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2021.10.12 オリンピック

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】川井友香子:「特別な舞台で試合をできているんだ」と感じられてうれしかった

 JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。

川井友香子(レスリング)
女子フリースタイル63kg級 金メダル

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】川井友香子:「特別な舞台で試合をできているんだ」と感じられてうれしかった
姉の梨紗子選手とともに金メダルを獲得した川井友香子選手(写真:アフロスポーツ)

■一生に一度あるかないかの舞台

――オリンピック金メダリストとなって取材も殺到していると思います。率直な感想を聞かせてください。

 決勝で勝った直後は、「これは夢かな」と信じられない気持ちが大きかったのですが、時間がたつにつれて本当に勝ったんだということを少しずつ実感しています。

――準決勝が終わり、一夜明けて決勝を迎えますよね。準決勝が終わってその日に試合をした方が勢いで戦いやすいのではないかなと思うのですが、一方で一晩じっくり考えて頭と心と体の準備ができる良い面もあるのかもしれません。友香子選手はどう感じていましたか。

 私のなかでは1日おいた方がまた気持ちも作り直せると感じています。1日で3試合して疲れも結構溜まっていますし、私は一晩おいたほうが戦いやすいと思います。

――そういうなかで、その決勝前夜はどんなことをイメージしていたのでしょうか。

 寝る前や時間がある時は自分がオリンピックで勝った姿を想像して、どうやって喜ぼうかなとか良い方に考えるようにしていました。 どういうポーズをとるかについても、本当はクールな感じで決めようと考えていました。ただ、実際には、それどころではなく、感情のままにうれしさが爆発して全く違う感じになりました(笑)。

――見ていた私たちは、喜びが爆発しているのを拝見して、画面越しに一緒に喜んでいました。多くの皆さんから祝福をいただいたのではないでしょうか。

 決勝が終わってしばらくばたばたしていたのですが、落ち着いて携帯を見たら本当にすごい数の連絡が入っていて、これがオリンピックの注目度なのだなと思いました。応援してくださる方がこんなにいるのだと思って、それがうれしかったです。

――世界選手権をはじめ国際大会も経験されていますが、オリンピックの特別感はあったでしょうか。

 レスリングは、毎年世界選手権が開催されますが、そこまで注目されることはありません。やはりここまで注目されるのはオリンピックだからこそと思いましたし、試合をしている時はいつもの大会と変わらないという気持ちだったのですが、会場の至るところにオリンピックシンボルが表現されていて本当に特別さを実感しました。

――選手によっては、それをプレッシャーに感じるかもしれません。高揚感につなげていけるのは素晴らしいですね。

 これまでの自分だったらプレッシャーに感じていたと思うのですが、今回のオリンピックに向けては、もうこれ以上はないというくらいの準備を全てやってきた自信がありました。だからこそ、オリンピックシンボルを見た時に、「特別な舞台で試合をできているんだ」と感じられてうれしかったです。「一生に一度あるかないかの舞台で戦えているんだからあとはやるだけだ」という幸せな気持ちで試合ができました。

■大舞台で動揺しなくなった成長

――レスリングのような対戦型の競技は、自分の調子がいくら良くても相手がそれを上回れば勝てないということになると思います。国際試合ができないこの期間、不安な気持ちはありませんでしたか。

 本当はオリンピック前に試合を経験しておきたかったんですが、それもなくなってしまいました。ただ、自分がすべき練習は毎日してきたので不安はなかったです。

――その不安を取り払うために、コーチとのコミュニケーションなどはプラスになりましたか。

 はい。赤石光生コーチがどんな時も見捨てずに指導してくださいました。本当に私以上に一生懸命なのではないかというくらい本当に熱心に指導してくださって、その姿を見て頑張らなくてはと大きな支えになっていました。試合が終わって、「本当によくやった」と言ってもらいました。代表内定してからずっと見てもらっていたので、私もその言葉が本当にうれしかったです。
 コーチもかつてオリンピックに出場して銀メダルと銅メダルを獲得しているのですが、唯一金メダルをとっていなかったので、コーチの分まで私が金メダルをとりたいと思って試合をしていました。

――孝行娘ですね。コーチも自分のことのように喜んでくれた気持ちが分かります。今大会を振り返ってみて、自らが良かったと思える点、課題に感じている点があれば教えてください。

 客観的に振り返って良かったと思うのは、相手に先にポイントをとられても焦ることなく冷静に点数を取り返せるようになったところです。逆に、最後勝っている場面で守りに入ってギリギリの試合になってしまったことは今後の課題として反省すべき点ですね。

――試合中のタックルについて記憶がないとおっしゃっていました。一方で、冷静に自分を見ている自分がいたともおっしゃっていました。実際にはどのようなバランスだったのでしょうか。

 普段の練習から集中できていい動きができている時は無意識なので、それが試合でも出せたことはよかったです。最後に相手が逆転を狙ってくるところも想定した上で練習していましたので、 ギリギリ勝っている状況で最後の守り方、しのぎ方も冷静に対処できたと思います。

――今までの自分とはまた違う自分ということでしょうか。

 延期になった1年間、レスリングの技術だけでなく、フィジカル面やメンタル面も見つめ直してきたので大舞台に立って動揺しなくなったと思います。

――今大会は姉の梨紗子選手との姉妹で注目を集めていますが、柔道の阿部一二三・詩きょうだいも注目を集めました。どう見ていらっしゃいましたか。

 今までずっと二人で頂点を目指してきたので、注目していただけるのは本当にうれしいことです。柔道勢は金メダルラッシュですごかったですし、阿部きょうだいの活躍も本当に刺激になっていました。お二人が金メダル取ったのを見ていて、姉と二人で刺激を受けていました。

――日本レスリング勢としては友香子選手が今大会初の金メダルということになりました。

 レスリング勢の流れが最初良くなくて、コーチからも流れを変えてくれと言われていました。そのことも含めて、「初」ということはうれしく思います。

――オンとオフの切り替えや、リラックス方法があれば教えてください。

 休みの日に買い物に出かけたり、美味しいものを食べに行ったり、実家に電話をかけて犬を見せてもらったりといったことがリラックス方法ですね。

――美味しいものというと、どのようなものを。

 モンブランが好きです(笑)。その他にも、インスタグラムなどで出てくるおしゃれな食べ物を見つけては、梨紗子とここに食べに行こうといった話をしています。食の趣味がすごく合うというわけでもないんですけどね。

――最近食べてお気に入りのものはありますか。

 最近は、ずっとNTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)に入っていたので、外にも出ていないのですが、落ち着いたら久しぶりに外に出て焼き肉などに行きたいです。

【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】川井友香子:「特別な舞台で試合をできているんだ」と感じられてうれしかった
レスリングの良さを伝えていきたいと話す川井友香子選手(写真:アフロスポーツ)

■レスリングの伝統を受け継いで

――東京2020オリンピックでは、思い通りにならない苦労もあったのではないでしょうか。

 いつもの大会であればいるはずのアップ相手がいないのはびっくりしました。そういうアップ相手のパートナーが洗濯など身の回りのことをしてくれたりするのですが、今大会全て自分自身でやらなくてはいけませんでした。それでも、オリンピックを開催していただけるだけで本当にありがたかったですから、文句をつける気持ちもないし、全てを受け入れるしかないと思っていました。

――開催に関する賛否両論がありました。アスリートはひたすら準備をするしかないとは思うのですが、心のなかで葛藤はありませんでしたか。

 さまざまな立場の人がいるので、そうやって思うことは当たり前のことだと思います。私は選手ですからオリンピックを開催してほしいと思っていましたけど、私がもしスポーツと関係のない立場だったらどう思っていたかわからないですよね。

――ただ、こうして皆さんの活躍を見て喜んでくださる方々もたくさんいます。また、そうではない人たちに対しても、今後はオリンピック金メダリストしてスポーツの良さを伝えていく役割が期待されると思います。スポーツの良さを友香子選手はどのように伝えていきたいですか。

 私はレスリングをやっていますが、他競技から刺激を受けることもあります。スポーツとは関係のない方から見ても、私たちの活躍で少しでも元気づけられたりとか、勇気を与えられたりしたらうれしいです。

――競技を一生続けられるわけではないと考えると、言葉の力でレスリングの良さを伝えていくチャレンジも、今後は必要になりそうですね。

 話すことは得意ではないのですが、オリンピックで金メダルをとったからには多少注目もされると思います。吉田沙保里さんなどもテレビに出てレスリングのことを話してくださっていますが、私自身もレスリングの良さを伝えていく立場として少しずつ勉強していきたいと思います。先輩方が偉大過ぎますが、私もその伝統を引き継いで常に見習っていきたいです。

――友香子選手や梨紗子選手を見て、スポーツをやりたい、レスリングを始めたいという子どもたちも増えると思います。そのような子どもたちに対して、こんな風に楽しんでほしいというメッセージがあれば教えてください。

 まず、目標を立てることが大事だと思います。それに向かって頑張ることで結果が出せたら喜びを感じられます。もし結果が出せなかったとしても、その過程が自分の人生の中で今後に活きてくると思いますし、競技だけじゃなくて自分自身を人間として成長させてくれると思います。

――素晴らしいメッセージをありがとうございます。私も目標を立てて頑張ろうと思います(笑)。今後ますます注目を集めると思いますが、レスリング界のヒロインとしてますますのご活躍を願っています。

 ありがとうございます。

■プロフィール
川井 友香子(かわい・ゆかこ)
1997年8月27日生まれ。石川県出身。両親や姉の影響を受け7歳でレスリングを始める。2018年世界選手権銀メダル、19年世界選手権銅メダルを獲得。21年、オリンピック初出場となった東京2020オリンピックでは、女子フリ―スタイル62kg級で金メダルを獲得。(株)ジャパンビバレッジホールディングス所属。

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