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第32回オリンピック競技大会(2020/東京)

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【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】野中生萌・野口啓代:「本当に? これ、本当なの?」とうれしかったですけど、うれしい以上でしたね

カテゴリ:オリンピック
2021.10.25

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

野中 生萌(スポーツクライミング)
女子ボルダリング・リード・スピード複合 銀メダル

野口 啓代(スポーツクライミング)
女子ボルダリング・リード・スピード複合 銅メダル


【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】野中生萌・野口啓代:「本当に? これ、本当なの?」とうれしかったですけど、うれしい以上でしたね
スポーツクライミング女子ボルダリング・リード・スピード複合で銀メダルを獲得した野中生萌選手(右)、銅メダルの野口啓代選手(写真:フォート・キシモト)

■最後まで諦めずに粘った結果

――メダル獲得おめでとうございます。スポーツクライミングが初めてオリンピック競技に採用されて、初代メダリストになりました。大会前に想像していたオリンピックと、実際に出場して感じたオリンピック、メダルをとった今、あらためて感想を教えていただけますか。

野中 スポーツクライミングにとってオリンピックは初めてだったので、想像でしかなかったんですけど、みんなにオリンピックは違うと言われていて、実際に出てみて本当に他の試合とやっぱり違う部分がありました。でも、意外とあっさり終わってしまって、「もう終わったの?」と実感が湧かなくて(笑)。ただ、この大会に懸ける思いは、他の大会と違うものがあったということで違いを感じましたね。

野口 オリンピックが他の大会と全然違うと私が感じたのは、周りの方々の反応や、応援のメッセージやその反響がこれまでのどの大会よりも本当にすごくて。自分がオリンピックに出て、テレビで生放送されていて、本当にたくさんの方が見てくれているんだなと実感しました。

――2年前、この『OLYMPIAN』の取材で野中選手からお話を伺った際に、スポーツクライミングという競技の魅力を教えていただきました。その意味で、スポーツクライミング観戦に関する師匠が野中選手ということになるのですが(笑)、そのおかげで今大会を楽しむことができました。それぞれ3つの競技の得意不得意のバランスが違う上に、点数を掛け合わせたスコアで競うので、順位がどうなるか計算が追いつかずハラハラしながら見ていたんですけど、ご本人たちは自分の出番を待っている間、どんなことを考えていたのでしょうか。

野中 スピードとボルダリングが終わった段階で全体の点数が出ているんですけど、その後のリードの競技でどの選手がどのようなパフォーマンスをしているのかは終わるまで分からないので、選手も今、自分自身がどの辺のランキングにいるのかが全然分からないんです。ですから、私としては最終のリード種目に向かう前は自分のクライミングに集中をして、とにかく自分にできる最高のパフォーマンスをしようとだけ考えているわけです。

――実際に試合を振り返ってみるといかがでしたか。

野中 最後のリードはもっと出し切って終わりたい気持ちだったのですが、結果的には不甲斐ない感じで終わってしまいました。正直なところ、「メダルはないだろうな」という感覚でいました。ただ、スピードでは目標にしていたポジションにつけられましたし、ボルダーでも最後まで本当に粘れたので、それがこの結果につながったと思います。全体を通しては、かなり良い戦いができたかなと。

野口 このコンバインのルールが、周りの結果で自分の順位が左右され、しかもその数字をかけ合わせるということで、他の大会とは全く違う独特のルールになっています。もちろん自分の目の前のことに集中しないといけないんですが、周りの選手のことが気になったり、自分のパフォーマンスがすごく良くてもそれが思ったよりも順位が悪かったり、逆に自分がダメでも思ったよりも順位が良かったり……。メンタル的にもすごく揺さぶられる得点方式でした。ただそうしたなかで、最後まで諦めずに自分のべストを尽くすことができて良かったです。


【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】野中生萌・野口啓代:「本当に? これ、本当なの?」とうれしかったですけど、うれしい以上でしたね
初めてのオリンピックを振り返り、野中選手は「大会に懸ける思いは、他の大会と違うものがあった」と語った(写真:フォート・キシモト)
【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】野中生萌・野口啓代:「本当に? これ、本当なの?」とうれしかったですけど、うれしい以上でしたね
東京2020大会を最後に現役引退を表明している野口選手は今大会の銅メダルを「ご褒美をもらえたような気持ち」と表現した(写真:フォート・キシモト)

■みんなで読み解きたい気持ち

――壁を攻めるルートを参加選手全員でディスカッションする「オブザベーション」のルールについても以前教えていただきましたが、あらためて注目して見ていて、本当にいいシステムですよね。今大会、スケートボードの選手たちが「よく頑張ったね」と励まし合い、褒め合い、たたえ合っている姿が非常に印象的で、オリンピックに新しい風を吹かせたと思います。そういう意味で、ライバル同士がお互いを認め合って一緒に戦略を考えるというスポーツクライミングのルールは魅力的だと感じました。ご自身たちはどのように感じていますか。

野口 そうですね、本当に選手同士も仲が良く、みんなで相談し合って解決のために力を合わせて読み解くというのが、クライミングの魅力の一つだと思っています。私は他の競技をやったことがないから分からないのですが、もっとバチバチしていることも多いと聞きます。オブザベーションについても「何かうそを言ったりする選手はいないの?」と良く聞かれるのですが、実際にみんな同じ気持ちで、目の前の課題をどう登るのがいいか不安で分からないから相談し合っています。みんなで話し合って、読み解きたいという気持ちなんです。うそをつこうとか、この人に登られたくないとか、そういった感じは全くありません。それは本当にスケボーの選手たちが示した世界観とイメージが近いと思いますし、自分が登っていっても他の選手が頑張っていてもすごく清々しく感じているところです。

――ありがとうございます。野中選手はいかがですか。

野中 そうですね。私たちの中ではごく当たり前のことになってしまっていますが、でもそれが今の時代に合っているスポーツなのかもしれないとあらためて思います。人と対戦するということではなく、壁と自分がどのように向き合うかという競技なので、周りに失敗してほしいとか、そういう感情はなく、みんなでアイデアを出し合って登っていくのがクライミングの魅力の一つだと思います。

――選手同士の戦いというよりも、壁に課題を提示する出題者と選手たちの対戦という側面が大きいのかもしれないですね。

野口 そうですね、壁のホールドも人工的なものですし、課題を考えて設定するセッターがいて私たちが登ります。時にそれが簡単すぎたり、難しすぎたりすることもあるんですが、でもそのなかでも目の前の課題に自分が全力でトライするというところは変わらないです。

――最後はメダル争いになってきますよね。そうすると、先ほどの質問ともかぶるのですが、「この選手がここで失敗したら自分が上位にいける」というようなことをつい考えてしまうこともあるのではないかと感じます。お二人は最後どんな心持ちでいらっしゃったのでしょうか。

野口 計算が複雑すぎてもう全く点数が分からないんですよね。もう一人上に行ったら全員の順位が変わったり入れ替わったりするので、自分では計算できなくなって、画面に映し出された数字や順位を見て、最終的にこうなったのかと理解できるという感じでした。

野中 本当にそうでしたね。計算がすぐにはできず、自分が何点で、この人は何点から何点になって……と追っていたのですが、結局、全くよくわからなかったです(笑)。

――最後に2位・3位でそれぞれ決まった瞬間は、どんな気持ちでしたか。

野中 もちろんメダルを狙っていたんですけど、お互いあまりスムーズに戦えた試合ではなかったと思うんですが、自分たちが最後までやり切って勝ちとったメダルだったので、「本当に?  これ、本当なの? これが、最終リザルト?」とうれしかったですけど、うれしい以上でしたね。言葉ではあまりうまく表現できないのですが、よくやりきったという安堵がありました。

野口 課題が難しかったり、混戦だったりするうえに、スピードが速い選手と、ボルダーが得意な選手、リードが得意な選手とそれぞれ得意種目が全部違うので、本当に2種目だけじゃ結果が分からないし3種目終わってようやくリザルトになります。終わった瞬間は、自分の何が良くて何が悪かったのかも良く分からないけれど、メダルがとれたという感じでした。

――大会が、1年延期になったことは、お二人にとってどのような影響がありましたか。

野中 私はこの期間をフィジカルトレーニングに充てることができました。今まで遠征が多くて日本にいられなかった分、トレーニングに時間を費やしました。今回スピードの結果のように成長できたので、結果的にはすごく良かったと思っています。

野口 私はもともと東京2020オリンピックを最後に引退することを表明していました。引退を決めながらも、競技生活が終わってしまうことには寂しさを感じ、辞めたくないという思いもどこかにありました。ですから、1年延期になった時は悲しいというよりは、どちらかといえばもう1年できることがうれしいなというようにポジティブに捉えることができましたね。

――そう伺うと、まだまだ現役として活躍できるのではないかという気がします(笑)。

野口 この先のことは本当に何も考えていないのですが、1年延期になった期間にクライミングともう一度向き合うことができました。最終的にオリンピックが開催され、しかもメダルをとることができて本当にすごく満足しています。1年間プラスになった上に、何かご褒美をもらえたような気持ちです。

――このオリンピックを見て、クライミングをやってみたいという子どもたちや、大人の方もいるかもしれないですよね。クライミングの魅力をどのように伝えたいでしょうか。

野中 日本にはクライミングジムって世界中のどんな国よりも本当にたくさんあるので、ぜひ気軽にジムへ足を運んでいただいて、この楽しさを知ってもらいたいと思います。

野口 オリンピックに出てみてすごく感じたのは、これまで自分が出場した世界選手権やワールドカップなどの大会とは、周りの反応やサポートなどの規模も全然違いました。日本を背負って戦っているんだなと感じましたし、自分一人の今までは自己満足というか、自分一人の夢だったのですが、大勢の方々からこんなに支えてもらっていることをすごく実感しましたし、本当に幸せな体験をさせてもらったと思っています。

――ただ、オリンピックに対する賛否両論、外野の声のようなものは耳に入ってきたと思います。メダルがとれた今、あらためて振り返って、どのように向き合ってきたのでしょうか。皆さんの活躍を見て良かったと思ってくださる方もすごく多いと思うのですが、今後、オリンピックメダリストとして、スポーツの良さ、クライミングの魅力をどのように伝えていきたいですか。

野中 オリンピックに対して反対する気持ちも良く分かりますし、私も理解できる部分はあります。ただ、私自身はクライマーとしてオリンピックに出られる立場でしたので、実際にこうして大会が開催されてこのような機会を得られたことには感謝しています。私たちの結果によってポジティブなエネルギーを届けられたらそれは一番うれしいことですね。

野口 オリンピックが始まる前までは、オリンピック開催に対する反対の声やデモもありました。出場が決まり、開催が決まってからも本当に応援してもらえるのかネガティブな意見が気になる瞬間もありました。ただ、アスリートは全員そうだと思いますが、それがオリンピックだからとか国内大会だからなど関係なく、自分が戦うべき目の前の大会に全力で挑むのです。私自身、最後までやりきってよかったと思いますし、日本人選手をはじめ、オリンピアンたちの戦いぶりを見て、一人でも多くの方が開催して良かったと思ってもらえたら本当にうれしいです。

――そういう声も増えてきていると思います。ぜひこれからもずっとオリンピックメダリストとしてご活躍を期待しています。本当にありがとうございました。

野中 ありがとうございました。

野口 ありがとうございました。

(取材日:2021年8月7日)

■プロフィール
野中 生萌(のなか・みほう)
1997年5月21日生まれ。東京都出身。8歳の時、クライミングと出会う。2013年、16歳の時に初めて日本代表入りを果たす。16年ボルダリングワールドカップのムンバイ大会で初優勝すると同年ミュンヘン大会でも優勝。同年、世界選手権では銀メダルを獲得。18年にはボルダリングワールドカップの年間女王に輝く。21年東京2020オリンピックのスポーツクライミング女子ボルダリング・リード・スピード複合で銀メダルを獲得。XFLAG所属。

野口 啓代(のぐち・あきよ)
1989年5月30日生まれ。小学5年の時に、フリークライミングと出会う。翌年全日本ユース選手権で優勝。2008年には日本人としてボルダリングワールドカップで初優勝を果たした。翌年、W杯年間総合優勝を達成し、その後3度、同タイトルを獲得する。競技人生の集大成となった21年東京2020オリンピックでは、スポーツクライミング女子ボルダリング・リード・スピード複合で銅メダルを獲得。TEAM au所属。



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