コラム/インタビュー

アスリートのためのカンタン栄養学

試合日の食事

15年ほど前、インターハイや国体の会場で、サービスコーナーを出してスポーツドリンクの提供をしていると、決まってコーチの方から「飲んでパワーが出るものないかな。ドリンク剤みたいな」と言われた。そんな時は、「エネルギーのもとは糖質です。このドリンクに、ビタミンとクエン酸を配合したものがこれです」と、ゼリータイプのサプリメントやブドウ糖のタブレットを薦めたものである。

結果的にはそれで良かったが、本来、試合前だけ急に栄養を考えても手遅れなのである。それでも、もっと昔のように『敵に勝つにはビフテキとトンカツ』というゲンをかついで、胃がもたれたまま試合に出て、せっかく練習で培った競技力を台無しにするよりはましだけれど。

試合の日の食事は仕上げの栄養なので、ココロとカラダに負担をかけず、エネルギーを満ち溢れさせ、気分をシャッキリさせる必要がある。専門的に言うと、運動と脳のエネルギー源となる筋肉と肝臓のグリコーゲン量を充分に高めておく必要があり、どの競技種目においても、脂質は控えめ、糖質をしっかり摂ることが試合前の食事の大原則といえる。また、同時にエネルギー代謝に不可欠な、ビタミンB群や体調を整えるビタミンCを多めに摂ることも必要となる。

食事写真2
写真2 試合前の軽食
(2004年アテネオリンピック選手村食堂にて)
主食:おかゆ おかず:ハム、ゆで卵
野菜:ねぎ(みそ汁)
果物:りんご、スイカ、バナナ、100%オレンジジュース
乳製品:なし

「栄養フルコース型」の食事で表すならば、主食と果物を多めにする。これならば、胃腸に負担をかけることも少ない。おかずは、消化に時間のかかるようなステーキ肉や、トンカツなどの揚げ物は極力控えるようにする。昔は、西洋人は肉を食べて試合に出ていたが、それは普段と同じ食事で試合に出ていただけ。その西洋人もいまや試合前はパスタだ。その他に、なま物や刺激物、腸内にガスが溜まりやすくなる食物繊維の多い根菜類なども控え、なるべく普段食べなれている食品を選ぶのがポイント。写真2にアテネオリンピックの選手村で調製した、試合前の食事のモデルメニューを掲載しておこう。

試合前・試合後の食事

さて、いざ試合開始の時には、胃の中は空っぽ、でもエネルギーは満タンという状態がベスト。そこで試合開始時間を逆算し、3〜4時間前には食事を終えておこう。
食事を摂ってから試合開始までに時間が空く場合は、1時間前までにおにぎりやバナナなど糖質中心の軽食を摂るようにし、1時間を切った場合は、固形物は消化が間に合わないので、エネルギー補給用のドリンクやサプリメントを利用するといい(図2)。

図2 栄養フルコース型の食事
図2

図2 栄養フルコース型の食事
図2

また、1日のうちで予選、準決勝、決勝と戦い、試合間隔が開く場合の補給に際しても、スタート時間を考慮して、消化の悪いものは控え、吸収の速いゼリーなどを用意しよう。時間がないときはブドウ糖のタブレットなどが有効だ。

試合が終った後は、好きなものを食べてかまわないが、カラダを速やかに回復させるためには、筋グリコーゲンの蓄積と筋肉の修復を促す意味で、糖質とタンパク質をしっかり補給したい。それも、運動後30分以内がいいので、食欲がないならゼリードリンクやプロテインで、食べられるなら菓子パン、バナナやおにぎりに加えて、牛乳やヨーグルトドリンクで補給しておけばよい。直後の補給は、エネルギーを使うモードになっているカラダを、スイッチを切り替えてエネルギーを貯めこむモードにする働きがある。これに、緊張やプレッシャーなどで消耗したビタミンCの補給もしっかり行い、翌日に備える。アミノ酸を使う場合は、運動直後がタイミングとしてはいいだろう。

かなり疲労して食欲がない場合には、消化の良いおかゆやうどんなどを食べておき、その他の栄養はサプリメントで補給しておくと回復が早まると思う。ぜひ、自分なりの試合日の食パターンをつくっておこう。

杉浦 克己(すぎうら かつみ)

日本オリンピック委員会 情報・医・科学専門委員会科学サポート部会員。ザバス スポーツ&ニュートリション・ラボ所長。明治製菓株式会社に勤務するかたわら、日本陸上競技連盟科学委員、全日本柔道連盟科学研究部員や2002年日韓ワールドカップ栄養担当を務めるなど、専門分野で幅広く活動している。1998年にスポーツ栄養の研究で東京大学より学術博士を取得。近著に『勝つカラダをつくる!プロテインBOOK(スキージャーナル 2000)』がある。


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