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ロンドン2012


ライフル射撃 RIFLE_SHOOTING

見どころ

 1発が10点満点の本選結果の上位者8名(ラピッドファイアピストルは6名)によるファイナルで、1発が10.9点満点でわずかな弾着の中心からのずれで毎回順位が入れ替わりながら、メダルを競う経過がもっとも劇的で、見ごたえがある。

日本ライフルチームの目標

 バルセロナ五輪以来途絶えているライフル射撃での六つ目のメダル獲得を、今回のロンドンで何としても実現させることが目標である。今回のライフルチームは3名と少数だが、五輪2回目の松田知幸小西ゆかりのベテラン勢、五輪初挑戦の谷島緑という構成で少数精鋭のチームとなった。さらにここにきて特に調子を上げている選手が多く、20年振りの五輪メダル獲得のチャンスを是非ともものにしたい。

日本チームの特徴 有力選手

◆ 世界ランキング1位で金メダルの期待がかかる松田
 松田知幸(神奈川県警察)は、現在絶好調で最もメダル獲得が期待される選手である。彼は五輪の前哨戦である今年4月の国際射撃連盟ワールドカップロンドン大会の50mピストル男子で1位となっている。2010年の世界選手権で50mピストル男子、10mピストル男子の二つの金メダルを取って日本人第1号のロンドン五輪出場権を獲得したのを皮切りに、2011年3月WCシドニー大会でも二つの金メダル、さらに6月の同ミュンヘン大会の50mピストル男子で優勝しており、2010年以降世界選手権、ワールドカップの50mピストル競技では4回の優勝、10mピストル競技では2回の優勝をしている。

 現在の50mピストル競技の世界ランキングは1位(H24.5月1日現在)となっており、金メダルが期待されている。彼のピストル射撃の特徴としては、まずその安定してリラックスできたフォームから50m先の標的の中心、直径5cmの10点圏に何発でも続けて入れられる抜群の射撃センスがあげられる。さらに持ち前の飄々とした性格に加え、射撃強国ブルガリアで何人もの五輪メダリストを育てたエミールコーチから指導を受けたメンタル技術で、精神面の強さにも磨きがかかり、どのような状況のときも決して内面の苦しさ、葛藤を見せないで、落ち着いた笑顔で自分の射撃が続けられるところである。

 4月のロンドン大会で優勝した際には、第3、第4シリーズ20発のうち最初と最後が9点であったが、他は連続で18発の10点を入れるなど、抜群の安定性で優勝を決めている。前回の北京五輪では、初出場でなおかつ銃の故障に悩まされながらも8位入賞している。今回は世界の第一人者のしての実力が問われる五輪となっており、本人もメダルを意識している。ロンドン五輪開会式は7月27日、翌日は松田の出場する10mエアピストルの予選と決勝がある。

 松田は言う。「日本人で最初に五輪を決めたので、メダルも最初に取りたいですね。」 彼の活躍に期待したい。

◆ 今年1月のアジア選手権金メダルの谷島
 今回五輪初出場の谷島緑は、今年1月の五輪最終予選であるカタールでのアジア選手権に臨み、50メートルライフル伏射で優勝し見事五輪初出場を射止めた。

 谷島は、高校時代にエアライフルでインターハイ3位となり、大学への進学も勧められたが、自衛官になりたいという希望が強く、高校卒業後自衛隊体育学校に入隊した。自衛隊体育学校では、先輩で北京五輪出場の山下敏和選手の後塵を拝することが多く、昨年は海外試合での実績もファイナルに出場することもなく、国内では山口国体の伏射で優勝した以外はさしたる結果もなかった。しかし、体育学校に所属しているからには、五輪に出たいという意識は強く、男子ライフル射撃競技でも特に伏射競技は、2007年に当時の日本タイ記録598点を樹立した得意種目でもあることから、自信を持っており、ロンドン五輪出場権がかかる最後の試合であるアジア選手権に賭けていた。

 今年1月、カタールのドーハで開催されたアジア選手権の射撃場は、砂漠特有の、止むことなく強弱をつけて吹く風が吹いており、4年前に同じ中東の地クエートで行われた北京五輪予選のアジア選手権を思い出させた。そのときは谷島は4位でファイナルに進出し、五輪出場権が目の前にあったにもかかわらず、8位に終わっていた。

 今年のアジア選手権では、強風で各国有力選手が点数を落とす中、593点の3位でファイナルに臨んだ。1位は中国選手の594点で1点差。下位の7位には2点差で先輩の山下がいる。しかも強い風が吹いており、それくらいの点差は無いに等しい。 谷島は、前回のアジア選手権での失敗を糧に、自分の射撃をするように心がけ、ファイナルに入って冷静に、10点が来る風の時だけに撃つようにして射撃を続けた。とはいうものの1発にかけられる時間はたったの45秒。これを過ぎると0点となってしまう。風を読みながら着実にしかも時間と闘いながら10点を撃ち続け、ファイナル3発目で1位になると、4発目はなんと標的の真ん中に当たる10.9点をたたき出し、その後一度も首位を譲らずに優勝した。

 今回のロンドン五輪が開催される射撃場は、4月のワールドカップの時にも風が強く吹いた。悪天候の時にこそ、谷島の強さが発揮される。ロンドンでもメダル獲得を目指して頑張って欲しい。

◆ メダルを狙う小西ゆかり
 ピストル射撃を始めて4年という短期間でアテネ五輪に出場をはたしたものの、五輪特有の雰囲気に実力が発揮できなかった小西。しかし今回は違う。結婚、自衛官を退官し主婦業、そして結婚が破たんして昨年末の離婚といろいろなことがあった。2010年世界選手権の25mピストルで4位に入り日本女性第1号のロンドン五輪出場権を獲得。しかし当時本人の調子は、家庭のことや生活のことがあり、本調子とは程遠かった。勝敗にこだわる状況ではない精神状態の中で、かえって何も考えずに競技して、無心で獲得できた出場権であった。その後も収入がない中で貯金を取り崩しながら競技を続ける生活で、満足できる練習環境とは程遠かった。しかしながら、今年4月にJOCアスリート支援プロジェクトのアスナビの活動に参加していた小西を見初めた飛鳥交通(株)に就職が決まり、生活の基盤が確保できた。

 小西の強みは、速射がうまいことである。日本のピストル選手は、普通はエアピストルから初めて、次に火薬を使う装薬ピストル競技を始める。火薬を使うので、装薬ピストルのほうが反動も大きく標的に当てるのはエアピストルよりも難しい。ところが、小西は自衛隊隊員であったので、最初の銃は64式小銃が原点であり、銃に反動があるのは違和感がない。

 ピストル競技も最初に装薬ピストルを使う25m競技を始めている。反動がある銃に慣れている上、速射で要求される判断の速さに対する能力が高いため、速射の点数が良い。精密で点数を上げることが課題であるが、もし精密でかなり上位に入れば、ファイナルに残る可能性は高まるし、ファイナルに進出すれば、ファイナルでは速射の20発を撃つので、逆転のチャンスが大きくなる。

 4月のロンドンプレ大会、5月のワールドカップミラノ大会、同ミュンヘン大会と連戦し、手応えをつかんできており、今後、国内合宿、ブルガリア合宿と合宿を重ねて調子を上げ、悲願のメダルを手にして欲しい。それを実現する環境はすべて整った。

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