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第24回オリンピック冬季競技大会(2022/北京)

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【北京2022冬季オリンピックメダリストインタビュー】宇野昌磨:再びたどり着いた夢舞台

カテゴリ:オリンピック
2022.06.16

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、北京2022冬季オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

宇野 昌磨(スケート/フィギュアスケート)
男子シングル 銅メダル
団体 銅メダル


【北京2022冬季オリンピックメダリストインタビュー】宇野昌磨:再びたどり着いた夢舞台
フィギュアスケート男子シングル・団体で銅メダルを獲得した宇野昌磨選手(写真:アフロスポーツ)

■周囲の支えとそれに対する感謝

――男子シングルそして団体と2個のメダル獲得おめでとうございます。4年前の平昌オリンピックの銀メダルと合わせてオリンピック3個のメダルということになりましたが、フィギュアスケート界では宇野選手が初めてだそうです。率直な感想からお聞かせいただけますか。

 ありがとうございます。今回の男子シングルの銅メダルに関して言えば、演技としては決して素晴らしいものではありませんでした。前回の平昌オリンピックから本当にいろいろなことがあって、どちらかというと失敗の方が多かったこの4年間だったと思いますが、その中で、今年に入ってからしっかり浮上することができました。それは、僕自身の力ではなく、周りの方々の支えが僕を奮い立たせてくれた結果です。だからこそ、皆さんに心から感謝しています。

――周囲の皆さんといえば、ステファン・ランビエールコーチをはじめ、出水慎一トレーナー、スケート靴を研磨する職人の橋口清彦さんなど、宇野選手を支える方々の話も数多く取り上げられていますね。

 ステファンコーチの元に行ったのは、僕が一番調子を落としていた時。シーズン中でありながら、なおかつ結果がすごく落ちている時だったのですが、快く受け入れてくださいました。それから1年間ほどは、スケートの競技結果を出すことよりも「残りのスケート人生を楽しもう」といった競技生活の終わりに向かっていくような気持ちでした。でも、数試合こなしてくうちに、「もっと成績を出したい」「実力をつけてもっとうまくなりたい」と思えるように変わっていきました。さらには、後輩の鍵山優真選手の影響も本当に大きくて、「置いていかれたくない」「いつまでも尊敬される存在でいたい」という思いがあって、再びこの場所に戻ってくることができました。

――フィギュアスケート専門家として、宇野昌磨選手が自分自身を評価する時に、今回のメダル獲得を実現できたのは、何が一番の要因だと考えますか。

 シーズン開幕時点で、目指す場所がかなり先にあったというのが大きかったですよね。昨日のフリーではたくさんミスをしてしまったのですが、元々の構成がすごく高難易度だからこそ、その分の点数がついてきたのだと思います。シーズン当初、この高レベルの構成にチャレンジしようと思って目指してきたことが、このメダルにつながりました。


■試合ができるありがたみ

――4年前との比較をされていましたが、北京2022冬季オリンピックは、2度目のオリンピックということになりました。そして、その間にはJOCシンボルアスリートにも選出されました。ご自身がシンボルアスリートとして発信していきたい思いとはどのようなものなのでしょうか。

 羽生結弦選手のように、皆さんからの期待を背負って、そのプレッシャーに打ち勝つような選手に僕はなれないと思っています。自分がそこまで強い選手だとは思わないですし、人よりもプレッシャーを感じづらい立ち位置だからこそ今の自分でいられていると思っているんですよね。アスリートには、一人一人いろいろな考え方があって、一人一人個性があります。もちろん選手としてやるべきことはやりますが、一方で、誰もが優等生的にしっかりと振る舞わないといけないわけではなく、こういう表現方法もあるんだよということが参考になる方がいるならば、僕の言葉、僕の行動を見て何かを感じてもらえるとうれしく思います。

――すてきな考え方だと思います。宇野選手の言葉に勇気づけられる人もたくさんいると思います。4年前に平昌でお話を伺った時と比べてもすごく大人っぽく成長されていると感じます。

 いまだに野菜は全く食べないです。なんなら、4年前、さらにもっと前の方が食べていたと思うのですが……(笑)。
僕がこうして発言する言葉や行動も、ある程度の知名度を得たからこそ、カメラが回っているかどうか関係なく、常に見られていると思っています。それは幼い頃からのことで慣れている感覚でもありますし、悲観的に考えるつもりもありません。全て見られていることを自分自身どこかで意識しているので、自分のどこを見られても恥ずかしいと思わないように生きていたいなと思っています。インタビューの場だけ取り繕って良いことを言うのではなく、日常生活においても、友達に対しても、あるいは自分自身に対してもうそをつかず、自分の思っていることを発言し自分のやりたいことを素直に実行していくことを心掛けています。

――その考え方は競技と向き合う上でも重要なのかもしれませんね。

 はい、そうですね。他競技をあまり見る機会がないので分からないですが、フィギュアスケートに関して言えば、人それぞれの性格が間違いなく演技に影響すると思っています。表現に人間性が表れますものね。

――世界的には2019年末頃から、日本ですと2020年初頭からでしたが、新型コロナウイルス感染症が拡大しました。東京2020大会も1年延期される形で開催されました。そして、そこから半年で北京2022冬季大会の開催と、非常に変則的な流れとなりました。宇野選手ご自身にもいろいろな影響があったのではないかと想像するのですが、どのように競技と向き合ってきたのでしょうか。

 最初に気づいたのは、試合のありがたみです。新型コロナウイルス感染症拡大の影響下で練習をさせてもらえる、それも特別なことでありがたいことです。ただ、試合がない中での練習には難しさがあったり、試合でしか得られない課題があったり……、そう考えるとやはり試合は大切だなと。僕たちは当たり前に試合に出ていますが、その試合ができる当たり前は、さまざまな方々のサポートで成り立っていることをあらためて実感したのです。
 また、そうした状況での練習も含めて、スポーツはそもそも必要不可欠かといわれれば、そうも言えないと思うのですが、それでもやらせてくださる皆さんがいる。「スポーツを見て力をもらった」と言ってくださるも方もいる。そう言ってくださる方がいるからスポーツができていると考えるようになってからは、「練習がきつい」「今日は面倒くさい」などと思う日がなくなりました。

――なるほど。ちなみに、東京2020大会は何かご覧になりましたか。

 ええ、わりと見ました。僕、いつも他の競技を見ないのですが、東京2020大会は見ていました。ドラマや映画もたくさん見ますが、一方のスポーツはシナリオがなく、一瞬のために何年も、何十年も積み重ねてきたものをぶつけるものです。それは本当に素晴らしいことだと思いますし、全ての競技をきれいだなと思いながら見ていました。


【北京2022冬季オリンピックメダリストインタビュー】宇野昌磨:再びたどり着いた夢舞台
フィギュアスケート男子シングル・団体で銅メダルを獲得した宇野昌磨選手(写真:アフロスポーツ)

■努力するプロセスを重視する

――スポーツは必要不可欠じゃないという話もありました。一方で、フィギュアスケートはライバル選手同士がリスペクトし合っている様子がよく伝わってくる競技だと感じます。オリンピックの理念「オリンピズム」の中にも国際平和が掲げられているように、オリンピックの魅力はそういうところにもあると思うのですが、宇野選手はライバル選手の存在をどのように考えていますか。

 フィギュアスケートは、ライバル選手と戦うわけではなく、競技の特性上、自分と闘っている人が多いスポーツです。皆が皆、良い演技をしてほしいと願っている選手が多いと思うんです。それが選手同士の仲の良さにつながっているのでしょうが、この習慣は僕たちが生み出したものではなく、僕たちよりも先輩、そしてまたその先輩方がつないできてくださったもの。こうした文化は、僕らも後輩たちにしっかりつなげていきたいですね。

――前回王者の羽生選手は4位となり、今回の順位は宇野選手が上位になりました。先ほど、羽生選手の真似はできないともおっしゃっていましたが、宇野選手にとって羽生選手はどんな存在ですか。

 日本スケート界を何年も長い間背負い続けて、一番プレッシャーがかかる位置でずっと戦い続けてきた人です。僕には全くできないことなので、本当にすごいと思いますし、感謝しかありません。そして、これだけ素晴らしい成績を残している方が、まだ新たな挑戦をし続けているのもすごいこと。フィギュアスケートの技術向上がここ数年著しく発展しているのも、こういう挑戦し続ける先輩たちがいるからだと思います。

――一方、後輩の鍵山選手も銀メダルに輝きました。宇野選手の目からはどのように映っていますか。

 年は離れているのですが、おそらく僕がスケート人生を終えるまで、ずっとともに戦っていく存在だと思っています。お互いがお互いを高め合いつつ、そしてすごく仲も良い関係です。こういう選手は、僕の周りにいなかったような気がします。これまでは、年上の方々、僕の中で「すごい」と感じる選手たちとずっと一緒にいたんですよね。実際、年は離れているんですけど同年代という感覚で、一緒に競い合い、ともに磨き合っていける存在の選手が初めて現れたことをすごくうれしく感じています。

――スケートや、スポーツそのものを楽しんでいく子どもたちに向けてメッセージをいただけますか。

 スポーツをやるのか、勉強をやるのか、何を頑張るのかは本当に人それぞれだと思います。スポーツでも勉強でもその他の何かだとしても、その一つのことを成し遂げようと思って努力することが大切です。結果に結びつかなかったとしても、努力する姿勢そのものが大事です。そのプロセスが、将来絶対に役立つと思います。スポーツもその一つ。どんなスポーツだったとしても、自分が感じる素直な気持ちを一瞬一瞬全力でぶつけて人生を送ってほしいです。

――すてきな言葉の数々をありがとうございました。私の方が勇気づけられました。あらためて、メダル獲得おめでとうございます。

 こちらこそ、ありがとうございました。

■プロフィール
宇野 昌磨(うの・しょうま)
1997年12月17日生まれ。愛知県出身。
5歳でスケートを始める。2009年から全日本ノービス選手権2連覇し、12年世界ジュニア選手権で初選出され、注目される。15-16年シーズンよりシニアに移行し、グランプリファイナル3位、全日本選手権2位、世界選手権7位入賞。17年、18年の世界選手権では男子シングルでともに銀メダル獲得した。初出場となった18年平昌オリンピックでは男子シングルで銀メダルを手にした。19年全日本選手権は、4度目4年連続優勝。北京2022冬季オリンピックでは男子シングル、団体で銅メダルを獲得。トヨタ自動車(株)所属。

(取材日:2022年2月11日)



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