OLYMPIAN2018
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13自分自身への誇り——渡部選手はワールドカップでの戦いを重視している印象があります。オリンピックへの思いに変化はありますか。渡部 優劣ではなく、根底にあるのは「レースが楽しい」ということです。勝敗に対して一喜一憂することもありますし、「オリンピックで金メダルをとりたい」とか、「ワールドカップで総合優勝したい」という気持ちを常に持っていますが、世界のトップとギリギリの勝負をしている瞬間がすごく楽しくて、戦うこと自体が僕のモチベーションになっています。それがオリンピックや試合に臨む僕の価値観ですね。結果、地位、名声などをそれほど必要としていないので、いいレースをすることが大切だと思っています。——仲間の存在をどう感じていますか。渡部 他競技の日本代表選手がメダルをとる姿に、「次は自分の番だ」というような感情も湧きあがり、刺激を受けました。同じ競技の仲間は、「みんなで頑張ろう」という感じで気持ちを高め合えますし、いい雰囲気で競技に臨めたと思います。——2大会連続のオリンピックメダリストとして、今、あらためてどのように感じていますか。渡部 オリンピックでメダルをとったことで、いい意味でも悪い意味でも変わったと思います。発言や行動を含めて、社会的により重い責任が伴うようになったと感じることもありますが、その一方で、競技と向き合う上で、サポートや恩恵が大きくなったことは感じます。 でも、僕がメダリストかどうかということ以前に、自分という人間に誇りを持てるかどうかが大切だと思っています。メダリストという肩書がなくても堂々と生きていけるように心がけていきたいです。伝わったレースの魅力——ソチオリンピックで銀メダルを獲得して「金メダルをとる難しさが分かった」とコメントをされていましたが、4年後の今、その思いはいかがでしょうか。渡部 あらためて、難しいと思いました(笑)。4年が僕だけに与えられれば大きいと思いますが、他の選手も僕と同じように4年間を過ごしてきたわけです。僕が伸びた分、他の選手も伸びた部分がありますし、その差を縮めきれなかったのが今回の結果だと思っています。——前回と今回、2つの銀メダルの違いはどうとらえていますか。渡部 ソチオリンピックでは、本当に全力を出し切って、ベストパフォーマンスをしてあの結果だったので満足したというのはあるのですが、メダルをとれたという喜びが一番大きくて、とれたことで満足してしまった自分がいました。今回も悪くはなかったとは思いますし、ベストに近いレースはできたのですが、「すでに持っているものは2ついらない。金メダルをとりたい」と強く思って自分に期待して臨んだ分、とれなかった悔しさが残っているのが違いですかね。——レース後の反響はいかがでしたか。渡部 僕のメダルの色とは関係なく、いつもよりも多くの人から「レースが面白い」と思ってもらえたのではないかと思っています。メダルの色も確かにとても重要なことですが、それは僕がまた次に頑張って変えればいい話。それ以上に面白いレースができたことはスポーツ観戦にとって重要ですし、ノルディック複合という競技のいいアピールになったと思います。悔しい感情は自分の中で消化すればいい。競技が面白いと多くの人に伝われば、それはそれで大変いいことだと思います。悔しさと誇りを胸に渡部 暁斗2006年トリノオリンピックに初出場して以来、4大会連続でオリンピックの舞台に立ち続けている渡部暁斗選手。平昌オリンピックでは最後の最後まで優勝争いを演じ、ソチオリンピックに続き銀メダルに輝いた。さらなる高みを目指す彼が、2大会連続メダリストの思いを語った。Text/編集部 Photo/AFLO SPORT渡部 暁斗(わたべ・あきと)1988年5月26日生まれ。長野県出身。高校生で2006年トリノオリンピックに初出場。14年ソチオリンピック、18年平昌オリンピックでは、ともに銀メダルを獲得。ワールドカップでは17-18シーズン、自身初となる個人総合優勝を達成。北野建設スキークラブ所属。スキー・ノルディック複合ノーマルヒル個人 銀メダルAKITO WATABE

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