OLYMPIAN2018
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08大きなケガを乗り越えて——2015年に世界最高得点を出した後、4回転ループ、4回転ルッツと、難易度の高いジャンプを構成に加え、挑戦してきました。オリンピック本番では、トウループとサルコウのみのジャンプ構成にしたことをどう考えていますか。羽生 「4回転2種類で世界最高得点を出した」という、自分も含めて誰も破ったことがない確固たる記録が残っている。しかも、15年当時よりも(フリーで4回転3本から4本に増やした)難しい構成で今大会挑むわけですから、自分がベストの演技をすれば絶対に勝てると考えました。——今のベストを尽くして勝とうという感覚でしょうか。羽生 勝とう、勝ち切ろう、というのが一番でした。ソチでは「全力の構成で、全部跳んでやる!」という感じでしたが、今回は直前のケガなどいろいろなことを経て、「いかにどうやって戦略的に勝つか」を学んだ試合でもありましたね。——満足のいく演技でしたね。羽生 満足のいくものに近いです。最後まで足首がもってくれるのかなという心配はありました。最後までもってくれて、本当に自分の力を出し切れたソチを超える金メダル——連覇を達成した率直な気持ちを教えてください。羽生 ドラマのようにいろいろなことが重なってとれた金メダルで……。その金メダルが(冬季オリンピック通算)1000個目という節目の金メダルとなり、僕の人生はずっとそんな感じなんですけど、すごい運を持っているなと(笑)。——1000個目の金メダルというのはいつ知ったのですか。羽生 メダルセレモニーの前に言われました。『どう思いますか?』と聞かれたのですが、その時は特に何の感情もなく、単に金メダルがうれしいなという感じでした。——どうやら、20〜30分くらいの差だったみたいですね。羽生 そうなんですね! ソチオリンピックの時はいん石が入っているメダルがあったらしくて(※)、1日違いだったんですよね。——今回はラッキーでしたね。羽生 ありがたいです、本当に。——金メダルという結果を、今、どう受け止めていますか。羽生 全部報われた感じです。幸せは、勝手にやって来ることもあるし、つかみにいかないといけないこともありますが、捨てることもできるんですよね。「お菓子を食べたい」という自分の欲望に負けた時などもちょっとした幸せを味わえるわけですが、そういうものをちょっとずつ我慢して。ソチオリンピックで優勝して感じたのは、「一瞬幸せだったけど、そんなに幸せじゃなかった」と。それは、勝ちたいという欲望で、いろいろな不純物が付きすぎていてきれいなものじゃなかったから喜べなかったんだと思いました。そういう意味では今回は全ての不純物を落として、きれいな結晶のようにしてきたので、だからこそ一番高いところに行けたと思っています。——2つの金メダルには、違った喜びがあったということですね。羽生 ソチオリンピックの時は自分の限界の演技構成で、限界のレベルで戦いギリギリで勝てました。今回は僕の限界よりやや抑えたものですが、今のコンディションの中ではあれが限界でした。ソチオリンピックでは限界に挑んで出し切れなかったわけですが、今回は「これ以上はないな」と思えるほど出し切れたので、やっぱりそこは大きな違いですね。ソチオリンピックの演技後は「悔しい」と最初に言いましたが、今大会のフリーを滑る時には「リベンジしたい」という思いがありました。ですから、「本当にうれしいです、幸せです」と言える金メダルです。

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