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2021.10.12 オリンピック

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】橋本大輝:真のエースになるために

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

橋本大輝(体操/体操競技)
男子個人総合 金メダル
男子種目別鉄棒 金メダル
男子団体 銀メダル

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】橋本大輝:真のエースになるために
東京2020大会で金2個を含む3個のメダルを獲得した橋本大輝選手(写真:アフロスポーツ)

■最高にベストなチーム

――おめでとうございます。金メダル2個、銀メダル1個、計3個のメダルを獲得して、今どんな思いですか。

 ありがとうございます。今大会は、団体・個人どちらも金メダルを目標にしてやってきました。最初の男子団体では銀メダルという結果になりましたが、オリンピックの団体決勝という緊張するなかで自分のベストを出せたのがすごく良かったと思います。負けたことは本当に悔しいですが、オリンピックという舞台で最高の演技をしてみんなで喜ぶことができましたし、すごく大きな経験になったと思います。

――体操のような採点競技の場合、相手の失敗演技を願ってしまう、といった側面もあると思いますが、そのような葛藤とはどのように向き合っているのでしょうか。

 もし相手がうまくできたら負けるかもしれない、というのは、イコール自分の実力が足りないということですよね。「相手が失敗したから勝てた」とは言われたくないですし、相手の失敗で勝つよりも接戦を制して勝った方がうれしいです。だからこそ、僕は相手に失敗してほしいなどとは願っていないですし、誰もがベストを出してほしいというのが一番の願いですね。

――全員がベストの演技をして、そのなかで自分が周りを上回って勝つ喜びがやはり大事ということですね。スポーツマンとしてオリンピズムを体現していて素晴らしいと思います。体操競技の場合は、オリンピックに限らず常に戦っている仲間が近い環境にいるからこそ、互いのリスペクトが大きいのかもしれませんね。

 団体で戦った4人の内3人は同じ順天堂大学を拠点としていて、普段から切磋琢磨してお互いを高め合っています。残りの一人である北園丈琉くんも、ジュニアの頃から何回も合宿を一緒に過ごしています。年齢的に敬語は使いますが(笑)、選手同士の親近感があり、誰もが意見を言いやすい関係のチームメートです。個としてはライバル同士ですが、最高にベストなチームだと思っています。

■体操を愛する仲間たち

――団体戦の直後も、橋本選手がROC(ロシアオリンピック委員会)の選手を真っ先にたたえていて、ライバルチームに対するリスペクトを感じました。

 2年前の世界選手権ではロシアと中国に負けて本当に悔しい思いをしました。それまではただ悔しいだけで終わっていたのですが、その時はいろいろな感情が湧き出てきて……。自分の未熟さを感じるとともに、絶対に成長しなくてはいけないと思わされた試合でした。今大会、ROCと中国と接戦を繰り広げることになりましたが、それこそ僕らが目指していたことでした。支えてくれた日本代表チームのスタッフの力ももちろんありますが、ロシアと中国のおかげで自分がここまで成長できましたし、今回の結果につながったと感じています。

――競い合うライバルも自分を育ててくれる存在であり、体操を愛する仲間ということですね。

 そうですね。体操という一つの競技だけにとどまらず、全てのスポーツに共通するものがスポーツマンシップだと思います。コロナの影響で制限はありますが、拍手をしたり、人と人とが互いにたたえ合ったり、認め合ったりすることが大切だと思います。演技をしているだけで、言葉がなくても選手同士が通じ合い、距離が近くなるもの。スポーツは演技や競技が会話になるのだと感じます。

――記者会見でも、ROCのニキータ・ナゴルニー選手が「彼の人格は素晴らしい」と橋本選手のことを褒めていましたね。

 僕自身も「ナゴルニー選手のおかげでここまでこられた」と本当は言いたかったんですよね。僕だったら少し躊躇してしまいそうですが、記者会見の場面で率先して自分の意見を言って良い方向へと空気を変えられるのは、一人の人間として本当にすごいと思いました。

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】橋本大輝:真のエースになるために
橋本選手は「エースに一番必要なのは雰囲気」と語る(写真:フォート・キシモト)

■人間性を高めていく

――お話を伺っていると、橋本選手もナゴルニー選手同様、すごく言語力や人間力が高く映ります。橋本選手はJOCのネクストシンボルアスリートとしても指名されていますが、そういうところも評価されているのでしょうね。

 1年前に選んでいただいた時は、急な話で驚いたことを覚えています。この1年は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあって、ネクストシンボルアスリートとしての活動はできなかったのですが、人間を磨くことはできたと思っています。結果を出し続けることで人前に出る機会も多くなると思うので、人間としてもっと高めていきたいと思っています。選んでいただいたJOCや推薦してくださった日本体操協会には本当に感謝していますし、競技結果だけではなく姿勢を評価していただけていることは光栄に感じています。

――相手との関係性だけでなく、自分のなかで負けそうになる気持ちを奮い立たせることもスポーツマンシップといえるでしょうし、橋本選手からは自分と向き合うストイックさを感じます。それはどのように身につけてきたのでしょうか。

 僕は末っ子で、兄が二人います。体操を始めて、兄という目標がいたからこそ上達できましたし、負けず嫌いに育ったのだと思います。結局のところ、勝負の世界は実力次第です。年の差も関係なく、自分の実力が足りないから負ける。ベストを出して、その上で勝つ。それが正真正銘のチャンピオンの姿だと思っています。

――エースとして日本代表を長年けん引してきた内村航平選手は、橋本選手にとってもずっと背中を追いかけてきた存在だと思います。今大会、橋本選手が個人総合の金メダルを獲得したことで、今後は橋本選手にエースとしての期待が高まりそうですね。

 東京2020オリンピックは僕自身が輝くことができ、注目してもらえた試合になりました。オリンピックで自分の演技を出したいと考えた結果がたまたま良かったという面もありました。これから本当のエースとして戦うのであれば、大会前からエースらしさを見せつける強さを身につけていなくてはいけないと思います。ただ、それを意識し過ぎて抱え込んでしまい、自分らしい演技ができなくなってもいけません。エースに一番必要なのは雰囲気。真のエースは、体操の演技だけではなく、人との接し方や人間性も求められると思いますので、これからも一人の人間としてしっかり学んでいきたいと思います。

■プロフィール
橋本大輝(はしもと・だいき)
2001年8月7日生まれ。千葉県出身。兄の影響を受け、6歳で体操を始める。18年全日本ジュニア選手権団体で優勝。19年世界選手権団体総合で銅メダルを獲得。21年全日本個人総合選手権では初優勝を果たす。同年、東京2020オリンピックでは個人総合、種目別鉄棒で金メダル、団体総合で銀メダルを獲得した。順天堂大学所属。

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