OLYMPIAN2017
5/40

05ねて調整しているので、演技が終わった瞬間に「練習してきて良かった」とか「この練習がこの成果につながった」と思える瞬間がないと、「練習がつらい」と感じてしまいますよね。昨シーズンが良かったから、今シーズン余計にそう感じたのかもしれません。今シーズンも成長できた部分はたくさんありましたが、多くのものを求め過ぎた分、悔しいという気持ちが強くて、試合を楽しめないことも多かったのは事実です。ただ、来シーズンは、苦しい中戦ってきたことが報われるシーズンとなるはずなので、試合も楽しみたいと思っています。——来シーズンはいよいよオリンピックです。そして、連覇のチャンスがあるのは、羽生選手しかいません。羽生 皆さん、「集大成」という言葉をよく使われますよね。でも、どんな試合でも一つ一つに自分の全てをかけているので、オリンピックでも同じように、また自分の全てをかけたいと今は思います。あとは、舞台に立ったときに、「これだけ練習してきたぞ」と胸を張っていられる状態にすること。それが一番大事なので、そのためにも、またこのオフから時間を大切に使っていきたいと思います。チャレンジだった今季——ソチオリンピックで金メダルを獲得した後、この広報誌OLYMPIANの取材で「特別な立場の人間になったことで、たくさんの人に伝えなければいけないことがある」という決意を答えていらっしゃいました。その後、金メダリストとして、何か変化や成長を感じていますか。羽生 ソチオリンピックは劇的なターニングポイントだったと思いますが、3年たってどうかと言われると、あまり変わりはないかもしれません。ただ、例えば、2シーズン前のグランプリシリーズ中国大会でのこと(試合直前の6分間練習で他選手と衝突したアクシデント)をはじめ、昨シーズン世界最高得点を更新したときや、今シーズン世界選手権で優勝したときなど、それぞれのシーンで良くも悪くも大きく注目を集めることがありました。注目されることは嫌いじゃないですし、自分が結果を出すことで喜んでもらうと、自分が好きなことにチャレンジすることを無条件で支えてくださる方がたくさんいることに気づかされ、改めて感謝しなきゃいけないなという感覚があります。——今年はオリンピックのプレシーズンでしたが、ご自身で振り返ってみて、どのような感触をつかんでいますか。羽生 もちろん、ショートプログラムでは、すごく悔しい思いもして、なかなかうまくいかなかったなという感覚もありますが、思ったより良くできたと思います。 シーズンが始まるときに、今はノーミスの演技ができなかったとしても、オリンピックシーズンを見据えてチャレンジしようと思っていたので、最終的に世界選手権のフリーで完成できましたし、自分の中では、思ったよりも成長できたと感じています。苦しさと楽しさの間で——オリンピックまで1年を切りました。目標や課題をどのようにとらえていますか。羽生 オフシーズンだからこそケガをしないように注意しなくてはいけないと思います。昨シーズンはオフの間に練習ができなくて、苦しい思いをして焦ったこともあり、まずは健康な体があることが大事だと感じています。シーズン中の体調管理やケガも気を付けなければいけませんが、オフはまた違った気を付け方があります。オフだからこそ体を追い込む練習ができる、という面もありますが、逆に気を付けなければいけないということもありますよね。練習の質や効率と、体のリスクのバランスをとりながら、頑張ろうと思っています。——トレーニングについて、ここを強化しようというイメージは具体的にありますか。羽生 具体的にはまだないです。目標を明確にし過ぎることで、それを自分の限界に感じてしまうのもイヤなので。今は、本能の赴くままに滑ろうと思っています。オフシーズンだからこそいろいろな練習ができるので、スケートを思い切り楽しみ、自分を見つめ直し、幅を広げられるように練習したいですね。——お話を伺っていると、スケートを極めていく苦しさも感じられます。苦しさと楽しさのバランスをどのように感じていますか。羽生 実はシーズンインした後はあまり楽しくないです(笑)。試合のために練習をしなくてはいけない気持ちになり、「スケートが好き」という思いから離れちゃうこともあります。というのも、勝利に向かって全力で練習をするわけですから、試合で勝てなければ楽しくないですし、いい演技ができなければうれしくないからです。 僕たちの競技は、ショートとフリーを合わせても7分半ぐらい。たったそれだけの時間のために、日々練習を重

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る