JOC
 / オリンピック / 北京2008 / 北京現地報告
  
BEIJING 2008

北京現地報告

文:共同通信社 松村圭 写真:共同通信社


北京空港に降り立ち、車で市の中心部に向かう。林や畑が広がる風景を10分も走ると、両側には背の高いビル群が見え始める。その間には空中に向けクレーン車が並び、また、新しいビルが建てられている。片側3車線以上ある高速道路を埋める車。一歩、車の外に出ると、種々雑多な人々が立てる喧噪が広がる。北京オリンピックを1年後に控える中国の首都は、さまざまな人が発散するエネルギーが渦巻いている。

新首都建設、時代のうねり

写真
北京オリンピックのメーンスタジアム通称「鳥の巣」=2007年4月撮影

市の中心にある天安門広場から約15km北に位置するオリンピック公園。「鳥の巣」のニックネームを持ちメーン会場となる国家体育場や、「ウォータキューブ」と呼ばれ、透明な素材の外壁が斬新な国家水泳センターなど、北京オリンピックの競技場が徐々に完成に近づき威容を表しつつある。北京オリンピックでは、同公園内を中心に新しく作られる競技施設と既存施設を改修するものがそれぞれ14、仮設のものが9つある(北京以外の会場も含む)。

今年5月にはメーン会場の屋根部分の外装を請け負うドイツの会社が倒産したり、7月には北京大学構内で完成まで1カ月と迫っていた卓球会場で火災が発生するなど、関係者を心配させる出来事もあった。しかし、いずれも被害は最低限に止まり、メーン会場は来年3月、その他はすべて年内に完成する見込みで、予定通りに進んでいる。

北京オリンピック組織委員会などによると、こうしたオリンピック施設の建設現場で働く労働者は、工事のピーク時で30,000人。さらに、オリンピックに合わせて建設されている道路や地下鉄工事などを含めると、その数は数十万人になると言われている。こうした人々のほとんどは貧しい農村などからの出稼ぎ労働者。中には日本の正月休みにあたる中国の伝統的な春節(今年は2月中旬)にも休まず働く労働者もいて、しばしば労働条件や待遇が問題として取り上げられている。終戦19年目に開催された東京オリンピックの前夜、地方からの大量の労働力を動員して新首都建設に邁進した当時の日本を彷彿とさせる、大きな時代のうねりを感じずにはいられない。

「北京オリンピックは改革開放で発展した新しい中国の姿を世界に示す場だ」。これは、スポーツ界の指導者ではなく、胡錦濤国家主席の言葉だ。まさにオリンピック開催を契機に、「真の意味での大国」に脱皮しようとの国を挙げての意気込みが伝わってくる。

市民生活にも変化呼び込む

一般市民の生活の中にも、どんどんオリンピックが入り込み始めている。主だった新聞は、オリンピックコーナーを設け、有力選手の情報や過去のオリンピックであった歴史的出来事、また、オリンピックに向けての北京市内の交通や環境問題への対策に関するものなど、幅広い情報を扱っている。

市内には至る所に「迎奥運、講文明、樹新風(オリンピックを迎えるに当たり、マナーを守り、新しい気風を打ち立てよう)」という標語が掲げられ、市民のマナーアップを呼びかける。今年2月からは毎月11日が「整列の日」と定められ、地下鉄やバス乗り場に係員が出て、整列乗車を呼びかけている。

列に割り込む、大声で騒ぐ、ところ構わず路上でたんを吐く、歩行者を優先しない車など、中国人の生活マナーは評判がいいとは言えない。また、2004年北京で行われたサッカーのアジアカップ決勝の中国−日本戦でも見られたように、相手のミスを喜んだり、試合結果の腹いせに街で暴徒化するなど、スポーツ観戦の現場でも決して褒められない“事件”もあった。

外国人を顧客とする会社で働く北京市内の女性職員(37)は「世界からたくさんの人が来るオリンピックで、本当に中国人が恥ずかしいことをしないか心配」と言う。こうした懸念は、実は招致が成功してから市や中央政府の幹部がオリンピック開催都市としての北京が抱える最大の欠点として口にし続けてきたものでもある。

何とかマナーを向上させようと、北京市では「文明礼儀普及読本」を作り、各家庭や職場などに300万冊を配布。中身は「まめに歯磨きや入浴を行い清潔に」などといったもので、はっきり言って子どもに教えるような内容だ。しかし、中国側からすれば、これまでのメンツをかなぐり捨てた努力だと言える。中国自らが最大の不安点であると認めてきた人間の資質。北京オリンピックを契機に、市民一人ひとりが変わって“文明国”となるのか。それは北京オリンピックが一人ひとりの心に何を残すのかということでもある。

1/2 次のページへ


北京2008へもどる