OLYMPIAN2025
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北京2022冬季オリンピックの―――― とを自分に気づかせてくれた大会でし際にお話を伺った時に、「メダルをとるかとらないかという結果も大事かもしれませんが、メダルをとることだけがオリンピックの価値ではありません。スポーツを見て面白いと感じたり、心が動いたりする瞬間があること自体に価値がある。本当の意味でオリンピックと向き合えて、改めていろいろなこた」とおっしゃっていました。年を重ね、オリンピックへの出場を重ねながら、ご自身の感覚に変化が生まれてきたのでしょうか。渡部 メダルを獲得することがすべてと思っていましたが、プラスアルファの何かが必要と思えるようになりました。そういう選手の方が注目も浴びるだろうし、印象に残りやすいでしょうしね。自分としては、おそらく最後になると思われる次のオリンピックに向かうにあたっては、メダルを目指しつつもそれだけではなく、自らの競技人生のすべてを集約するような形にしたいという気持ちです。メダルをとるとか、とらないとか、そういう結果だけではなく、自分がリートにしても、誠実に向き合いながら、お引き受けできる余裕を持てるようになってきたのだと感じます。その最たるものが旗手だったかなと思いますね。以前であれば、開会式ですら「行く時間がもったいない」と考えてしまっていました。心の中に余裕ができてオリンピックを本当に楽しめるようになってきたから、開会式で旗手を務められるようになった。僕にとってはすごく大きな変化ですし、JOCからいろいろな仕事をいただく中で生まれてきた変化だとも思います。渡部 実は、思いというものはそんなにないんです(笑)。すべてが整理された上で臨む1年という感じなんですが、ただこの2、3年、自分の競技人生を振り返る時間がかなり多いんですよね。そういう中で、こういうイタリアでのオリンピックと考えると、ストーリー性としてもいい流れが来ているという感覚はあります。競技人生の終盤に、思い入れのある土地でのオリンピックが巡ってくるというのは、なかなかあるものではないと思います。そのストーリーを信じたいという気持ちもありますし、自分自身で実現させたいという思いが、大きなモチベーションになっています。先程のプラスマイナスゼロ理論を考えてみても、そうしたストーリー性も含めて、自分のところに流れが来ているんじゃないかなと思えて、すごくワクワクしてきますよね。アスリートのあり方を問う以前、「努力は裏切る。でも、努力することには間違いなく意味はある」とおっしゃっていたことが印象に残っています。TEAMJAPANとして、団体戦でともに力を合わせる仲間たちも、個人戦ではライバルになります。そうした仲間たち、あるいは他国どのような競技人生を歩んできて、何を見て、何を感じて、何を考えてきたのかというところも含めてパフォーマンスとして表現したいと思っています。すごく抽象的な話にはなってしまいますが。プラスマイナスゼロ理論渡部選手は「プラスマイナスゼロ理論」を掲げて、人生のプラスとマイナスの総和はゼロとなるものだとおっしゃいます。仮にマイナスのことがあってもそれは必ずプラスにつながっていくという考え方ですから、ポジティブシンキングの一つの形だともいえそうですね。渡部 ゼロに戻るというところが終着点です。オリンピックでメダルをとるとなったらものすごくプラスなわけですから、その分、その後はマイナスなことが間違いなく起きると思っています。だからこそ、あらかじめマイナスを得ておいた方が、オリンピックに向かう上でプラスが起きやすいと思うわけです。イタリアの地は、ご自身がワールドカップ初優勝を飾った場所でもあります。ある意味集大成のオリンピックが、イタリアで行われるということで秘めた思いなどはありますか。そうですね、かつてはMiu SASAKI/PHOTO KISHIMOTO11

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