JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。
髙藤 直寿(柔道)
男子60kg級 金メダル
■中身が濃い5年間の末に
――日本代表選手団の東京2020オリンピック金メダル第1号となりました。率直な思いをお聞かせください。
「終わったな」と、「やり切ったな」と、そういう感じでしたね。
――満足感でしょうか。
達成感の方が大きかったと思います。
――リオデジャネイロオリンピックの銅メダルから、5年という月日がたちました。長かったのではないでしょうか。
長かったですけど、終わってしまえば一瞬でしたね。でも、苦しいことやつらいことなど自ら望んでやってきたので、中身が濃い5年間でした。
――前回の結果があったからこそ、今回の金メダルの喜びが大きかったように見えます。
銅メダルで悔しい思いをしましたし、本当にあの時の銅メダルを見るたびに、“なにくそ”と思って日々を過ごしてきました。これが今回の金メダルをとるための本当に原動力でしたね。
――そう思うと、今回残念ながら思うような色のメダルがとれなかったっていう選手たちにとっては、もしかすると自分を成長させる良い機会なのかもしれませんよね。
負けた時には、周りの人に何を言われても何も響かないものです。その負けを次に活かすのか、活かせないのかも自分次第なんですよね。だから、負けたことによって、柔道以外でも成長できる部分があるんじゃないかなと僕は思っています。
■原動力は柔道を好きな気持ち
――ひとりの評論家として、プレーヤーであるご自身を見た時に、どのようなところが強みだと感じているでしょうか。
試合の支配力と試合を作る力は、他の選手よりも本当に抜群に長けていると思います。僕の場合は柔道が好きで、常に柔道を見ています。その好きという思いが原動力になっているのだと思います 。
――「柔道が好き」という思いがどんどん探究心などにつながり、結果として試合での支配力になっていくということですね。
そうですね。それを自分の試合にも活かすことができて、客観的に自分を見られるようになります。
――いつごろからそのような意識になってきたのでしょうか。
意識し始めたのはリオデジャネイロオリンピックが終わってからですね。もしかしたらその前から無意識にやっていたのかもしれないですけど。でも、意識的に気づくことによって、さらにそういう能力を高めることができると思います。
――それに気づいたきっかけは何かあるのでしょうか。
安定感のある柔道をしないと金メダルはとれないと思った時に、いろいろ考えていたらこういうことができるんじゃないかと思って試合に臨むようになりました。そうしたら安定感が出てきて。やはり、気づくということが大切だと思いました。
――自分のことをちゃんと見極める、把握できるのがすごいですね。
そうですね。大人なのでコーチもいないですし、厳しいことを言ってくれる方も少ないので、セルフコーチというのは大切にしていますね。楽しいですよ。趣味です。
――そしてこれは、現役引退した後も活かせることですよね。
そうですね。僕だからこそできることだと思っています(笑)。
■東京での苦しみとパリへの思い
――オリンピックが1年延期になったことに関しては、どのように受け止めていらっしゃいましたか。
そこはもう、自分がコントロールできるところではないですからね。練習もできないですし、1年間何をしようかと最初は思ったんですけど、でもそういう環境でもいろいろ頭のなかが成長できると思うので、映像を見ることも含め、とにかく止まらず、何かしら自分が成長できることを考えてやってきました。
初めて休みましたが、休んだことでむしろ柔道がやりたくなりました。あらためて自分の人生にとって柔道が重要であることを痛感しました。なんだか自分の人生じゃないような気がして抜け殻みたいでした。
――あらためて柔道愛を感じた良い機会だったってことですね。
はい、そうですね。
――1年後の今年、オリンピックが開催されることになったわけですが、一方でそれに反対する人たちもいました。それについては正直なところどのように感じていましたか。
心ない言葉をかけられたこともあり、つらかったです。そういう経験を初めてしました。でも、その反骨心って言うんでしょうか。僕らが活躍したことで感染が収まるわけではないのですが、自分たちが頑張ることで盛り上がってもらえたのは良かったと思います。自分たちにはこれしかできないので。
――リオデジャネイロオリンピックと比較して、東京2020オリンピックでは周りの環境なども含めてやりやすさを感じたのでしょうか。
はい、やりやすかったです。もちろん、試合に向けての調整もしやすいですし、地の利というのでしょうか、普段と変わらない心境でできたので、やりやすかったですね。ただその分、海外で開催するオリンピックでも金メダルをとりたいなと思いました。
――そうすると、3年後のパリオリンピックは一つの大きな目標になりますか。
はい、もちろんです。目標でもありますし、今大会、混合団体ではフランスに負けているのもありますしね。
――最後にオリンピックを目指す子どもたち、未来のオリンピアンに向けてメッセージをお願いします。
今回のオリンピックはいろいろなことが重なって大変な状況の中、開催されたオリンピックでした。どんな逆境でも諦めずにコツコツとやり続ければかなわないことは一つもないと思いますし、小さな目標でも大きな目標でも自分で作ってコツコツとやっていくことが夢をかなえることにつながります。これからまだ僕の人生が続いていくなかで、小さな目標、大きな目標をたてて進んでいこうと思いますので一緒に頑張っていきましょう。
■プロフィール
髙藤 直寿(たかとう・なおひさ)
1993年5月30日生まれ。栃木県出身。7歳の時に柔道を始める。2012年、東海大学に進学し、2年生の時に世界選手権で初優勝。オリンピック初出場となった16年のリオデジャネイロ大会では60㎏級で銅メダルを獲得。17年、18年の世界選手権は60㎏級で2連覇を果たす。21年東京2020オリンピックでは60㎏級で悲願の優勝。日本勢として金メダル第1号となった。混合団体では銀メダルを獲得した。パーク24(株)所属。
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