JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。
永瀬 貴規(柔道)
男子81kg級 金メダル
■優勝できて報われた瞬間
――2016年のリオデジャネイロオリンピックから5年、念願の金メダルとなりました。今の率直なお気持ちをお聞かせください。
この東京2020オリンピックで優勝することだけを考えて、今までキツい稽古やトレーニングに励んできましたし、また、膝の手術をはじめ挫折をたくさん味わった中で、本当に優勝できて報われた瞬間でした。
――男子81kg級の金メダルは2000年のシドニーオリンピック(瀧本 誠選手)以来、21年ぶりとなりました。
あまりいろいろと考えすぎず、自分の目標を達成することに集中してこの大会に挑みました。大きな舞台で最高の結果を残すことができて素直にうれしいです。
――5試合中の4試合がゴールデンスコアでの決着でした。粘り強く攻め抜いた今回の戦い方は、ご自分で考えていた通りの展開になりましたか。
初戦から強豪選手との対戦となれば、厳しい一日になるというのは想定していました。そのために準備はしっかりとしていたので、どんな試合展開になろうと自分の柔道を全うすることだけを考えて戦いました。
――今回、金メダル獲得できた最大の要因は何でしょうか。
前回大会の悔しさを経験していますし、今までにないくらい気迫を全面に出して戦えたことが一番の勝因じゃないかと思っています。
――実際金メダルを手にして前回の銅とは重さが違いますか。
金メダルをとることしか考えてなかったです。前回大会で他の選手が首から金メダルをかけられている姿は鮮明に覚えていて、その悔しさがあったからこそ今回とれた金メダルだと思っているので、すごく重みがあります。
■リオデジャネイロオリンピックでの経験
――永瀬選手にとって、自分自身の柔道の魅力はどこだと思いますか。
競れば競るほど自分の強みというのが出てくると思いますし、後半でもスタミナには自信があるので、そこで勝負ができるのは強みなのかなと思います。
――オリンピックで勝つための戦略は他の大会と違いますか。
やはり、ピークをどこに合わせるかというのは大事だと思っています。オリンピックは4年に一度、今回5年に一度でしたけど、その目標に向かって逆算して稽古やトレーニングを考えていく必要があるので、その部分についてはすごく悩みました。
――今回表彰台の一番上からの景色を見ることができましたが、リオデジャネイロオリンピックの銅メダルの時の経験は生かせましたか。
本当にあの経験があったからこそだと思っています。あれ以降も、何回も挫折してそこから這(は)い上がってきたので、さまざまな経験があって成長することができたと思っています。
――柔道は日本のお家芸と言われることもあって、金メダルのプレッシャーが強かったと思います。前回と今回で勝利と敗北、両方の結果を経験されたと思いますが、改めてどのように感じていらっしゃいますか。
柔道はオリンピックで金メダルをとることが使命だと思っています。その中で、いろいろなプレッシャーがある一方で、やりがいもすごく大きいと思うので、そのようなプレッシャーも力に変えていかないといけないなと思います。
――所属先の同僚でもある大野将平選手は、永瀬選手にとってどんな存在ですか。
本当に尊敬する先輩ですし、今まで大野先輩の背中を見てここまでやってこられているので、すごく刺激になる存在です。
■人生の全てを懸ける価値のある大会
――新型コロナウイルス感染症拡大の影響で1年延期になりました。実際この1年はどのように過ごされていましたか。
1年期間が増えた分、さらに成長できると考えたので、柔道で言えば柔道の幅を広げるためにいろいろな技を試したり練習したりと、試合で勝つための1年になりました。
――今回無観客となりましたが、何か影響はありましたか。
特に影響はなく、自分がやることだけを考えてやりました。
――オリンピック金メダリストになりました。今後多くの人に、オリンピックの素晴らしさを伝えていくことがあると思いますが、どのように伝えていこうと思われますか。
今大会を通して、今までスポーツに興味がない方や普段されていない方にも、画面越しでも勇気や感動を与えられることが分かりました。スポーツの素晴らしさを伝えていきたいと思います。
――今後オリンピックを目指す未来のオリンピアンの方たちにメッセージをいただけますか。
オリンピックが全てではないですが、人生の全てを懸けても良いくらいすごく価値のある大会だと思っています。オリンピックを通して、またスポーツを通して、人間的な部分も成長してほしいと思っています。
――3年後のパリオリンピックについてトライする上で、今後に向けて抱負をお願いします。
まずは、しっかり休んで心も体もリラックスさせた状態から、金メダリストとして恥じないような結果を目指しながら、柔道に取り組む姿勢を意識してもっと突き詰めていきたいと思います。
■プロフィール
永瀬 貴規(ながせ・たかのり)
1993年10月14日生まれ。長崎県出身。6歳の時に兄とともに親戚が営む道場に通い始めたのが柔道との出会い。筑波大学に進学し、2015年の世界選手権では81㎏級で金メダルに輝く。16年のリオデジャネイロオリンピックでは81㎏級で銅メダルを獲得。17年世界選手権では膝のじん帯を痛めるも19年に復活を果たし、21年東京2020オリンピックでは男子81㎏級で金メダル、混合団体で銀メダルを獲得した。旭化成(株)所属。
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