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第32回オリンピック競技大会(2020/東京)

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【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】川井梨紗子:プレッシャーを背負って戦うだけの経験を積んできている自信はあった

カテゴリ:オリンピック
2021.10.12

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

川井 梨紗子(レスリング)
女子フリースタイル57kg級 金メダル


【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】川井梨紗子:プレッシャーを背負って戦うだけの経験を積んできている自信はあった
レスリング女子フリースタイル57kg級で金メダルを獲得し、リオデジャネイロオリンピックに続く連覇を達成した川井梨紗子選手(写真:アフロスポーツ)

■自分が望んで自分で決めた道

――リオデジャネイロオリンピックから5年がたち、前回とは階級が違いますが連覇を達成しました。率直な感想を教えてください。

 リオデジャネイロオリンピックの時も本当に優勝したい気持ちで必死でしたが、東京2020オリンピックは世界チャンピオンとして挑む大会だったので、周りから研究のされ方も違いました。妹の友香子とともに二人で金メダル獲得を目指してきたということもあって、重さが違いました。リオデジャネイロオリンピックの時は、今振り返ってみるとかなりのびのびやっていたと思いますね。

――プレッシャーを感じましたか。

 プレッシャーは感じていましたが、「プレッシャーがあります」とは言いたくありませんでした……。終わった今だから言えるのですが、実際は「勝たないといけない」というプレッシャーがすごくありました。ただ、プレッシャーを背負って戦うだけの経験を積んできている自信はあったので、もうあとはやるだけだと思っていました。

――今大会挑んだ階級は、リオデジャネイロオリンピックでは伊調馨選手が4連覇を達成した階級です。前回、梨紗子選手は上の階級で金メダルを獲得。今大会は本来の階級に戻して戦うことになりました。それは伊調選手と代表争いをすることを意味していたわけですから、すごく覚悟が必要だったのではないかと思います。

 そうですね。リオデジャネイロオリンピックが終わったら階級を戻して戦うことは以前から決めていたことでした。世界チャンピオンになってから、馨さんと戦うつもりでした。もちろん負けたくないですし、負けたらリオデジャネイロオリンピックで優勝した意味がなくなってしまう気もしていました。オリンピックの金メダルがほしかったはずなのに、そのオリンピックチャンピオンの肩書がいつしか自分を苦しめていました。1試合でも負ければ、「オリンピックチャンピオンが負けた」といって大騒ぎになるので、苦しく感じた時期もありました。でも、馨さんと戦って勝ってオリンピックに出たいというのは自分が決めたことであり、自分が望んで決めた道。自分で決めたことなのに、自分でプレッシャーに押しつぶされてしまうのはバカバカしいと思って覚悟を決めました。

――伊調選手との間で気まずさを感じることはなかったですか。

 そういうことは本当になかったです。馨さんの練習拠点は元々至学館大学でしたが、私が入学した頃には練習拠点を東京に移されていたので、至学館の道場で一緒に練習したことはなかったんです。リオデジャネイロオリンピックに一緒に行った時も普通にお話しさせていただいていました。その後、馨さんが2年ほどレスリングから離れていて、あらためて予選から出てくることが決まった時はお互いに試合すると分かっていました。試合会場くらいでしか会うこともないので、その時は喋ることはありませんでしたが、それはただライバルだから話さないという感じでした。

――レベルの高いライバル同士で切磋琢磨するからすごく強くなれるという側面もありますね。

 そうですね。「あの人がいたから」と、今はそう思えます。ただ、結果が出ていなくて競い合っている最中は「この人さえなければ」って思ってしまう時期もあったのも事実です(笑)。でも、今となってはそういう存在がいないと自分の成長にもつながらないと思いますね。

――今大会の戦いぶりを見ていると圧勝のようにも感じました。相手選手から研究される対象となり、打倒・川井梨紗子で向かって来ているといった実感はありましたか。

 世界のレスリングのレベルが上がってきているというのはもちろんあるんですけど、今まで以上に自分が研究されていると感じることは増えてきました。それでも全て乗り越えなくてはいけないですし、うれしいことでもありますよね。研究する必要があるくらい、強いと認めてくださっているわけですから。ですので、大変ではありますが認められているのかなと思います。


■レスリング界のために貢献したい

――リオデジャネイロオリンピックと東京2020オリンピックを連覇して、周囲の反応やそれぞれの大会の違いは感じましたか。

 リオデジャネイロオリンピックの時は、優勝できてただひたすらうれしい思いでした。今回は終わってみて、優勝目指してやってきたのでもちろんうれしいんですけど、「6分間よくやった。よく戦い切ったな」と自分に感心しました。「よくできたな」という気持ちが強くて、東京2020オリンピックの方が客観的に自分を見ていた気がします。
無観客開催でしたが、家族とかにはやっぱり近くで見てほしかったです。日本開催なので施設も全てきれいでやりやすかったです。ボランティアの方々とすれ違うたびに、「頑張ってください」と無観客を感じさせないくらいの応援をいただき、本当にやりやすかったです。

――選手によっては、無観客だからこそ緊張しなくて良かったという人もいますし、観客がいた方がパフォーマンスを発揮できるから残念だったという選手もいます。

 リオデジャネイロオリンピックを知っている身からすると、観客がいる方が喜んでくれた時の歓声は最高だなと感じます。ただ、コーチの声がすごくしっかり聞こえたのは、無観客のいいところかもしれないですね(笑)。

――記者会見などのなかでも、東京2020オリンピックのマットに立てたことは、感謝の気持ちが大きいとおっしゃっていました。大会に向けて準備をしてきて1年延期になったことに関しては、ご自身としてはどんなお気持ちでしたか。

 本当にあと数カ月で開催されるというタイミングで延期が決まり、最初はここから1年間は長いな、モチベーションを保ち続けられるのかなと思いました。また、オリンピックを開催している場合じゃないだろうという声も聞こえていました。皆さんが100%オリンピック開催に賛成でもないなかで、そこで戦って勝っても喜んでいいのかとも考えました。
実際に、「辞退してください」という手紙が届いたこともありました。人によって立場が違えば、そういう考え方があるのは当たり前だとも思うようになりました。私の立場としては、傷ついたとしても戦うしかない。それを分かってもらえないのも仕方がないこと。ただ、おっしゃることもすごくよく分かる。そうした全てを受け入れようと思いました。
オリンピックに出たくても出られなかった選手もいます。日本代表になった以上は恥ずかしくない試合をしなくてはいけない。オリンピックが開催されるか分からないにしても、いつでも戦える準備をしておこうと気持ちを維持していました。
今回のオリンピックは全てが特殊で、普通のオリンピックではありませんでした。それでも、このような舞台を用意していただけたのはありがたいことです。リオデジャネイロオリンピックの時にはただただ「金メダルをとりたい」という気持ちだけで、思いもしなかった感情でした。でも今回は、大会を開催してくれたこと、マットを用意してくれたこと、試合させてくれたこと、海外の選手たちが大変な状況にもかかわらず集まってくれたこと、日本も大変なのに競技をやっているわけでもない多くの方々がボランティアとして協力してくださること……、本当にあらゆることに感謝の気持ちが湧いてきました。
だからこそ、結果でお礼をしたいという気持ちでした。大会を開いてくださっている以上、喜んでくださる皆さんのためにも「金メダルをとろう」と思って臨むことができたのです。

――お話を伺っているとリオデジャネイロオリンピックだけでなく、今回特別なオリンピックを経験し、そして連覇したということで大きく成長されたのかもしれませんね。

 そうですね。成長したというか、すごく視野が広がった気がします。いろいろな人の立場のことを考えられるようになったと思いますし、本当に勉強になりました。
レスリング界には、吉田沙保里さんや伊調馨さんなど、複数の金メダルをとっている大先輩がいます。その偉大な選手たちに影響されたことで今の私があります。今後、子どもたちが私の今回の連覇を見て、いつか自分もと思ってくれれば、それは本当に最高なことだと思います。そうやってレスリング界のために貢献できているのであれば本当に光栄です。

――そのレジェンドたちも経験していないこの難しいオリンピックを経験してチャンピオンになりました。今後多くの人たちに対してメッセージを届ける役割としても期待されますね。

 オリンピックが終わり、優勝してもSNSで多くの批判がくるのではないかと思っていたんです。でもそれは本当にごくわずかでした。見てくださって、応援してくださって、そして、「元気が出ました」とか「感動しました」とか「勇気をもらいました」とか「私も明日から頑張ろうと思いました」とか……そんな声が数多く届きました。伝え方はすごく難しいと思いますが、オリンピックが開催されて良かったと思ってくださる人がいるならうれしく思います。


【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】川井梨紗子:プレッシャーを背負って戦うだけの経験を積んできている自信はあった
妹・友香子選手の金メダルは「プレッシャーではなく後押しになりました」と川井選手は振り返った(写真:フォート・キシモト)

■姉妹でかなえた夢の金メダル

――妹の友香子選手と切磋琢磨することは、実の姉妹だからこそ力を合わせる絆がすごく強いように感じました。心強かったですか。

 同じところを目指しているので本当に心強いですね。

――ただ、友香子選手は前日に試合があり、先に金メダルを獲得した分、姉の梨紗子選手は重圧に感じたのではないでしょうか。

 不思議とプレッシャーはなかったです。試合日程が決まり、友香子が先に優勝したら自分どんな気持ちなんだろうなと想像してきたのですが、試合を生で実際に見たら、もう「すごい」の一言。このような試合を見せられたら、「自分もやるしかない」と思いました。決勝の朝、友香子がメダルを見せに来てくれた時に、まだこれから自分の試合があるというのに涙が出てきてしまって……(笑)。「よく頑張ったね。今夜の決勝でもう1個金メダルを増やそう」と話しました。プレッシャーではなく後押しになりましたね。

――今大会、柔道では、阿部一二三・詩兄妹が揃って金メダルを獲得。川井家も2個の金メダル獲得を実現させましたね。

 阿部家は同日金メダルだったじゃないですか。私たちは1日試合がずれていましたので、本当にすごいと感動しながら見ていました。「うちらもこれを成し遂げたい、最高だろうね」と話していたのを覚えています。

――姉妹ということですと、冬季オリンピックで髙木菜那・美帆姉妹が揃っての金メダル獲得を実現していますが、夏季オリンピックでは川井姉妹が初の姉妹金メダリストということになりました。

 髙木姉妹から「おめでとう。すごく感動して泣きそうになった」というメッセージをもらい、本当にありがたいと思いました。

――川井家の幸せな一日ですね(笑)。

 一気に運を使い果たしているのではないかと不安になります。しばらく何日間か気をつけようと思っています(笑)。

――最後に未来に向けて、子どもたちへのメッセージをいただけますでしょうか。

 私自身、小学生の頃にレスリングを始めました。今の子どもたちもテレビでレスリングを見て、「私もいつかは」と思って本格的にレスリングをするようになると思います。これは、スポーツに限りませんが、人が頑張っている姿は年齢を問わず伝わるものがあると思っています。私であれば吉田沙保里さんや伊調馨さんを見てきたように、今、私を見てくれている子どもたちがまた育っていくと考えると素晴らしいですね。スポーツの未来につながるきっかけの一人になれていれば本当にうれしいですし、スポーツの発展に貢献していきたいです。

■プロフィール
川井 梨紗子(かわい・りさこ)
1994年11月21日生まれ。石川県出身。両親の影響で8歳からレスリングを始める。2016年リオデジャネイロオリンピックに出場、女子フリースタイル63kg級で金メダルを獲得。17年から世界選手権を3連覇。21年、東京2020オリンピックでは階級を女子フリ―スタイル57kg級に戻し、金メダルを獲得。オリンピック連覇を果たす。(株)ジャパンビバレッジホールディングス所属。



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