室や地域のスポーツイベントで陸上競技の楽しさを伝えています。そこで子どもたちや親御さんから『どうやったら速くなりますか』『子どものことで少し悩みがあります』と相談していただくことが多くなりました。僕自身が他の人に良い影響を与えているな、役に立っているなと実感しています。新たな企業様に採用いただきましたら、これまで競技で培ってきたことを糧に、誠心誠意企業の課題等にも取り組み、私の競技の目標に対して取り組んでいる姿勢や挑戦している姿で、社員の皆様を活気づけたり勇気づけたりしていきたいと思います。私の目標に対しての挑戦や、それを達成することは決して1人ではできません。ぜひ一緒に世界を目指していただきたいと思っています。ぜひともご採用のご検討をよろしくお願いいたします」
■松代龍治選手(カヌー/スプリント)
「私は小さい頃から父の影響でカヌーが身近にあり、中学1年生のときにオリンピックへの思いを胸にカヌー/スプリント競技を始めました。高校2年時にはインターハイで優勝しましたが、一転して翌年は県大会で敗北。さらには腰の疲労骨折を患い、思うような結果を残せませんでした。しかし、この怪我をきっかけにオリンピックを目指したいという思いを再確認しました。そして、2021年全日本学生選手権で優勝、2022年の世界選手権で入賞という成績を収め、現在は来年のパリオリンピック出場枠獲得を目指し、海外を転戦しつつ日本代表合宿にてトレーニングに励んでいます。私は昨年4月、大学を休学し、自分自身に足りない瞬発力と持久力を鍛えるため、カヌーの強豪国であるハンガリーへ留学しましたが、そこで得た成果は2つあります。1つ目は、未経験のトレーニング手法から競技力を向上させたこと。そして2つ目は、トレーニングへの取り組む姿勢の大切さを学んだことです。ハンガリーの選手の誰もが、練習も試合も気楽に楽しく向き合っておりましたが、その姿勢は私自身に足りない点であり衝撃を受けました。次に代表活動と学業との両立についてお話します。私は国際的な分野を学びたいと思い、南山大学国際教養学部へ進学しましたが、当初は長期で開催される代表合宿にはなかなか参加することができませんでした。しかし、オンライン講義という特色を生かし、学業と両立することができました。私の目標は、2024年のパリオリンピックへの出場、2026年に愛知県で開催されるアジア競技大会での優勝、2028年のロサンゼルスオリンピックでのメダルの獲得です。皆様の企業にご採用いただきましたら、カヌーを通して培ってきた何事にも挑戦する力、そして代表活動と学業を両立させた経験を生かし、カヌーも仕事も、明確な目標を持って成果を出せるように取り組んでまいります。また、応援してくださる皆様への感謝の気持ちを忘れずに競技に取り組んでまいります」
プレゼンテーション終了後には、会場内の就職希望アスリート7名へインタビューを実施。司会進行を務めた広本順子JOCキャリアアカデミー事業プランニングディレクターの質問に答える形で、7選手が自らの考えを述べ、最後に自己PRをしました。
続いて、採用企業の選手活用事例として、水泳/競泳の小西杏奈選手、宮本一平選手、レスリングの山﨑弥十朗選手を採用した株式会社サイサン人事総務部人事課採用担当の小西南氏が登壇しました。小西氏は同社がアスリート採用を行う理由として「『PR力への期待』『アスリートを応援することによる社内の一体感の醸成』『社会貢献』の3点が大きな理由である」と語りました。続けて、アスナビ経由の3名の採用を含むグループ全体で7名のアスリートを採用した同社の実績として、アスリートの勤務状況、職務内容、アスリートの応援事例について紹介しました。また、今後の課題として『競技活動のサポート』『社内の応援体制のさらなる拡大』『デュアルキャリアの推進』の3点を挙げました。このような課題を述べつつも「アスリートの及ぼす影響は大きく、社員の活性化や社内の一体感に繋がっている」とメリットを述べました。
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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