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2021.10.12 オリンピック

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】向田真優:金メダルは思っていたよりも重くて、このために頑張ってきて良かった

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

向田真優(レスリング)
女子フリースタイル53kg級 金メダル

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】向田真優:金メダルは思っていたよりも重くて、このために頑張ってきて良かった
JOCエリートアカデミー出身者として初の金メダリストに輝いた向田選手(写真:アフロスポーツ)

■最高の形につながった周囲の力

――金メダル獲得おめでとうございます。今の気持ちをお聞かせいただけますか。

 ありがとうございます。東京2020オリンピックが自国開催されるということもあり、ここに向けて練習を重ねてきたので、自分の夢がかなって本当にうれしいです。

――JOCエリートアカデミー出身者として初の金メダリストとなりました。3期生としてアカデミーに参加して、金メダルにつながるものが手に入りましたか。

 中学・高校の6年間、大切な時期に指導していただきました。それは自分にとって本当に大きいものでしたし、あの6年間があったからこそ今があると思います。

――2004年アテネオリンピックから2016年リオデジャネイロオリンピックまで、吉田沙保里選手が4大会メダルを獲得した階級での金メダル獲得。プレッシャーも大きかったことと想像します。

 沙保里さんはとにかくすごい選手です。4大会連続で出場されて3連覇されているわけですから、私とは比べものにならないのですが……。今回沙保里さんと同じ53kg級に出場させていただくことになり、私は私なりに自分のレスリングをしようという気持ちで4試合を戦いました。

――今大会を振り返って、最も思い出に残っているのはどの試合ですか。

 思い出に残る試合というと、やはり最後の決勝ですかね。決勝の対戦相手である龐倩玉選手(中国)も何が何でも金メダルをとるっていう気持ちで、本当に研究してきていたと思います。最後は気持ちの勝負だとあらためて感じましたし、あそこでもしチャレンジしていなかったら一生後悔していたんだろうと思うと、あの時勇気を出してタックルにいって良かったと思います。

――その決勝は4ポイント先取される展開で、逆転での金メダルとなりました。外から見ているとドキドキする紙一重の試合でしたが、向田選手はどのような精神状態で戦っていたのでしょうか。

 龐選手とは何回も試合したことがあり、手の内も分かられている状況での試合でした。これまでの対戦では、私がリードしてスタートするケースが多かったのですが、今回は相手にリードされてのスタートということになりました。自分が追いつき、追い抜こうという立場に置かれるのは、いつもと逆だったこともあって、かえって気分的には楽だったかもしれません。

――リードされて焦りそうな気もしますが、いつもより楽な気持ちだったのですね。

 はい。先制点をとってからディフェンスに回ってしまう悪い癖があるのですが、今回は逆に先制されてしまったので、結果的に自分が積極的に点をとりにいかなくてはいけなくなりました。もちろん、追いかける展開で点をとりにいくための練習も数多く積み重ねてきたのでその練習の成果が出せたかなと思います。

――金メダルを手にした時、その重みはどのように感じましたか。

 金メダルは思っていたよりも重くて、このために頑張ってきて良かったと何度も見返しました。

――テレビ越しで見ていても、ずっとメダルを見ているなとすごく伝わってきました。あの時はどういう気持ちでメダルを触っていたのでしょうか。

 皆さんの声援がこもってこんなに金メダルが重くなったのかなと思うほど、たくさんの方々に応援していただきました。メダルの重み以上に重みを感じたというのか……。表彰台の上でもいろいろな方々の顔が浮かんできて、最高の形で終われて本当に良かったと思いました。

――今大会、自分が目指しているレスリングを表現することができたと思いますか。

 初戦から準決勝まで、練習の成果が出せた部分と、逆に悪い部分も出てしまっていたので半分半分な気持ちでした。決勝の2ラウンド目では金メダルにつながるレスリングができたと思います。1ラウンド目は全然ダメでしたが、2ラウンド目は自ら動いていけたので、その面では支えてくれる人の力がこんなに大きいんだと実感しました。

■コーチとの二人三脚

――金メダルを獲得できた要因はどのように感じていますか。

 この金メダルは一人の力ではとれませんでした。ずっとそばで支え続けてくれた志土地翔大コーチに感謝の気持ちでいっぱいです。

――今回は無観客だったこともあって、余計に志土地コーチからの声も届いたと思うんですけど、実際は励ましのコメントは毎試合届いていたのでしょうか。

 決勝ではとにかく厳しいアドバイスをたくさんしてもらい、それが自分を奮い立たせてくれました。いつもは「いいぞ、いいぞ」という褒めるアドバイスが多かったのですが、負けていて何が何でもとりにかなきゃいけないという状況でしたので、厳しい言葉で自分を奮い立たせるためのアドバイスが、「絶対にやり切ろう」という思いにさせてくれたと思っています。「なかに入ったら、絶対とれる」とか「いかないと絶対後悔する」など、細かい言葉までは夢中だったので覚えていないのですが、大きな声で声援を送り続けてくれたことは自分の力になりました。

――志土地コ―チも喜んでくれていたのではないでしょうか。

 ありがとうという気持ちを伝え合って、本当に良かったねという話は何回もしています。

――素晴らしいです。昨年、練習拠点を愛知から東京に移したんですよね。

 愛知にいた時は部員が大人数だったので、ウエートトレーニングもグループで回す感じだったんです。東京に出てきてからはマンツーマンでしっかり見てもらえるようになり、細かい部分まで指摘をもらえるようになったことがすごく良かったですね。また、減量するとどうしても後半疲れやすくなるのですが、減量幅がかなり減ったことで試合の後半にバテないスタミナづくりにつながり、いつも通りの状態で試合に出られました。

――今、最も幸せなアスリートの一人なのではないかと感じます。

 私はこのように、金メダルをとって翔大コーチと入籍するということを理想に掲げていましたが、幸せというのは人それぞれの形がありますよね。オリンピックに1回出場するだけでも大変だと思いましたが、それを何回も何回も経験されている沙保里さんなどは本当にすごいと思います。オリンピックを通して、あらためてそのすごさを感じました。
 二人きりではこの金メダルは成し遂げられなかったと思うので、感謝の気持ちでいっぱいですし、その気持ちをこれからも忘れずにいたいです。

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】向田真優:金メダルは思っていたよりも重くて、このために頑張ってきて良かった
決勝は全く緊張しなかったという向田選手。4ポイント差を逆転しての勝利だった(写真:AP/アフロ)

■オリンピックは人生の通過点

――今回のオリンピックは楽しめましたか。

 いえ、楽しくはなかったですね(笑)。最後もギリギリの試合でしたし。決勝の相手は何回も対戦したことのある選手でしたが、彼女のオリンピックに懸ける思いがすごく大きいことは試合をしながら感じましたし、自分にとってもこの金メダルが今後の人生に関わる大事な試合だと思っていたので、楽しむという感じではありませんでした(笑)。

――多くの取材を受けて、メダルをとった実感は湧いてきましたか。

 そうですね、実感が湧いています(笑)。

――東京2020オリンピックは、今までに出場した大会と違いましたか。

 試合中はあまり普段と変わらなかったかもしれないですね。

――緊張もされなかったですか。

 決勝は全く緊張しなかったです。1回戦はちょっと緊張していました。緊張していないのに自分の動きができなかったんですよね。

――むしろ緊張した方がいいのでしょうか。

 そうですね。緊張していないときに全く動けなかったので、「なんで?」と焦る気持ちがありました。緊張した方がかえって動けるのかもしれないと初めて思いました(笑)。

――2014年には南京ユースオリンピックに出場されたと思いますが、今回の東京2020オリンピックに出場して違いを感じましたか。

 オリンピックシンボルが表現されているのは一緒ですが、迫力が違いますよね。宿泊しているホテルから会場に行くまでにも、ボランティアの方々がすごい笑顔で挨拶してくださって、皆さんの支えがあって自分たちが競技できていることを痛感しましたし、この大変な状況下で大会を実現するために自ら進んでボランティアをしてくださっている人たちに感謝したいです。

――大会が1年延びたことで、もちろんご自身も相手を研究できたと思うんですけど、自分のことも相手から研究されたと思います。1年の延期は向田選手にとってどのように働いたでしょうか。

 すごく良かったと思います。1年前は翔大コーチがセコンドにつけるか分からない状態でしたが、1年延びたことでセコンドにつけることになりましたし、そのおかげで金メダルをとれたと思います。このような環境を整えてくださった日本レスリング協会の方々に感謝しています。

――オリンピックの金メダリストとして、レスリングの良さ、スポーツの良さを今後どのように伝えていきたいと思いますか。

 今回の東京オリンピックたくさんの方々に見ていただき、「おめでとう」とか、「感動をありがとう」など、本当にうれしいメッセージをいただきました。今後自分が試合をするなかで「レスリングって面白い」とか「レスリングって見てて楽しい」って思ってもらえるような試合ができたらいいなと思いますし、この東京大会のように最後まで諦めない姿は今後絶対に必ず大事になってくると思うので、どの試合も一つひとつ勝って終われるように頑張っていきたいなという風に思いました。

――向田選手のプレーを見てレスリングを始めたいと思う子たちいると思うんですけど、そういうこれからの子供たちになにかアドバイスとかありますか。

 夢や目標を持って、諦めずに努力していれば必ず報われると思います。自分は技の吸収や覚えが悪くてできるまでやらないと気が済まないタイプだったのですが、逆にそれが良かったのかもしれません。運動神経が良くてすぐできてしまうと繰り返しやらなくなってしまうと思うのですが、私はすぐに吸収できないからこそ、「分かるまでやりたい」「身体が覚えるまでやりたい」というタイプになりました。それがオリンピックへと導いてくれたのだと思います。

――吉田選手が戦ってきた階級をこれからも守っていく立場として、向田選手には皆さんから大きな期待が寄せられると思います。4大会となれば、パリ、ロサンゼルス、ブリスベンと続いていきますが、どのような気持ちで向き合っていきますか。

 今回金メダルをとりましたが、どのように次の道を進むかは、一回ゆっくりしてからまた翔大コーチとしっかり話し合って決めていきたいと思っています。 他人と比べるのではなく、自分自身の道を進みたいと感じますし、新たな目標を立ててまた頑張っていきたいです。

――最後に、向田選手にとってオリンピックとはどんなものでしょうか。

 翔大コーチには「人生の通過点」だと言われ続けてきました。東京2020オリンピックで終わりではない、将来のためにこの金メダルをとって幸せになろう、という話をしているんです。そういう意味でも、「人生の通過点」だったのかもしれないですね(笑)。

■プロフィール
向田 真優(むかいだ・まゆ)
1997年6月22日生まれ。三重県出身。父の影響で5歳からレスリングを始める。全国少年少女選手権では4連覇を達成。2010年JOCエリートアカデミーに入校。14年南京ユースオリンピックに出場、金メダルを獲得。16年、18年と世界選手権を2度制した。21年、東京2020オリンピックでは女子フリ―スタイル53kg級で金メダルを獲得。(株)ジェイテクト所属。

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