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2017.12.12 その他活動

スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催

スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
平岡英介JOC副会長兼専務理事(写真:アフロスポーツ)
スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
福田紀彦川崎市長(写真:アフロスポーツ)

 日本オリンピック委員会(JOC)は11月26日、川崎市産業振興会館ホールで「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を開催しました。

 JOCは平成13年度からスポーツ環境専門部会を設置し、スポーツと環境に係わる啓発・実践活動を推進してきました。その活動の1つとして、今回はJOCパートナー都市の川崎市で本セミナーを開催。同市のスポーツ関係者を対象としてスポーツ界における地球環境保全の必要性について改めて考え、どのように実践に移していくかを学ぶことを目的としています。当日は川崎市やJOCパートナー都市関係者など229名が参加し、熱心に発表者の話に耳を傾けていました。

 主催者を代表してあいさつに立った平岡英介JOC副会長兼専務理事は、国際オリンピック委員会(IOC)とJOCなどの国内オリンピック委員会が、オリンピック・ムーブメントの1つとして日頃から環境問題に取り組んでいることを説明。「川崎市の皆様方と我々がなぜ環境問題に取り組んでいかなければならないのか、どのように取り組めば良いのかを、一緒に考える機会をいただきました。大変ありがとうございます」と感謝の意を示し、「今日は我々がスポーツ界において果たすべき役割を明確にして、豊かな社会の実現、世界の平和も含めて環境問題にしっかり取り組むための方法を模索していきたいと考えております」と述べました。

 続いて登壇した福田紀彦川崎市長は、「多摩川がとてもきれいになった」と言われる機会が増えたというエピソードと共に、川崎市民約1.5万人が参加し38年間続いている多摩川の美化活動を紹介。「私はその美化活動に子供の頃から携わってきたお陰で、環境マインドが自然と身につきました。全てのスポーツに携わる、スポーツを愛する人たちが環境マインドを持って過ごしていると、世の中が確実に良い方向に変わっていくんだということを、私たち川崎市民は証明してきたと思います。JOCさんが今回、この川崎でシンポジウムをやろうと選んでいただいたことを私は大変誇りに思いますし、JOCのパートナー都市としてふさわしい都市であり続けたいと思っています」とあいさつしました。

スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
(左から)荻原健司さん、慶應義塾大学体育会野球部監督の大久保秀昭さん、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の田中丈夫さん、横浜市市民局の西山雄二さん(写真:アフロスポーツ)
スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
前半のコーディネーターを務めた宮下純一さん(写真:アフロスポーツ)

■東京2020大会と横浜市の取り組みに学ぶ

 前半のプログラムでは「スポーツと環境の関わり」をテーマに基調対談が行われ、オリンピアンで慶應義塾大学体育会野球部の大久保秀昭監督と、いずれもJOCスポーツ環境専門部会員であるオリンピアンの荻原健司さん、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会大会準備運営第一局の田中丈夫持続可能性部長、横浜市市民局の西山雄二局長がパネリストとして参加。同じくJOCスポーツ環境専門部会員でオリンピアンの宮下純一さんがコーディネーターを務め、それぞれの立場から環境に対する取り組みを共有しました。

 まずは東京2020大会における取り組みを田中持続可能性部長が紹介。大会の基本コンセプトに従った取り組みの1つとして「持続可能性」を掲げている背景と、大会組織委員会で策定した「持続可能性に配慮した運営計画」で定めている方針、目標、施策などを説明しました。

「東京の夏は暑いですが、運営側としてどのような配慮を計画していますか?」という荻原さんからの質問に、田中部長は「遮熱性のアスファルト、水蒸気(ミスト)の噴射、植樹など色々検討をしています」と回答。競技をするアスリートだけでなく、長時間観戦する観客のコンディションも考慮して、日陰をつくったり水を提供するなどの対策を考えていると明かしました。

 次に、横浜市のトライアスロン競技大会における「カーボン・オフセット」について西山局長が説明しました。同市ではエリート競技者も参加する「世界トライアスロンシリーズ横浜大会」と、小学生から気軽に参加できる「横浜シーサイドトライアスロン大会」の2大会で、海底でCO2を吸収する「ブルーカーボン」に注目したカーボン・オフセットを実施。大会参加者から「環境協力金」を参加費に含む形で徴収し、横浜市漁業協同組合協力のもと地元産わかめの地産地消を促すことでCO2排出量をオフセットする、という内容を紹介しました。

 カーボン・オフセットの実績が毎回公表されていることも付け加えた西山局長は、「プレーヤーはどうしてもプレーすることに集中してしまうので、『実は裏でこんな努力をしているんだ』といったようにスポーツが出来る状況をしっかり認識するということが本当に大事だなと感じます」と、取り組みに対する思いを語りました。

スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
スポーツ推進委員をはじめ市内のスポーツ関係者などが多数集まった(写真:アフロスポーツ)

■大勢で楽しく実践できる活動を

 JOCからは環境省の地球温暖化対策キャンペーン「COOL CHOICE」とのコラボレーションを紹介。リオデジャネイロオリンピックメダリストの吉田沙保里選手(レスリング)、三宅宏実選手(ウエイトリフティング)、海老沼匡選手(柔道)の3人が出演する映像を制作し、スポーツイベントなどで流していることを宮下さんが説明しました。
 また荻原さんは元スキー競技者の視点で冬季競技の危機について言及。温暖化の影響で世界は深刻な雪不足が発生しており、「このまま温暖化が進むと、2080年に冬のオリンピックを開催できる都市が世界で6つしか存在しなくなる」という調査結果も紹介しました。

「有限な資材の再活用」というテーマでは、大久保監督が木製バットの再利用に関する事例として、折れたバットが箸や靴べらとして再加工される仕組みを説明。東京2020大会の選手村の「ビレッジプラザ(選手のリラックススペース)」が各地の木材を借りて建てられることや、不要になった携帯電話などの金属からメダルを作る「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」の推進、今年9月に行われた「横浜シーサイドトライアスロン大会」で山梨県道志村の間伐材を利用した木製メダルを贈呈したことなどが田中持続可能性部長、西山局長からそれぞれ紹介されました。

 最後に荻原さんが対談を総括し、「環境保全活動というのは突き詰めれば1人1人の取り組みになりますが、どうせやるならみんなで集まって、にぎやかに出来る活動が良いですよね。我々の競技で言えば、もっと雪を愛する、スキーを愛する人が集まって一斉にできるイベントをやれればいいなと思います」とコメント。「我慢するとか苦しいものではなく、みんなで楽しくやっていきましょう」と呼びかけました。

スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
宮川潔 川崎市環境局地球環境推進室担当課長(写真:アフロスポーツ)

■川崎市の地球温暖化対策とは

 後半はJOCスポーツ環境専門部会長の野端啓夫理事がコーディネーターを務め、「スポーツを通した環境保全の啓発・実践活動」をテーマに2名がプレゼンテーションを行いました。

 まずは川崎市環境局地球環境推進室の宮川潔担当課長が「川崎市の環境に係る取り組みについて 〜地球温暖化対策の取り組み〜」を発表。今年10月に人口150万人を突破した川崎市ですが、かつては大気汚染や多摩川の汚れが非常に目立っていました。事業者、市民、行政が一体となった対策を行い、環境の大幅な改善に成功したと語った宮川課長は、同市の特徴としてCO2排出量のうち産業部門の構成比が高いという点を示しました。その対策として、特に臨海部に拠点をおく各企業がそれぞれ環境技術を高める努力を行った結果、省エネ対策や廃棄物処理・リサイクルなどに関するノウハウが蓄積。それが東南アジアを中心とした世界の環境問題解決にも貢献していると説明しました。

 また、宮川課長は企業との取り組みとして行っている「川崎水素戦略リーディングプロジェクト」や、2箇所の発電所における再生可能エネルギー導入のほか、地域住民や事業者と一体となった温暖化対策の事例として体験型教育プログラムの実施、福田市長の冒頭あいさつでも言及があった多摩川の美化活動、里山の保全活動などを紹介。ごみの排出や食品ロスを削減するための仕組みづくりや啓蒙活動なども合わせ、多岐にわたる取り組みが共有されました。

スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
株式会社川崎フロンターレサッカー事業部集客プロモーショングループの井上剛さん(写真:アフロスポーツ)
スポーツ界における環境保全の必要性を考える 「第13回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を川崎市で開催
JOCスポーツ環境専門部会長の野端啓夫理事(写真:アフロスポーツ)

■地域に根ざしたプロスポーツチームの活動事例

 続いては川崎市に拠点を置くプロスポーツチームを代表し、株式会社川崎フロンターレサッカー事業部集客プロモーショングループの井上剛さんが登壇。「Jリーグクラブとしての地域環境保全へ向けた普及啓発の取り組みについて」と題した発表を行いました。

 井上さんは、CO2削減のために同市が推進する「カーボン・チャレンジ川崎エコ戦略(CCかわさき)」に基づいて構築した「カーボン・チャレンジ等々力(CC等々力)」がチームのエコ活動の軸になっていると説明。ホームゲームを開催する等々力競技場で実施しているリユース食器の導入、エコキャップの回収、サポーター団体と協力した清掃活動、太陽熱温水器の設置などのほか、クラブ事務所の壁面緑化、川崎市環境局と連携した啓発キャンペーン、選手会主催の多摩川清掃活動、自治体や企業が各々で行っているエコ推進事業が一同に会した川崎市最大の参加型エコイベント「エコ暮らしこフェア」の開催など、様々な事例を紹介しました。

 これらの活動はクラブと市民とをつなぐ大切な事業であり、スポーツを通じて地域貢献が出来ると同時にクラブとしてポジティブなイメージを発信できる場としてもメリットがあると語った井上さん。プロスポーツとして勝ち負けという要素がチームの経営を大きく左右する側面があるのが難しいとしながらも、「勝ち負けだけではないところでクラブを好きになってもらうために、イベントにより地域性を出して、誰にでも『すごい』『楽しい』と思ってもらえるような活動を続けていくことがプロスポーツチームの1つの使命だと思っています」と力を込めました。

 最後に野端理事があいさつを行い、「環境保全の取り組みというのは、ゴールの見えない活動でもあります。しかし、着実に温暖化の影響が深刻になっている今、スポーツを楽しめる環境を50年後、100年後の子供達に何があっても残さなければいけません」と、将来を見据えた環境保全活動の重要性を訴えました。そして、今回の参加者に向けたお願いとして「セミナーで皆さんが感じられたこと、このまま温暖化が進むことへの危機感や、まず自分に出来ることをするという重要性を、仲間の指導者や選手、子供達にぜひ伝えて頂きたいと思います」と呼びかけて、セミナーを締めくくりました。

「COOL CHOICE」メッセージ動画

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