選手強化

スポーツ科学基金(アクエリアス基金)

2008年度 助成スポーツ科学基金 研究報告概要

ウエイトリフティング競技における上肢・体幹障害のマネージメントとコンディショニング

研究者:東京大学大学院 脊椎・整形外科 研究生 中嶋耕平
共同研究者:渡會公治(東京大学大学院 総合文化研究科 准教授)、平井敦夫(金沢学院大学 経営情報学部スポーツビジネス学科 教授)、長谷場久美(日本ウエイトリフティング協会 理事)、奥脇透(国立スポーツ科学センター 副主任研究員)

【背景】ウエイトリフティング選手の間では、“ケンビキ”と呼ばれる症候が広く浸透しており、頚背部や前胸部に放散する鋭い痛みを訴える。一方、このような症候を訴える選手の単純X線では、第一肋骨に疲労骨折を認める例が散見され、“ケンビキ”との関連性が示唆されている。

一般に第一肋骨骨折の重症化は少ないと考えられているが、いったん骨折が発生すれば、最短でも約1ヶ月、長期例では年単位で症状や所見が持続し、競技やトレーニングに支障を来すため、本疾患の予防や治療に結びつく因子が確立出来れば、更に持続的な競技力向上が期待できると考えられる。本研究では、各競技レベルのウエイトリフターを対象として、第1肋骨骨折の発生頻度を明らかにし、その危険因子について検討を行った。

【対象と方法】高校生ウエイトリフター(39名)および大学生ウエイトリフター(22名)の計61名とした。評価項目は1)X線による胸部単純撮影もしくは両側第1肋骨の2方向撮影による骨折有無の評価、2)更に高校ウエイトリフターについては、直接検診により身体所見、競技記録、頚部筋力、理学所見および、彼らの間で「ケンビキ」と呼ばれる肩甲背部痛の既往について調査を行った。3)高校生被験者のうち、17名について全身の骨密度(DEXA法)の計測を行い、4)高校生16名について約9ヶ月後にX線再検査を行い、予防トレーニングの効果を検討した。

【結果】1)高校生39名中11名(28.2%)、大学生22名中9名(40.9%)に第1肋骨骨折(新鮮骨折もしくは骨折の既往)所見を認めた。2)骨折の有無と身体所見との関係では、骨折群の方が非骨折群よりも有意に低身長であり、その他の項目では統計学的な有意差は見られなかったがいずれも低値となる傾向にあった。骨折の有無と各記録との関係では、記録を体重で補正した場合、骨折群の方が非骨折群よりも数値が高く、特にsnatchでは統計学的な有意差を認めた。肩甲背部痛の既往、および各理学所見と骨折の有無との関係では、骨折群の方が、各所見が陽性となる者が多く、特に新鮮骨折例では陽性所見が多く見られた。3)骨折の有無と全身骨密度との関係では、統計学的な有意差は見られなかった。4)頚部の筋(胸鎖乳突筋)のストレッチングおよび筋力強化指導を行い、9ヶ月後の再検査では新たな骨折発生例は見られなかった。

【結論】第1肋骨疲労骨折は各競技レベルを通じて30〜40%と高い発生頻度を呈し、胸鎖関節の背側方向への圧迫で疼痛を伴うケース、「ケンビキ」の訴えがある場合は、 本疾患(新鮮骨折)を疑う必要があると考えられる。また、軽量級の選手、記録の向上との相関が示唆され、本疾患の発生予防には頚部筋力強化と柔軟性維持の有用性が示唆された。


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