OLYMPIAN2018
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09誇れる成績をとれて良かったと本当に思っています。このために苦しい道を選んできたので、本当にうれしいです。——あらためて、今どんな思いですか。羽生 スケート以前に、人間性が一番大切だと思っています。スケーターとしてだけでなく、人間として育ててくださった方々がたくさんいらっしゃるので、そういった方々全員に感謝したいです。 本当にありがとうございました。 ※ソチオリンピックでは、ロシア南部のチェリャビンスク州にいん石が落ちてちょうど1年後にあたる2014年2月15日の競技で金メダルを獲得した10人に、通常のメダルとは別にいん石入りの記念メダルが贈られた(フィギュアスケート男子フリーはその前日に実施された)。と思います。——最後のルッツジャンプも着地を耐えました。羽生 あのルッツはもう、なんて言っていいか分からないですね(笑)。実際にミスとして判定されましたが、あとから見ても、「これは100%こける」というジャンプで、意地で何とかなるようなものではありませんでした。皆さんの応援や心配してくださる気持ちが力になった瞬間なのかなと思いますし、本当に不思議な感覚でした。——リハビリ期間中はどんな気持ちでしたか。羽生 試合を欠場するような経験があまりなかったので、もどかしい気持ちは強くありました。滑れてすらいないことにも焦りがありました。もっとも焦ったのは滑り始めてからです。オリンピックが目前に迫っているのに、自分が目指すコンディションには程遠く、何とかしなきゃという強い焦りを感じました。最終的には、移動日の前日でしょうか、何とか戦えるところまでコンディションを持ってくることができて「あの場に立てる」と思えた時点で泣きそうな気持ちでした(笑)。平昌に来てからは、スケートをする喜びや幸せを感じながら滑る余裕もありましたし、だからこそ試合にピークを合わせてうまく調整することができたと思います。人間・羽生結弦として——この4年間を振り返ってください。羽生 4年間かぁ……。思ったよりも波乱万丈でした。ソチオリンピックが終わった後は、もっとうまくいくかなと思ったんですけど、そんなこともなく(苦笑)。 ソチオリンピック後の最初の試合が、(オリンピック、グランプリファイナルと合わせて)3冠が懸かった世界選手権でした。「オリンピックのフリーのリベンジがしたい!」と思って挑んだものの、ショートをミスってしまって(笑)。フリーでなんとか巻き返して3冠を達成できました。その後も、練習中に他の選手と衝突するアクシデント、手術、ケガ、アイスショーに出られなかった時期など、本当にいろいろなことがありました。今ようやく、全ての苦しみを幸せに転換できる時が来たという思いです。——羽生選手にとってオリンピックは特別なものですか。羽生 夢に描いていた舞台、そこで滑るのは特別です。夢をかなえる瞬間というのもまた夢。特別な思いもありましたし緊張もありましたが、最終的にその夢がかなうまでの道のりを、何とか乗り越えられたのかなと今は思っています。 スケートは自分の人生そのものだと思っています。オリンピックシンボルがある舞台で滑るのは特別。そこで滑る幸せを感じたいと思っていました。オリンピックだからこそ、その舞台で滑っている自分自身を楽しもうと思っていました。——オリンピック金メダリストから、「連覇の金メダリスト」になりました。羽生 実は19歳の時にとった金メダルは、今振り返ると、それほど高い水準ではない中、ライバルのミスもあって勝ったという感覚が自分の中にあって満足し切れませんでした。でも今回は、もちろんミスもあったかもしれないけれども、みんなが良い状態で戦って、自分も力を出し切って勝利できた。胸を張って「オリンピック金メダリスト」と言えます。 ソチオリンピックから特に1年間は、ずっと悔しい気持ちがありましたね。翌シーズンの(衝突の)アクシデントなどでそういうのが全部なくなって、ようやく、「一人のスケーターとして頑張ろう」という気持ちになれました。 今回は、今までのスケート人生を、そして、スケート人生だけじゃなくて自分の人生を懸けてきて本当に良かったなと。これからの人生で胸を張れる、羽生 結弦(はにゅう・ゆづる)1994年12月7日生まれ。宮城県出身。4歳でスケートを始める。2008年全日本ジュニア選手権初優勝。09-10シーズンJGPファイナルでは史上最年少(14歳)で総合優勝、全日本ジュニア選手権2連覇、世界ジュニア選手権優勝。12年世界選手権銅メダル獲得。同年全日本選手権で初優勝、以後4連覇を達成。GPファイナルでも13年の初優勝を皮切りに以後4連覇を果たす。14年ソチオリンピック男子シングルで日本男子初となる金メダルを獲得。同年世界選手権初優勝、17年には3大会ぶりの優勝を果たす。18年平昌オリンピック男子シングルでは同種目66年ぶりとなるオリンピック連覇を達成。ANA所属。

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