選手強化

スポーツ科学基金(アクエリアス基金)

2008年度 助成スポーツ科学基金 研究報告概要

オリンピック大会時のストレス指標に関する研究

研究者:早稲田大学 スポーツ科学学術院 助手 清水和弘
共同研究者:渡部厚一(早稲田大学 スポーツ科学学術院)、赤間高雄(筑波大学大学院 人間総合科学研究科 スポーツ医学専攻)

オリンピックなどの国際競技大会や海外遠征では、アスリートは、プレッシャー、気候、食事、時差などの多様なストレッサーに曝される。よい競技成績をあげるには、これらのストレス下においてもコンディションを維持することが必要である。体重階級性種目における減量は、試合直前の計量まで行われることから、遠征先においても実施される。またオリンピック競技会を含めた多くの重点的国際競技会前に、様々な競技で高地トレーニングが海外において行われている。減量は、食事制限や水分摂取制限、激しいトレーニングがストレスを負荷し、コンディションに影響する。また、高地トレーニングでは、高地自体の低気温などの様々なストレスによるコンディション低下や、高地不適応としての高山病や高地肺水腫を招くことがあげられる。従って、減量や高地トレーニングにおけるストレス応答の評価は、重点競技会でのコンディション管理と密接に関わる可能性がある。本研究では、唾液分泌型免疫グロブリンA(secretory immunoglobulin A:SIgA)およびナトリウム利尿ペプチドを用いて、競技大会に向けた減量時および高地トレーニング時のストレス評価を行うことを目的とした。

唾液SIgAは、病原体の口腔粘膜下への侵入を防ぐ役割があり、上気道感染症に関わる指標とされている。また一方で、過度な運動ストレスや心理ストレスによって低下することからストレス指標としても用いられている。本研究では、男子柔道選手を対象として、通常期、競技大会に向けた減量期および試合後の唾液SIgAレベルの変動および上気道感染症状の発症件数を調べた。減量は2週間行った。減量によって体重は明らかに減少した(−3.6%)。また、通常期と比べて減量期の唾液SIgAレベルは、減量期において減少傾向を示し、上気道感染症状の増加が認められた。

ナトリウム利尿ペプチドは主に心房や心室で合成され血中に分泌されるホルモンで、生体の体液バランス、血圧調整に関与する。高地トレーニングでは、登山後早期に上昇してその利尿作用により血液濃縮が生じることが報告されており、心負荷や脱水のストレス指標として有用となる可能性がある。本研究では、ナトリウム利尿ペプチドのひとつであるhANP(human atrial natriuretic peptide)について、登山直後の高地適応期にあたる短期的応答、トレーニング全体としての長期的応答に分けて検討した。1900mの高地で水泳トレーニングを行ったものをトレーニング群、登山のみでトレーニングを行わなかった群を対照群とし、トレーニング経験も含めて分析した。短期的応答について、hANP応答の認められなかった対照群に対して、トレーニング群では登山後のトレーニングとともに高地トレーニング経験に関係なく血漿hANP値が上昇した。長期的応答では、対照群が登山初期にhANPの上昇を認めたのに対して、トレーニング群では一貫してhANP値の変動は乏しかった。

以上より、唾液SIgAおよびhANPを含めたナトリウム利尿ペプチドは、減量や高地トレーニング時のストレス評価に有用である可能性が考えられた。


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